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「離婚の際に何かあったのか?」
「お金と親権について揉めました。数年前母親は男が出来て家を出ていったんですが、ある日離婚届を持って現れました。仕事で忙しい父親に親権はあげられないと言ったそうですが、実際は養育費目当てで、多額の金銭を要求したようです。一方父親も今さらやり直す気はなく、離婚は了承したのですが、男と逃げておいて養育費の請求はおかしいと不服の申し立てをして裁判になったんです。尤も父親は親権なんていらなかったみたいですが……」
「そんなっ」
「とはいえ、母親に金を渡すのはもっと嫌だったのだと思います」
「まさか……それで父親が親権を得たのか」
「まぁ、元々母親側が勝てる裁判ではなかったんですよ。馬鹿だったんですね。結局彼女には一銭も支払われないで終わりました」

加持の父親とは家庭訪問の際に会っているが、そんなことは微塵も感じさせないほど良い父親だった。
シングルファーザーという特殊な家庭環境に加えて忙しい仕事を持ち、家事と仕事を両立させているのは尊敬に値する。
良い家に住んでいたし、父子の仲も良かったから、良く出来た父親という印象を抱いていた。
彼の語るご立派な教育論に、若い住田は押されて頷くことしか出来なかった。
だがもしそれが外用に作られた仮面であったとしたら、加持の二面性も納得できる。

「そのころから色々おかしくなったように思います。おじさんも仕事にかこつけてほとんど家に帰ってこなくなりました。今加持はひとり暮らしをしています。あの広い家にひとりぼっちで生活しています。男を誘うようになったのも、金に対する執着が強くなったのもそのころからですね」
「俺、担任なのに何も知らなかった」
「そういうものです。端から見れば良い家に住んで、幸せな生活をしているように見えます。僕の親もそう思っています。あの二人は揃って外ヅラが良いですからね。厄介です」
「…………」
「加持の性癖は否定しませんが、男が群がるのは勘弁です。そのうちきっと酷い目に合う」

加持にとって唯一の救いは川澄が傍にいたことだ。
住田は苦悩する。
自分に彼以上の理解と包み込める器の大きさがあるとは思えなかったからだ。
むしろ根本に問題を抱えているのなら、しかるべき機関や専門家のもとで保護になるべきである。

「大丈夫です。先生馬鹿そうに見えますけど熱意は伝わってきます。僕はそれを信じます」
「褒めてんだか、貶されているんだか……」
「予感です。加持はきっと先生を好きになる」

川澄はそう言い残して教室に戻っていった。
住田はその場でしゃがみこむと頭を抱える。
教師になって三年の人間には大きすぎる問題で、しかし内容が内容なだけに安易に相談は出来ない。
尤も三年という教師の期間ではなく、人間としての浅さが大きな不安になった。
普通の家庭に生まれ、問題なく育ってきた住田には世界が違う話だったからだ。
二十数年間のほほんと生きてきたせいで、理解さえ乏しい。
(俺は本当に受け止められるのだろうか)
まともな恋愛さえしてこなかった男に恋人として導くことは出来るのだろうか。
自信がなくて途方に暮れる。
(考えろ。考えるんだ)
それでも教師になってから頼られたのは初めてで、どうにかして加持の心を救ってあげたかった。
こんな自分でも何か出来ることはあるはずだ。
決意を固めて握りこぶしを作ると顔をあげる。
午後の曇り空を眺めながら不撓の気力を確かめた。

放課後、顧問の部活を終えると言われた通り体育館に向かった。
他の部活は早々に引き上げ、いつもの静謐さを保っている。
入り口にはひとつだけしまい忘れたバスケットボールが転がっていた。
手に取ったところで「遅い」と声がかかる。
その声を辿ると、舞台の袖からひょっこり加持が顔を出した。

「悪い。ちょっと長引いた」
「まったく。僕を待たせるなんていい度胸です」

腰に手を置き偉そうに反り返っているが、言葉に棘がなくて安堵する。
誘われるがまま舞台にあがるとボールを奪われた。
代わりに抱きつかれると、放られたボールは、ダン、ダンッ――とバウンドを繰り返しながら舞台を落ち、弾けるように床を流れて隅までいくとようやく止まる。

「邪魔者には大人しく退場していただきましょう」
「お前なー」

なぜか楽しそうな彼の顔を覗き込むが、恣意的行動に裏があるのか判断することは出来ない。
こうして見ればまだ幼い少年なのに、昼に訊かされた川澄の話が頭から離れなくて困った。

「……先生また抜いてあげる」

そっと手が下へと進み、股間まで伸びる。
(こんなことでいいのか)
妖しい瞳に惑わされて逡巡したまま再び流されては何も変われない。
加持が本当に望むことはなんだ。
どうすれば彼の心を満たすことが出来るというのか。

「これ以上はだめだ」
「え?」

住田は触れる手を掴むと引き離し押し退けた。

「またまたー」

軽く笑い再び触れようとする彼に首を振り後ろに下がる。
毅然とした態度に、表情は曇った。

「加持は何も分かっていないんだな」
「何がですか?デートならもう付き合ったでしょう。せっかく抜いてあげるって言っているのに。あ、お金?お金は請求しないから安心してください。一万円もらっちゃったし、一応今僕は恋人なんですからね」

二階の窓から西日が射した。
久しぶりの日差しはすぐに風で雲に隠れ、薄暗い空に変容する。
合間に射す光は強すぎて、加持の横顔だけを赤く照らした。

「セックスすれば満たされるのか。金さえもらえれば許してしまうのか」

叱責する気力すらなく項垂れる。

「俺は嫌だ。童貞だし、恋愛らしい恋愛なんてしてこなかったけど、本当に好きな人としか触れたくない。触れてほしくない」

加持がどんな趣味だろうと他人の住田には関係なく、拘泥する必要はない。
なのに悲しかった。
誰でもいいと言いたげな軽い態度で接する加持の姿に、胸が潰れそうになる。
土曜の穏やかな幸せを共有したひと時は霧のように消えた。
あれも所詮金で買われた時間だったのだ。

「僕のこと、触ってほしくないほど嫌いなんですね」

加持は沈痛な面持ちで呟いた。

「ちがっ」

まさかそんな顔をされると思わず否定するが、表情は変わらない。

「僕は先生ならって思いました。今さらどう誘っていいか分からなかったから軽くしか言えなかったけど……」
「加持っ」

顔を反らされて逃げようとした腕を掴んだが振りほどかれた。
言い方を間違えたと気付いた時には遅く予想外の反応に戸惑う。

「加持、いいから訊け!」
「はなっ、離してください。僕は本当は先生じゃなくても良いんです。他にたくさんの――」
「行くな――!」
「……っ……」

住田は咄嗟に後ろから抱き締めた。
さすがの彼も突然のことに体が固まる。

「他の男のところに行かないでくれ……」

首筋に顔を埋めながら思う。
頭ではごちゃごちゃ考えていたが、単純に他の誰かに触れている加持を想像したくなかった。
家庭の話、不特定多数の男と行為に耽っていた話はとっくに隅に置かれている。
今、この瞬間加持を手放したくなかった。
自分の望みを押し通したい。
生徒のため、加持のためなんて嘘だ。
大義名分では隠せそうにないほど、自我が顔を出している。
教師として呆れざるを得ない失態に自己嫌悪に陥るが今さらどうしようもない。
気付いてしまったら、引き返すことは不可能だ。

「僕に触れてほしくないから拒絶したんじゃないんですか」
「ごめん、違う。でもそうとられても仕方がないことを言った」

入り口からは季節に合わぬ冷たい風が吹いた。
雲に隠れている間に陽は落ちたのだろう。
抱き締める力を強くすると、その手に触れようと加持が手を伸ばす。

「お金はいらないから……触れてもいいですか?」
「加持……」
「先生に触れているとホッとするんです。本当は他の誰かじゃ嫌なのは僕の方です。最初に言うべきだったのに、今さら素直になれるはずもなく突っぱねてしまいました」

あの軽々しい言動もすべて本心を隠すための仮面だったのか。
少しでも心を開き甘えようとしてくれていたのかもしれない。
現前にある状況だけを見て臆断していたとしたら、住田の誤りだ。
いくつもの顔を使い分ける加持だからこそ、慎重に、大切に扱わなくてはならなかったのに。

「ごめん。でも話してくれて嬉しい」
「先生は隙だらけなだけじゃなく、鈍すぎです。これじゃあ童貞なのも納得です」
「痛いところを突かないでくれ」

何が隙だらけなのかいまいち分かっていなかったが、鈍感なのは認めなくてはならない。
体を離すと向き合って身を寄せ合い、額をくっつけた。
加持は背伸びをして、住田は屈む。
互いにぎこちない体勢だったが今は関係なくて頬を緩ませた。
本来ならば教師と生徒でこれ以上のことをしてはならないのだが、止められるはずがない。
舞台袖で加持が下半身に触れる。
始めは反応を見ながら恐る恐るだった。
また拒絶されるのではと不安を隠しながら遠慮がちに撫でてくれている。

「じっとしていてください。すぐ済みます」

性器を取り出すと卑猥な赤い舌で舐められた。

「んくっ……」

同時に自らのズボンに手を突っ込み扱いている。
その様子に気付くと止めさせてしゃがみ目線を合わせた。

「俺にも触らせてくれないか?」
「っでも……先生、ホモじゃないですよね?」

動揺するように揺れる瞳が印象的で、頬に手を寄せると目元にキスをする。

「でも加持のは触れてみたい」
「せ、先生……」
「よく分からない不思議な気持ちだ。でも普通のことだろ」
「んっ」
「仮にも恋人なんだから一方的なんて嫌だ。一緒に気持ち良くなりたい」

加持のズボンの上から股間を撫でると、ビクビクと反応を示している。
自分の性器を舐めただけで昂ぶっていると考えると嬉しくなった。
躊躇いなく彼のズボンに手を突っ込むと熱くなった性器は硬くヌメっている。

「あっ、あっん……」

扱いてやると加持の口から甘ったるい声が漏れた。
こんな色っぽい声を訊いたのは初めてで、つい興奮してしまうと鼻息荒く手を速めてしまう。
そうすると腕にしがみつき、もたれて腰を押し付けてきた。
耳まで真っ赤になり悩ましげに眉が下がると身悶える。

「はぁ、あぁっ……せんせ、きもちい……っ、んぅ……」
「加持……」
「僕もっ……先生の……」

震える手で住田のに触れると互いに扱きあう。
舞台の幕で隠れているため入り口からは死角になっているが、中に入ってこられたら丸見えだ。
なのに二人は性器に夢中で何も考えられない。
住田にいたっては初めて他人の性器に触れたのに嫌悪感はなく、むしろ加持の乱れた姿に惹きつけられて目が離せなかった。
そのうち床に転がると加持を跨がせて双方舐めるのに没頭する。
目の前で淫らに揺れる性器を欲し本能のまま咥えると、負けじと彼も住田のにしゃぶりついた。

「すごっ……先生が、んぅっ……僕のちんこ…っ咥えていますっ」
「ん、ふ…っ、きもちいいか?」
「きもちい…んぅはぁ…っ、あ、とけちゃいそ……っ」

初めてのフェラチオで喜んでもらえたら嬉しいに決まっている。
俄然やる気になった住田はあらゆる部分を舐め、丁寧に愛撫した。
ぴちゃぴちゃと生々しい音が響いて自身が昂ぶっていくのを肌で感じた。
体位を変えて加持を膝の上に乗せると互いの性器を重ねて擦り合わせる。
背中に回した手を徐々に下げてお尻に触れると「えっち」と笑われた。
だからといって嫌がる素振りは見せず、むしろねだるように擦り寄られた。
住田のシャツは汗まみれで生温かい。
臭いだろうに彼はこの匂いが好きだと嗅いではくっついた。
甘えられているようで悪い気はせず、尻を揉みながら満足感に浸る。
すると加持は住田の手を取りさらに下へ這わせた。

「お、お尻の穴もいじってください」

ノーマルな男に頼むのはさすがに気が引けるのか窺うような眼差しを寄こす。
大胆なくせに、時折そういった弱さを見せられると眩暈がした。
(男相手に可愛いなんて思う日が来るとは……)
少年に胸がきゅんきゅんして、こっちの方が抑えられそうにない。

「喜んで」

落ち着いて返事したつもりが、声が上擦ってしまった。
当然彼にはバレバレで「ほんと、先生可愛い」なんて耳元で囁かれる。
完全にリードしているのは加持で、年上の威厳なんてゼロに等しかった。
経験豊富な年下と童貞な年上なら軍配は前者にあがるに決まっている。
しかし童貞には童貞の良さがあった。
テクニックはないが、しつこさだけは負けなかった。

「あぁ、あっんぅ…や、あぁっ……っはぁ……」

初めてのアヌスの感触に新鮮な驚きと喜びを見出し、いつまでも穴を弄くり続ける。
新しい玩具を与えられた子供のようだ。
内部のキツさ、温かさを探り探り確かめて、どこが気持ちいいのかチェックする。
段々面白くなって、加持の反応を見ながら弱い部分を突き止めた。
そのころには指三本が余裕で入るくらいぐちゃぐちゃになっていて、加持は喘ぎ声を抑えることすら忘れていた。

「はぁ、あぁっん…も、だめですっ…おしりっ、いじりすぎです…っんぅ」
「ん、指がふやけちゃいそうだ」
「あぁんっんっ、だって…こんなしつこくっ…ひあぁっ…あぁっ」

弱いところを強く擦ると何も言えなくなる。
その従順さが愛しくていつまでも触れていたくなるのだ。

「あたま変になりそうです、はぁっ…ん、こんなにおしり…っ触られたこと…ないっから…」
「もったいない。俺はずっと弄っていたいのに」
「ひぅっ、ん、うれし…っ…あぁっ、ぼくのおしりっ、もっと…可愛がってくださいっ…!」
「はぁ…っ加持、かじ…っ」
「せんせいの指でっいっぱいに……あぁっ、あぁっ…んぅ、ふ…っぅ」

住田が満足するころにはとっくに加持の腰は砕けていて力が入らなかった。
ひたすら愛撫をされ続けて、意識さえ混濁している。
腸壁を縦横無尽に引っ掻き回されて、閉じていた尻の穴は緩くなっていた。
敏感なところを何度も突っつかれて腰が勝手に動いてしまう。

「やぁあ、あっ…んぅ、またイっちゃ…ぁぁっ、あぁっ…も、やだっ…だめっ…!」

住田の指は加持を気持ち良くさせようと一生懸命で、真剣な顔で見つめられるとよりそれが伝わってきてたまらなくなった。
むしろそんな顔で見ないでほしいとさえ思う。
自分だけ乱れた姿を晒すのは慣れておらず、余計に羞恥心が募る。
僅かな意識でなんとか住田の性器に触れるが、そうすると尻に挿入された指が奥までグリグリと責めたてた。
途端に扱くどころの話ではなくなり、口からはいやらしい声が漏れる。

「せんせ、っんぅ…おしりっ、おくまできていますっ…ぼくっ、指だけで…イっちゃぅ…っ」

住田は住田で緊張していた。
初めての愛撫で下手くそなのは百も承知だが、本当に「下手くそ」と言われたら男として立ち直れない。
相手が経験豊富だからこそ、もっと責めなくてはと気張っていた。
――いや、実際にそう思っていたのは途中までで、以後はあまりに加持の感度が良く、自分の指で乱れるから、その反応に夢中になって手を止められなかった。
尻だけで射精した時は住田も興奮でイってしまうかと思った。
腸内は意外に熱くて、きゅっきゅっと締め付ける感触が気持ち良くて、ここに性器を入れたらどんなに心地好いか想像して体が火照る。
プラス加持の感じている顔、声が下半身に響いていつまでも見つめていたかった。
(自分があの加持を支配しているんだ)
指先の動きひとつで彼の反応が変わる。
涎を垂らし蕩けた顔で名前を呼んでくれる。
ずっと翻弄されっぱなしだったのに、今は思うがまま扱っている。
それは己の支配欲や独占欲を満たすには最高の行為だった。
住田の指は止まらない。
結局加持は二回もイって、双方の性器は精液でドロドロに汚れていた。

「くぅ、っ…ぼく、もう……ち、から入らな……」

冷たい床に寝そべり、下品にも足を開いたまま動かない。

「指だけで…こんなっ…んぅ…しつこく責められて……だめって言ったのに……」
「ご、ごめん。夢中になっちゃって」
「はぁん…もう先生にめろめろです……どうしてくれるんですか…」

ぐったりとしたまま息だけは荒く、潤んだ瞳が住田を睨んだ。
怒っているのに掠れた声が艶やかで息を呑む。
加持は足をM字にすると尻の穴を見せた。
ずいぶんもてあそばれて広がった穴はヒクヒクと蠢いている。
ピンク色のソレは使い込んだとは思えないほど綺麗で住田の性器が即座に反応した。

「悪いと思っているなら……先生の童貞ちんこください……」
「加持」
「僕だけのものになってくれるなら、許します」

晒された穴に我慢なんて出来なかった。
今日も加持に剥かれた亀頭が天を仰ぎ、ギンギンに震えている。
(俺はとっくにお前だけのものだよ)
言えるはずのない本心を喉の奥で押し殺すと、加持の体に覆い被さった。
代わりにヒクつく尻の穴に性器をあてがい無遠慮に挿入した。

「あっあ、あああぁぁっ――」
「くぅっ……!」

加持は衝撃に目を見開くと仰け反った。
根元まで入ったと同時に三度目の射精をする。
するとアヌスは強く締め付け、入り込んだ異物を押し出そうとした。
その感触はこの世のものとは思えないほど気持ち良くて、慣れない住田はうっかり射精してしまった。

「わ、悪い……」
「はぁ、はぁ……んぅ、童貞にありがちなミスですね」
「うぅ」
「そんな顔しないでください。僕も挿入されただけでイっちゃいました」

情けなくて格好悪くて死にたくなったが、それでも腸内の感触は極上ですぐにでも勃起してしまう。
加持も硬くなったのに気付いたのか艶やかな視線で見上げた。
住田が出したことにより、アヌスは精液で満たされぐちゃぐちゃのとろとろになっている。
そんな状態の尻に突っ込んだら気持ち良いに決まっているのだ。

 

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