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***

新年。
せっかく年が明けたのだが、朝から空は分厚い雲に阻まれ、深々と雪が降っていた。
テレビの天気予報ではこれから明日の昼まで降り続くらしい。
昨夜家族が帰ってくる前に結ばれた僕たちだが、体の負担が大きく、近所の神社に参拝できたのは昼過ぎだった。
何ともいえぬ腰の重みと、未だに広文のが腹に入っているような感覚に慣れない。
だけど嫌な感じではなく、むしろ疼くような気がして恥ずかしくなった。
ひとり腹を撫でて思い出し笑いをする。
大晦日の夜までギクシャクした関係だったのに、翌日からは例年通りの仲良しな二人に戻っていたから親戚は首を傾げた。
以後、数日べったりして離れる気配はない。
本当は例年以上の関係になっていた。
それを親戚の誰もが知る由なかった。

「……んっ、ダメだってば…っ」

台所で頼まれた洗い物をしていると、後ろから抱きしめられる。
泡だらけの手で払う素振りを見せた。

「大丈夫だよ。みんな居間でテレビ見てる」
「だからって、もし覗きに来たら」

広文は僕の反応が怖いと言っていたが、あれは紛れもなく嘘だ。
じゃなくちゃこんな風に行動的になれない。
抗おうとする僕の反応を楽しんでいるのだ。
ずいぶん悪趣味な意地悪である。

「湊、好きだよ。今すぐしたい」

耳に息をかけるみたいに囁かれて身震いした。
体を繋げた翌日から、よくこうして迫られてはうろたえる。
そういう時の広文の声はいつもより低く掠れて艶やかだった。
男の僕でも色気を感じてドキっとしてしまう。
同時に疼いた下っ腹に、内股になってモジモジした。

「ん、あぁっ…んぅ、昨日の夜だって…したのに…っ」

広文の手がシャツの中に入ってくると、肌の上をなぞる。
必死に声を我慢しながら洗い物の続きをしようとするが、触られている部分が気になって集中できなかった。
桶に溜まったお湯が溢れて湯気がのぼる。
体中いやらしく触られて突っぱねられなかった。

「うん。昨日もたくさんしたよね」
「ひぁ、んぅ…っ、声出ちゃぁ…っ…」
「湊ってば俺の上に跨ってすごい可愛かった」
「やだぁっ…言わないでよっ…」

かぶりを振るが、体はほとんど力が入らなくてカクンと膝が折れてしまう。
昨夜は、みんなが寝たのを見計らって離れで落ち合った。
母屋の東には離れに通じる廊下があって、辿ると現在は物置として使われている小部屋に着く。
父親が小さかったころは母屋も分家も部屋が足らず、ゲストルームとして使っていたらしい。
僕たちはそこでもエッチなことをした。
両親が寝静まったころ、もそもそと部屋を出る背徳感と、離れへ続く廊下で待っている広文を見つけた時のワクワクとした気持ちは計り知れない。
嬉しさに抱きつくと、そのまま抱っこされて離れへ連れて行かれた。
暖房器具もない冷えた部屋で、息を白く染めながら、互いの体で暖をとって抱き合う。
誰にも聞かれないよう声を抑えるたびに、興奮は渦を増して夢中になった。
見つからないよう電灯もつけず、月明かりを頼りに求め合う。
深い闇は普段より感官を鋭くして、刺激が強かった。

「はぁ…ぁっ…きもちいいよぅっ…」

初めての時は違和感ばかりだった体が変化を見せる。
きつく閉じられていたお尻は、広文の手で弄られるたびに緩み、その性器でこじ開けられた。
古びた柱に掴まり、後ろから激しく犯されて涙が溢れる。
快楽の虜になると、頭が真っ白になった。
寒い部屋で汗ばんだ肌からは僅かに湯気がのぼる。
広文の責めは執拗で、気が狂いそうなくらい弄られた。
体中彼の涎にまみれて蕩けながら、なすがまま上に乗っかり腰を振る。
両親がもしトイレに起きて僕がいなくなったことを知ったら大事になるのに、本能に抗えなかった。
朝方まで秘密の情事に耽ると、物足りなさに別れのキスを繰り返し手を離した。
次に会った時はいつも通りの二人に戻っていて、怪しむ者はいなかった。
そうして逢瀬を重ねるたび大胆になっていったのか、ところ構わずキスをするようになった。
廊下ですれ違った時、コタツで寝転がっている時、雪掻きをしている時。
恋は盲目。
僕も我慢できなくなると、人気のない部屋へ引っ張ってキスをねだった。
壁に押し付けられて背伸びをすると甘い口付けをしてくれる。
そのうち激しくなって舌を絡めて鼻を擦り合わせた。
呼吸も忘れて唇に酔いしれると、広文によって胸元ははだけられて、衣服によって隠されていた鎖骨の下に痕を残される。
体格差のある肉体をいやらしく擦りあい、濃厚なキスを再開させた。
触れては離れて、離れては触れて、合間に「好きだよ」と呟かれるたび、僕は恍惚となる。
浅い息をもてあました唇は乾く間もなく濡れる。
貪欲な口付けは頭の中まで舐め回されているようだ。
上あごを舌でなぞられてゾクリと震える。
部屋からはいつまでも卑猥な水音が響き渡った。
欲情しきった表情で互いの口許を舐め合うと、不審に思われないよう時間差で居間へ戻る。
体は火照りをもてあまし、今すぐにでもエッチなことをしてほしかった。
とはいえ、さすがにまずいと分かっているのか、二人は疼きを募らせて夜を待つ。
昼間の鬱憤を晴らすように激しいエッチになるのは当然のことだった。
一緒にいられる時間は限られている。
だから僕らは歯止めが利かなくなっていたのだ。

「はぁ、んっ…広文がこんなにエッチなんて知らなかった…」

鼻息荒く首筋を吸い付かれて、悩ましげな吐息が漏れる。
早くお皿や茶碗を洗わなくちゃいけないのに、集中できなかった。
勃起した性器を扱かれて、立っているのもしんどい。

「湊が言ったんだろ。本音を言えって。だから俺は我慢するのをやめた」
「あぁっ、そこっ…んぅ…っふ……」
「本当はずっとこうしたかった。一日中湊のことばっか気になって、触れたくてたまらなくなってるんだ」
「んくっ…はぁっ、えっちだようっ…!」
「そうだよ。こんなむっつりスケベ、どこが誠実なんだか。みんなに言ってやれば良かったのに」
「…っんぅ…い、いえないよ…っ」

先ほどまでの宴会では、散々広文は誠実だ、今時珍しい好青年だと囃したてられていた。
近所のおばさんたちも巻き込んで大賑わいだった。
村にはほとんど若者はおらず、ゆえにいつも話題は広文に集中するのだった。

「ずっと湊と二人っきりになれる時を狙っていたのに、どこが好青年なんだか」

切なげな眼差しで見られて眩暈がする。
肉欲に溺れた広文は、あまりにいやらしくて格好良かった。
親戚にも色気が増したと騒がれていたが、確かに初体験以降どこか雰囲気は変わった。
僕もドキドキするよりムラムラして焦ることがある。
今の広文にはそんな魅力があった。
ゆえに恥ずかしいことでも従順に従ってしまうのかもしれない。

「湊…好き。離れたくない」
「んぅ…」

お尻に硬くなった性器を押し付けられて身悶える。
同時に穴が疼いて無意識に腰を振った。
その様子に彼は笑みを深くして髪に口付けてくれる。
(…エッチなのは僕もだ)
内心求められて喜んでいる。
胸の奥がきゅんってして恍惚となった。
首にかかる吐息がくすぐったくて身を捩る。
その間に僕のズボンとパンツは一気に下げられ思わず我に返った。
慌てて振り返り、居間へと続く廊下を見る。
尻を丸出しのところを見られたら言い訳のしようがない。

「今朝方までしてたんだ。このまま挿れてもいいよね」
「はっ…ちょっ…っい、いきなりはっ――!」

ダメだと止めようとしたが、尻の穴に性器を宛がわれてしまった。
力を込めて一気に挿入されると、内部は悲鳴をあげる。

「―――っぅ――!」

強引に奥まで犯されて、声を噛み殺した。
ギチギチに入りこんだ内壁は、いきなりの質量を咥えこんで痙攣を起こしている。
その衝撃に下半身は使い物にならず、僕はシンクに全身を預けたまま身悶えた。
給湯器から流れる水音が異様に響く。

「はぁ…ぁ…ぁっ…ぁっ…」

小刻みに震えながら、僕の性器は痛いくらい勃起していた。
いきなりの挿入に浅くしか呼吸が出来ない。
痛みより快楽が上回ったのは、きっと朝方まで肛悦に耽っていたからかもしれない。

「ひぁ、あっ…!」

すると下っ腹をゆるゆると撫でられた。
その卑猥な手つきに思わず嬌声が漏れる。
慌てて手で覆ったが後の祭りだった。
他の誰かに聞こえていないだろうかと忙しなく周囲を見回す。

「ひ、広文のバカ」
「ごめんごめん」

彼は謝っているのに、にやけてばかりでちっとも詫びろうという気持ちが見えなかった。
それどころかしっかり腰を掴み、打ちつけ始める。
さすがに長時間こうしているのは危ないと判断したのか、動きは性急で激しさは増した。
僕は突かれるたびに腰を捩り、広文に操られるように狂おしく肉を躍らせる。
その姿がテレビで見た動物の交尾みたいで恥ずかしかった。
一心不乱に精を吐き出さんと躍起になっているオスと広文を重ねて卑猥な気分に浸る。

「んっ…んぅ、っんっぅ…ふっ…」

必死に唇を噛み締めて声を抑えた。
くぐもった声が台所に木霊して、羞恥心が増す。
しかし広文の抽送に夢中なのも事実で、こらえるのが大変だった。
なすがままシンクにしがみついてお尻を掘られる。
まだ彼が台所にやってきて十分も経っていないのに。

「はぁっ、搾り取られそうだ」

まろみのある尻を揉みながら、気持ち良さそうに呟かれた。
内壁は与えられる刺激に悦び、不規則な収縮を繰り返す。
吸い付くよう挿入される性器を模っていた。
形を覚えて馴染むと、余計に疼きは酷くなって、快感に呑まれる。

「くぅ、んっ…ひろふみ…っ…ひろふ、みぃ…っ」

舌が回らず媚びたような口調になる。
すると理解したように奥を突いてくれた。
馬鹿みたいに腰を振って、亀頭を腸壁に擦りつける。

「あっ…そこ……っ…」

突いて欲しかったところをしつこく突き上げられて口許が緩んだ。
性器が脈打っているのを内部で感じながら恍惚となる。
だが気持ちよさに酔いしている場合ではなく、さっさと情事を終わらせなければならない。
僕は広文のもてあます性欲を静めるために、家事途中で服を剥かれてしまったのだ。
下半身だけ丸出しでいいように肛姦されている。

「早くっ…はぁっん、早く…っ」

意識的に括約筋を締めようと、腰を振りながら広文の動きに合わせて押し付けた。
まるで誘っているかのような仕草で、恥ずかしいが躊躇うわけにもいかず求める。
すると彼の性器は硬さを増した。
下半身から手を離し、ぎゅっと抱きしめてくる。

「あぁっ…っぅ…んぅ、ふぁ…!」

密着する体に甘い声が漏れた。
広文の匂いに包まれてくらくらする。

「も、湊は…どこでそんな誘い方覚えてくるわけ…?」

掠れた声が耳を犯し、さらに腸管を締め付けた。

「ただでさえ湊中毒で、四六時中セックスしていたいのに…俺、お前に溺れそうっ……」

困惑したように笑った声が耳元で響く。
何度も「違うっ」と首を振ったが、言葉らしい言葉にならず喘ぎ声にしかならなかった。
愛しそうにうなじや耳にキスをされて、啄ばむ音が感官を支配する。

「いいよ。湊の望むがままに出してあげる」
「ひぅっ…っ…!」

ゾクリとするほど艶かしい声で囁くと、僕の陰茎を握った。
ガマン汁を垂らしていた性器を扱き始める。

「んぅ…っんっんっんぅ…っふ…ぅっく…」

前も後ろも刺激されて身じろぎひとつ出来なくなった。
かろうじて漏れた呻きが痛々しくも卑猥で自らを煽る。
気遣いのない、ただ射精するためだけの動きに、興奮して気が変になりそうだった。
(僕だって広文の体に溺れそう)
明日はもう東京へ帰る日の前日である。
彼とまた離れ離れになるかと思うと、身が引き裂かれそうだ。
次に会えるのは八ヶ月後である。
冬から夏にかけての方が長くて、歯がゆさに胸元を掻き毟りたくなる。
一晩寝ると一ヶ月先まで日付が飛んでいれば八ヶ月なんてすぐなはずなのに。
両親はよく、

「二十歳すぎると、怖いくらい時の流れが速くなる」

なんて言うが、今の僕は遅すぎて地団太を踏みたいくらいだった。
本当は一分一秒離れることすら耐えがたい苦痛である。

「はぁっく…出るっ、湊のお尻に出すよっ!」
「んぁあっ、して…っいっぱい…いっぱいっ、して…っ!」

僕は扱かれていた性器から白濁液を飛ばした。
絶頂に達して顎を突き上げたまま固まる。
背中を駆け上がっていく快感は強く、いつまで経っても慣れなかった。

「ひぁ…ぁ…っあっ…あっぅ…」

同時に広文の精液が腸内に流れ込んできて、熟れた内部は熱い汁で満たされる。
広文は最後まで抜かず、奥まで植えつけるように抽送をやめなかった。
敏感な内壁を擦られて体中に電気が走る。

「はぁ…はぁ…き、きもちいいよぅ…っ…」

うわ言のように呟くと、力が抜けてその場に崩れ落ちた。
シンクの下の棚にはべったりと僕の放った精液がこびりついている。
それが垂れて下へと落ちるさまは、あまりに淫猥で、無意識に舐めとっていた。
赤い舌を突き出して巧みに這わす。
そうして縦横無尽に舐め回していると影が出来た。
振り返ると広文が息を呑んでじっと見つめている。

「エロすぎでしょ」
「ふぁ、……」
「俺のも舐めてよ」

顔の前に出されたのは、僕のお尻を犯しまくった彼の性器で、躊躇なく咥えこむ。
だが大きさに苦しくなって咳き込んだ。
そんな僕の頬に性器を擦りつけて「マーキング」と笑う。
意味が分からず、求められるがままにペロペロと舐めた。
犬みたいに亀頭から裏筋、陰嚢にいたるまで綺麗にする。
その間中、ずっと広文は頭を撫でてくれて、僕は嬉しさに浸りながら綺麗にした。

「もういいよ」

一通り済むと体を離された。
その時の僕の顔が物足りなさそうだったのだろう。
彼は僕の性器を綺麗にすると、脱いだ服を着せて隣に立つ。

「洗い物早く終わらせよう。手伝うからさ」
「広文……?」

スポンジを持った彼は極上の笑みを見せて、僕の額に唇を落とした。

「続きは風呂で可愛がらせてよ」
「……っ……!」
「俺が隅々まで洗ってあげる」

一瞬で僕の顔が赤く染まったのは言うまでのない話である。

 

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