古楽の森

ピーンポーン。

静かな家にチャイムの音が鳴り響く。
それは二階にある自分の部屋で宿題をしていた僕にも聞こえた。
ふと鉛筆を止めると、窺うように辺りを見回す。
静けさに満ちた家は、鼓動の音さえ露呈されてしまうようで恐ろしい。

ピーンポーン。

二度目のチャイムだ。
僕は息を呑むと音を立てないように立ち上がる。
恐る恐る部屋を出ると廊下を抜け、階段までやってきた。
穏やかな午後の風がどこかの窓に吊るされた風鈴を揺らす。
まるで誰かの視線から逃れるように階段を降りた。
玄関には曇り硝子越しに黒い影が蠢いている。

ピーンポーン。

その間に三度目のチャイムが鳴らされた。
これで諦めて帰ってくれないだろうか。
胸元に纏わりつく嫌悪感に眉を顰める。
だが、生憎扉の向こうにいる忌々しい何かは、そんなことで諦めるほど温くない。
僕は深海に潜るよう深く息を吸うと、ゆっくり吐き出した。
ドアに近付くと鍵を開ける。
無情なほどあっさり扉が開くと、僕は一歩二歩と後ろに下がった。
外の明かりが眩しい。
その中から遠慮もなく姿を現したのは大柄な男だった。

「母さんはいないよ」

僕は冷めた瞳で言い捨てると、目を伏せる。
視線の端で男は微かに笑った。
それに気付かない振りをして背を向けると、帰れと意思表示をする。

「……そうか」

しかし男が諦めるはずがなかった。
後ろ手で鍵を閉めると、僕の体を掴む。
振り返ると卑しい瞳と目が合った。
嫌だと手を振り解こうとするが、力で敵うわけもなく靴箱に押し付けられる。
上に置かれた花瓶が僅かに揺れた。
太陽の光に愛されないひまわりの花が息苦しそうに下を向いている。

「や、めろ……っ」

首根っこを掴まれたまま暴れる。
しかし男は何も言わなかった。
ただ強引に僕のズボンを脱がせる。
まるで果実を剥くように忙しなく乱暴な手つきだった。
もはや人間ではなく物同然の扱いなのだ。
薄暗い玄関に白い尻が晒されると、男は舌を舐めずりする。

「……っ、やだっ……ふざけっ……!」

唾で濡らされた指がお尻の穴に挿入されると、僕は声を遮られたように痙攣した。
ぞわぞわと得体の知れない快感が背中を駆け上がってくると脳内を麻痺させようとする。
抗うように唇を噛み締め、男を睨みつけた。
相変わらず薄笑いを続ける彼は、躊躇うことなく自らの性器を取り出す。

「そ…なっ…いきなり……っ、ここ玄関だぞ!」
「知っているくせに」
「知…らないっ……僕は何も知らないっ……」
「じゃあ確認しようじゃないか」
「やめろ……っ、やめて……くれっ!」

哀願するように涙を流したって、浅ましい男の性欲を止められるわけがない。
(……そうだよ。知っているんだ)
男の言うとおりだった。

「ひぁ……あぁっ…うぅぅ――!!」

母親が居ないことを知っていたし、その間に男がやってくることも知っていた。
何もかも知っているくせに、知らない振りをするのは男が喜ぶことを知っていたからだ。
――そう、全部知っている。
母親の裏切りや淫行も父親の哀れさや情けなさも全部知っているのだ。
知る。知っている。知り尽くしている。
知っているという言葉の羅列が途方もなく続く。
そろそろゲシュタルトが崩壊するかもしれない。
(知っている。僕もその渦の中にいる一人なのだと)

「あぁ……あぁっ、うぅっ……はぁ、あぁっ……」

男は質量あるイチモツを躊躇いなく、僕の穴に突き立てた。
肉の輪が広がる。
亀頭は前立腺を擦りあげると、容赦なく奥まで入って来た。
その違和感に腸壁が蠢き、排泄するように締め付け押し出そうとする。
男の性器は抗うように力強く内部へ侵入していた。
腹の奥に響くのは痛みだけではない。
いきなり奥まで挿入されて過呼吸気味になる。
まだ十分に慣らしてさえもらえず、腸内は悲鳴を上げた。
内部がミシミシと軋んだ気がするのは錯覚だろうか。

「ほぅら、知っているじゃないか」
「やぁ…ぁあ…っ……」
「俺が来ることを知っていて、ケツの穴を綺麗にしたんだろう」
「ちがう……ふっぅ、ふ…うぅ…」
「違わないだろうが。ったく一丁前にカマトトぶりやがって。こんなにケツの皺伸ばせて何を言ってるんだ。普通なら穴が裂けているぞ」

男は覆い被さると首筋を舐めまわした。
それだけでよがる僕は、幼い性器を靴箱に擦り付けたままイっている。
狭い玄関に生臭さが漂った。
ザラザラとした男の舌がいやらしく這い回る。

「んぅ、ふぅ…ふぅ……ふっ……」

腹の中は男のモノでいっぱいになり窮屈だった。
前立腺や奥のコリコリしたところを擦られている。
まるで模られたように男の性器を受け入れて吸い付いた。
慣らされた穴は従順で、何の苦痛も感じないまま快感を甘受する。

「お前のことだ。自分で弄りながらイったんだろう?俺のことを考えながらシャワーを突っ込んで穴の掃除をしていたんだろう?」

ニヤニヤと笑われて耳たぶを噛まれると、眉間の皺が深くなる。
だけど否定はしなかった。
男の言ったとおりだったからだ。
こうして彼に貫かれることを想定して、風呂場で腸内を綺麗にしていた。
そのうち我慢が出来なくなって、指で穿りまわした。
緩くなったお腹と尻に、トイレに駆け込んで淫らに果てていたなんて口が裂けても言えない。
僕は腰を押し付けられながら黙って耐えた。
指なんかとは比べ物にならないくらい、逞しい性器に突かれて恍惚と喘ぐ。
まだ男がやってきて五分も経っていないのにこの有様だ。
あとはもう欲望の吐き口にされるだけの存在である僕に、男はひたすら腰を揺らす。
逃れる術もなく、僕はいいように扱われていた。
次第に激しさを増す動きに、花瓶が倒れて水を被る。

「うはっ、ビチョビチョじゃねーか」

男は濡れた僕に喜んで性器を硬くした。
興奮した荒い吐息が耳に障る。
濡れて貼り付いたシャツに、弄る彼の手が僕の乳首を捕らえた。
引っ張られて仰け反ると、腸壁を擦られて女みたいな声が出る。

「あぁ、あぁっ…痛…いっ、んぅ…はぁ……あっ、うぅ……んっ」
「子供のくせにいやらしい乳首しやがって」
「ひぁ…ぁっく…んぅ、ふっあぁ……らんぼうにするなぁ……あぁっ」
「お前はそっちの方が好きだろ」
「くぅ…んっ、ん……んぅ、……ぅっ」

男に何度も苛められた乳首は赤く腫れたように肥大した。
学校のプールの時間、それをからかわれたことがある。
真っ平らな胸に飾られた異質な乳首は、クラスメイトたちには刺激が強すぎるからだ。
濃いピンクが性欲を掻き立てる。
いっそのことピアスを付けようかと提案されたが、断った。
男が見たいのはピアスを付けた乳首ではなく、穴を開ける恐怖に震え上がる僕の顔だからだ。
そんな白々しい演技は出来ない。
なにせ、僕の方が興奮してピアスを開けられただけでイってしまいそうだからだ。
想像しただけで身悶える。
果てのない欲望は忠実に従えば従うほど、世界を破綻させる。
皮一枚の理性が僕と現実を繋ぎとめてくれた。

「あっ、うぅ……あっあぁん……やらぁ…っ、もっ、やめろ…っは…ぅう……っんく……ぁっ」
「ふははっ、舌が回ってないぞ。いい加減素直になれ」
「ふざけ…んなぁっ、あぁっ……はぁっぅ、こんなのっ…全然っ…んんっ…うぅ」

気持ちよくない――とは、言えなかった。
なぜ肛姦されるとこんなに気持ちいいのだろうか。
尻を掴まれてひたすら突き上げられる。
自分の意志とは無関係に、出入りする性器は、摩擦熱で燃えてしまいそうなほど熱かった。
無理やり犯されているのに、この快楽に抗う術がない。
汗だくの体が重なって、男の匂いに包まれた。
お世辞にも清潔といえない男の体臭に、本来なら嫌悪するはずなのに興奮してしまう。
それが手懐けられた証だとしたら、なんとも悔しい話だ。

「ちっ、もう出そうだ!」

パンパンと下品な音を奏でさせながら男は呻いた。
僕はとっくにイき続けて、精液を垂れ流している。
足腰は使い物にならず、靴箱に支えられてどうにか立っていられた。
取り付けられた鏡には喘ぐ酷い顔をした自分が映っている。
こんな下品な行為を玄関でしているなんて信じたくない。

「ひぅ…っ、こ…なっ、僕んちの玄関で…っ…あぁっ……」

いつ誰がやってくるのか分からないのに、平気で体を許した自分に後悔は募る。

「はぁっ、いいんだよ。セックス出来れば場所なんてどうでもいい」
「くっぅ……この変態がっ、ぁあっ…」

この男には愛の囁きもロマンチックなムードも必要ではないのだ。
ただ自分の性欲を満たすだけの玩具を求めているに過ぎない。
妊娠しない僕の体は打ってつけの性処理便所だった。
喜ばせるプレゼントも労わりの言葉もなく、欲望のまま陵辱されてしまう。

「あぁっ…んっ、ふぅ、あぁ……あぁっ…」
「お前の方が変態だろ。女みたいな声出しやがって」
「んんっ、ん……んっ、ふぅ……ふっ」
「あぁ?手ぇ塞いで声を押し殺すなんて反抗してんのか?」
「んっ、んはぁ……んーっ!んっんぅ……ひ……ぁっ!」

始めからそうだった。
甘い言葉で僅かな油断を誘うと、力ずくでモノにしてしまう。
あとは何度も中出しされて快楽を叩き込まれると抗う気力さえ奪われた。

「かはぁ……っぐ……!」

男は急に激しく突き上げ始めた。
そのせいで我慢していた声が漏れてしまう。
手の間から零れ落ちる艶声は、男の言うとおり女みたいな声だった。

「やだぁ……あぁっ、んっ……急にっ、ひっぅ……んっんん!はぁ……ぅっん!」
「もっと声出せ」
「あぁっ、やぁあ…あっん、はぁ……!うぅっん…あぁっあ……!」
「聞かせろ」

痛いぐらい腰を掴まれて体を押し付ける。
僕のことなどお構いなく、自ら快感を貪るために腰を振っていた。
激しさに息も絶え絶えに下半身を晒す。
もう射精間近なのだろう。
彼は出すことしか考えていない。
自分さえ気持ちよければそれでいい。
もはや僕の尻はオナホ扱いだった。
ジンジンと響く痺れに声が枯れる。

「イっ――!!」

瞬間男は身震いした。
中で性器が脈打った。
同時に熱い液体が流し込まれると満足したような吐息を漏らす。
彼は二度三度突き上げるとようやく止まった。

「ふは……っ。結構出たな」
「んく」

溢れた精液が尻の穴から垂れた。
白くゼリーのようなプリプリとした白濁液に腰が震える。
どうにか靴箱を支えに立っていた膝が折れた。
力が入らなくて玄関に座り込む。
目線と同じところに性器があって顔を背けた。

「ん……っやだ……」

男は尿道に残った精液を扱くと僕の顔にかける。
後は余韻すらなく僕のパンツで拭くとズボンに仕舞う。

「はぁはぁ……掃除しなくちゃ……」
「そうだな」

渇いた声が玄関に響いた。
風鈴は未だに涼やかな音を立てている。
(……またお風呂にも入らなくちゃ)
僕は荒い呼吸を静めるように深く息をする。
膨らんだ腹に艶やかな吐息が漏れた。
目を瞑れど目蓋は震える。
興奮はしばらく治まりそうになかった。

その後、母親が帰って来た。
僕は男に茶を出すとあとは知らん振りをして自分の部屋に引っ込んだ。
オーディオに手を伸ばすとヘッドフォンをつける。
耳に大音量の音楽が流れ込んでくれば、余計な音は聞こえなくなる。
手で塞ぐより効率の良い方法だと気付いたのはつい最近のことだった。
英語で歌詞の意味すら分からぬまま聴き続ける。
父親の好きな曲だ。
曲名は「Judas」
八十年代のロックだというがバンド名は聞いたことがない。
その程度の安っぽい楽曲だった。
気まぐれで曲名を調べて以来、好んでこの曲を繰り返し聴いた。
幼稚な当てつけだったのは言うまでもない。

「…………っ……」

しばらくして曲の中に雑音が混じった。
僕はゆっくり机から顔を上げる。
口許は僅かに歪んでいた。

「……ぁ………っ……」

家の中の獣が暴れだす時、僕の脳にノイズが走る。
こめかみに手を当てて、ヘッドフォンを外した。
相変わらず窓の外はいい天気で穏やかな光が部屋に差し込む。
ヘッドフォンからは塞ぎきれない音が漏れていた。
ボーカルの激しいシャウトが微かに聞こえる。
最後のサビが終わったところだ。
この叫び声を聞いたあと、いつも物悲しい気持ちになるのは、彼らがこの曲を最後に解散しているからだろうか。
理由は曲を書いていたギターリストが別のバンドにヘッドハンティングされたからだ。
そのバンドは今も積極的に活動し、世界を飛び回っている。

「あ……あぁっ……」

僕は女の甘い喘ぎ声に我に返った。
曲を流したままヘッドフォンを机に置くと、立ち上がる。
廊下に出れば声は大きくなった。

「おい。そんな声出して子供に聞こえるぞ」
「あはぁ……っ、大丈夫よ……んふ、あの子は私の理解者だもの」
「ははっ母親が旦那以外の男に抱かれても文句ないってのか?」
「そうよ。どうせあの人には言わないわ。味方だから安心してちょうだい。それよりもっと…っ」

ねだる艶やかな声色は少女のようだった。
髪を振り乱し、夫以外の男と寝る女。
次第に激しさを増す音に、僕は歩き出した。
階段を降りてリビングを覗き込む。
そこには予想通りの絡み合う男女が乱れていた。
先月買ったばかりのソファが壊れそうなほど軋み皺を作っている。
豪快にも男の上に跨った女は、とても夫の帰りを待つ貞操な妻には見えない。
だらしなくよがる姿は母親ではなくただの雌だ。
地球の重力に従い垂れ始めた胸を乱暴に揉まれて気持ち良さそうに喘いでいる。
男はそれを下から冷ややかな視線で見上げていた。
床に散らばった服を辿れば、真っ赤な下着が目に付く。
毒々しいほど鮮やかな朱色はまるで血のようだ。
透けたレースに女の下心が重なる。
唾を吐きたくなった。
一度視線を逸らすと歯を噛み締める。
それは母親の痴態を見たからではない。
彼女の情事を見て興奮する自分の性器が汚らしかったからだ。

「はぁ……はぁ……」

つい先ほど射精したばかりの性器が天を仰ぐ。
僕は気付かれないようズボンとパンツを脱いで扱き始めた。
セックスを楽しんでいる二人を盗み見ながら快感を貪る。
先っぽはもうガマン汁が溢れてアツアツだった。
出そうになる声を必死に堪えて慰める。
見つめる先にあるのは男の性器で、母親のグロテスクな穴から出たり入ったりを繰り返していた。
騎上位が済めば、そのまま彼女を押し倒していいように虐め抜いている。
彼女は喜びの涙を流しながら男にしがみ付いた。
突かれる度に漏れる吐息が色っぽい。
だが僕が見ているのは彼女ではなかった。
こうして盗み見ているのは欲情しているより羨んでいるからと言った方が正しい。
(欲しい……っ、僕にも……欲しい……)
最初に男を紹介されたのは一年前のことだった。
その時は母親ではなく隣に父親がいた。
男は父親の弟だったからだ。
近所に越してきたからと挨拶しに来た時が初対面である。
男は自宅で仕事をしているらしく、それ以来我が家にやってくるようになった。
どういう経緯で母親と関係を持ったのか定かではない。
だがお互いに餓えていたのは事実だ。
当然の成り行きだったのかもしれない。

「ひ……はぁ……」

僕はその場に座り込むと自分のケツ穴に指を突っ込んだ。
足の先がピンと伸びる。
先ほど出された精液は洗い流してしまった。
空になった腸内が寂しげにヒクヒクしている。
激しく犯される母親が妬ましくて唇を噛んだ。
彼女は後ろから突き上げられ、弛んだ尻を叩かれている。
激しいのが好みの彼女はいつも獣のようなセックスだった。
男はそれを嘲笑い罵倒しながら犯す。
白目を向いて悲鳴のような喘ぎ声を放つ母親は家畜同然だ。
僕は体を倒すと膝をつき、尻をあげる。
性器を扱くのやめると三本に増やした指で尻の穴を塞いだ。

「くひ……っゃ……ぁ…っぁ……!」

男が突き上げるのに併せて指を上下する。
そうすると自分が犯されているような錯覚を起こすのだ。
(欲しい……欲しい……欲しいっ)
嫌悪と興奮に戸惑いながら慰める。
今日は一度抱かれているせいか、余計に物足りなかった。
本来なら来るはずの奥が、子供の指では届かない。
腸壁はじれったそうに蠢き、与えられる刺激を待った。
無意識に揺れる腰に性器から零れた汁が床を汚す。
惨めだと分かっているのに止められなかった。
僕は自分の指で穴を穿り回す。
だけどイくことは出来なかった。

「あぁああぁぁ――――!!」

その間に母親は絶頂を迎え嬌声を上げた。
まるで断末魔だ。
上半身を反り返して痙攣を起こしている。
そのまま固まると、糸が切れたみたいにソファへ倒れこんだ。
男と重なり合ったまま果てている。
彼女は気をやると動かなくなった。
よくあることだ。
アグレッシブなセックスを楽しんだあとは失神する。
それほど激しく抱かれて満足するのか、目覚めたあとはいつも以上に優しい母親に戻った。
これはもう彼女の通例儀式のひとつである。
男は動かなくなった母親の様子を確認すると立ち上がった。
振り返るとこちらに向かってくる。

「……逃げるな」

廊下に向かってそう言うと卑しい笑みを浮かべた。
彼は全裸のままである。

「覗いていたんだろ」
「ひぅ」

リビングを出たところで見つかった。
男はゴムをしたまま、また勃起している。
ゴムの先端は出した精液で膨らんでいた。
その逞しい姿に息を呑む。
全身の火照りが酷くなる。
理性では抑えられなくなる。

「股を開け」
「……っ……」
「そしたら望みどおりたっぷり犯してやる」

頭では分かっているのだ。
これは非常識で悪いことなのだと。
だから嫌だったし、辛かった。
少なくとも母親より正常な脳を持っている僕には耐え難い苦痛だった。

「ほら」
「そ……な……っ擦りつけ…なっ」
「ママの愛液だぞ」

男は性器を僕の頬に擦りつけ見せ付ける。
甘酸っぱい匂いに顔を顰めると面白そうに笑った。

「ママの匂いは嫌か」
「あ、当たり前だ」
「なら俺のはどうだ?」
「っ」

男は目の前でゴムを取った。
途端に生臭い男の匂いでいっぱいになる。
(こんな……臭くて、嫌なのに)
芳しくも思える匂いに火照りが一段と酷くなった。
我慢できず身を捩る。
物欲しげに見つめると今度は生のまま頬に擦り付けた。

「ん、んっ……ぅっ……」

性器は熱く硬いまま誘っている。
僕は耐え切れず、口に含んだ。
途端に異様な匂いが広がり涙目になる。
それでも性器を咥え込んだ。

「ははっ。そんなに俺のちんぽが好きか」
「んっ、んぅ…ふぅ……ふくっ……」
「ならたっぷり味わえよ」

持っていたゴムを逆さにすると、中に入っていた精液が僕の顔にかかる。
熱い汁の感覚に垂らされて恍惚となった。
舐めとろうと手ですくうが、口いっぱいに性器を咥えているため味わえない。
顔を離そうとすると今度は男が僕の頭を抱えた。

「いい光景だな」
「…っは……ちゅ、む……っんっ、んぅふ」
「いやらしくしゃぶりつきやがって」
「んぅ、んっふ……っぐ、んっんん……はぁっぅ……」

腰を揺すられて喉の奥まで咥え込んだ。
苦しいのに髪を撫でる手が優しくて抗えない。
そんなの形だけだと知っているのに。
男はイラマチオが好きだった。
ファーストキスさえまだの咥内を犯し続ける。

 

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