「ちょっ……」
だから思わず引き止めてしまった。
僕の声にドアの前で立ち止まる。
(なんで怒ったの?)
しかし言葉が続かなかった。
「…………」
重苦しい沈黙が辺りを包む。
それ以上何も言えなくて彼の背中を追うだけだった。
彼から漂う雰囲気は冷たい。
別に酷いことを言われたわけでもなければ、いつものように意地悪をされたわけでもない。
それなのに怖くて声を掛けづらかった。
何もないのに突き放されたような気がしたからだ。
「……っぅ……」
思わず泣きそうになる。
それをどうにか堪えると彼の背中を睨みつけた。
「……むかっ、つく……」
僅かに嗚咽が混じると誠司さんが反応する。
それでも止められなくて僕は駆け寄った。
そっと誠司さんの袖の裾を掴む。
「優しくなったり、意地悪になったり……意味わかんないっ」
「…………」
「誠司さんなんかお兄ちゃんと全然違うのに。僕ばっかり振り回されて、気にして、誠司さんのことで頭がいっぱいで――なんかずるい!」
大人の余裕に敵うわけない。
僕は結局子供だから、与えられるものに対処するだけで精一杯なんだ。
少し冷たくされたぐらいで胸が潰れそうになる。
ずきずきと痺れるような痛みが僕を責め立てた。
平然としていたいのに気持ちが揺らぐ。
思い通りにいかないことが腹立たしい。
その幼稚さが一層、僕の胸を痛ませた。
「ふぇ……っ、もうやだ。きらい……誠司さんなんて嫌いっ」
違う。
きっと嫌いになりたかったんだ。
そうすれば、こんな苦しい気持ちを知らなくて済む。
僕だけが馬鹿みたいに喚かないで済む。
「……ひっぅ、ひっく……でも、好き……ぃっぅ……」
誰だって好きな人を選べたら楽になる。
でも心は正直で止められなかった。
「ごめなさ…っ、ぼく、兄ちゃんのっ…アルバムから、ひっぅ…勝手に写真ぬすんで…っふぇ…」
「…………」
「さみしかったの…っ、せ…じさんと…あんまり会えないから…ぼくっ…」
とうとう溢れ出る涙が頬を流れた。
霞んだ視界の中、縋りつくみたいに身を寄せる。
すると誠司さんは振り返った。
思わず見上げると彼の顔は真っ赤になっている。
それどころか驚いたように目を見開き口許を手で押さえていた。
「……ばーか」
すると突然僕の体を抱き上げた。
そのままお姫様抱っこをされてベッドへと連れていかれる。
「……せ、誠司さ……」
戸惑う僕を尻目に口付ける。
押し倒されて沈んだベッドはギシッと音を立てた。
「んぅっ、ふ……ん、ちゅ……はぁん、んんぅ……」
柔らかい唇の感触に頭がボーッとする。
お陰で思考は停止したまま唇を重ね続けた。
まるで餌付けのように与えられるまま欲する。
甘ったるい吐息が鼻に掛かってくすぐったい。
「ふぅ……っふぅっ……」
その間に誠司さんの手で袴を脱がされていく。
シュルシュルと布の擦れる音が部屋に響いた。
(ふゃぁ、乱暴にしないで)
手つきが荒々しくて抗うように押し退ける。
だけど敵わなくてビクともしなかった。
性急に進めようとする彼に余裕はない。
珍しかった。
いつもならねちっこい愛撫をするのに、今日はない。
まるで手篭めにするみたいに強引な手つきで袴を脱がそうとする。
露になる素足に足袋が卑猥に映った。
それでも何も言わずキスを堪能する。
いや、何も言えないほど激しく咥内を犯されて、くぐもった声しか出なかった。
「はぁ……はぁ……」
誠司さんの吐息にうっとりと目を細める。
欲情した瞳はギラギラして怖いぐらいだった。
「え、あっ――!」
だがそれどころではない。
気付けば下半身を丸裸にされていた。
誠司さんのかたくなった性器を挿入しようとしている。
「ま、ま、まっぅ―――――!!」
上半身が仰け反った。
弱々しい手のひらで静止を促したのに聞き入れてもらえない。
その手は最早彼の胸元に添えられているに過ぎなかった。
誠司さんは抗いを許さない。
僕は押さえつけられたまま暴挙を受け入れた。
「ひぅぅ――……」
どうにか悲鳴を呑み込む。
ギチギチに拡がったお尻の穴は太い男根を咥え込んだ。
いきなり最奥まで突かれて目を見開く。
そこは舌や指では届かない秘密の場所だった。
「――っはぁっ……だめっ、だめっ……ひぁああっ!」
鋭利な亀頭が内壁を擦りあげる。
僕はいきなりの衝撃に淫らに腰を浮かせて射精した。
(はぁぅっ……心の準備もまだのまま、奥まで許しちゃった)
飛び散った精液が肌を汚す。
電気が走ったような快感が突き上げ恍惚となっていた。
緩んだ口許から涎が垂れる。
「はぅ…ど…して?…どうして、いつもいじわるするの…?」
甘ったるく愛されたいのに、理想は叶わなかった。
「僕のこと、きらい?」
「充」
「どうして嫌いなのに名前をよぶの?」
二人っきりになると名前を呼ぶ。
それに期待を抱くのは浅はかなことだろうか。
つい恥ずかしくてケンカ口調になってしまうが、内心ドキドキしていた。
むしろそのドキドキを隠す為に言い合っていたに過ぎない。
「どこまで鈍いんだ、お前」
「ふぁ…っ…!」
すると首筋を噛み付かれた。
思わず嬌声を上げる。
痛みと共に体が疼いた。
「大体、嫌いなヤツとこんなことするかよ」
「んやぁっ、きゅうに…あぁっ、うごかない…でっ…」
突き上げられて一瞬思考が止まる。
僕は誠司さんの腰に足を巻きつけた。
そうしてしがみ付かなくちゃ頭がおかしくなりそうだったのだ。
「嫉妬だよ。お前の兄貴に嫉妬してんだ。悪いか」
「んぅ…はぁ、あぁっ…ああぅ、んっ…はぁっ!」
「直樹と違って優しくないし、お前は兄貴にベッタリだし、他にどうしろっていうんだ」
「きゃぅ…っ、そな…ふぅ、ふぅっ」
不貞腐れるように奥を突かれて眩暈がする。
弱いところを知り尽くした彼のペニスは凶悪だった。
内壁を押し潰すと繰り返し擦りつける。
執拗に責められて益々蕩けた。
彼の掌が僕の顎を捉える。
そうして強引に自分の方へと向けた。
「いい加減気付けって。好きだから苛めたくなるんだよ」
「!!」
僕は目を見開いていた。
都合の良いことばかり耳に入ってくる。
(好き、なんて)
半信半疑で反応すら出来なかった。
固まったまま荒い吐息だけが漏れる。
だがその響きも彼の唇によって閉じ込められた。
「んぅ……」
そっと触れる唇は、優しい。
一瞬で離れていった唇は甘酸っぱい余韻を残した。
僕は驚いたまま見上げる。
未だに彼は不貞腐れたような顔をしていた。
耳が赤い。
それが不器用な誠司さんらしい照れからきていると気付いた時、僕の胸は鼓動を速めた。
(一緒なんだ)
彼も同じように照れくさくて素直になれなかった。
僕は生意気なことを言い、彼は意地悪をする。
そうして自身の気持ちを隠していたのだ。
「じゃなきゃ、誰が男のケツなんて弄れるか」
「あ、うぅ……」
尤もらしい言い方に納得する。
「な、なら……僕のお尻ならいいの?」
だから窺うように彼を見た。
目が合った瞬間、二人は顔を真っ赤にして沈黙する。
(な、なに変なこと聞いて……)
墓穴を掘ってしまった。
この状態でそんなことを聞いても意味が無い。
というより、完全に彼を煽っていた。
「お前のじゃなきゃ嫌に決まっているだろ」
「あ……」
「当たり前のこと聞くな」
「……っぅ……」
誠司さんはボソッと呟いた。
僅かに口を尖らせて不満そうである。
その顔が幼く見えて胸がきゅんとした。
(やだ。どきどき止まんない)
鼓動が高鳴る。
お腹の奥がじんわりと熱くなる。
ギシっ――。
ベッドは卑猥に軋んだ。
無言のままじっと見つめる僕に彼の体が覆い被さる。
心地好い重みに首へ手を回した。
心臓の音が重なる。
耳元で響く誠司さんの吐息が無性に色っぽかった。
「……好き、だよ」
蕩けるような声で甘く囁かれる。
僕はそれだけでイってしまいそうだった。
体が震えて穴を締めるつける。
彼もそれに気付いて上擦った声をあげそうになった。
「ど…しよっ。ぼく、好きって言われただけで…っ、精子でちゃいそうになる…」
「んっ」
「胸がいっぱいなんだ。ぼくも誠司さんが好きだから。ずっとずっと大好きだったから」
誠司さんの胸元に頬ずりする。
それだけで幸せな気持ちになった。
乱れた襟元から覗く厚い胸板にしがみ付く。
すると誠司さんの匂いに包まれた。
「充っ」
「あ、ぁあっ…んっ、ふぅ……!」
誠司さんはそんな僕を強く突き上げた。
我慢できなかったのか荒っぽく奥に擦り付ける。
引き抜く時も強引で、内壁をカリで引っ掻いた。
その度に僕は仰け反らせて拙い喘ぎ声を放つ。
「はぁっ、んんっ…はぁっ、あぁっ…んっ、んぅっ…」
あまり大きな声を出したら誰かに気付かれてしまうかもしれない。
一階は出入りが激しく、いつ誰がきてもおかしくなかった。
徐々にベッドの軋みが激しくなる。
古びた床はその振動を下へと伝えようとしていた。
「こ…なっ激しくしたら…下にバレちゃぁっ……」
「悪い、加減できないっ」
「ひぁっん……っ、ぎしぎしっ…だめっ…だめ…っ…」
そうはいっても止められるものではあるまい。
誠司さんは遠慮なく腰を押し付けた。
こねくり回して僕の肛門を蹂躙する。
「せ…じさんとっ、ちんこしてるの…ばれちゃうっ…はぁっ…」
「いや?」
「らって…ぼくっ、おとこのこなのにっ…おしりにちんこいれられてきもちよくなっちゃってる…っ…」
「ホモであることがばれちゃうか」
誠司さんはワザとらしく呟いた。
軽く笑うと僕の首筋に吸い付く。
「ふやぁぁあっ…」
そのまま白い肌に痕を残した。
「そうだよな。大人ちんこを尻に咥え込んで、こんなにだらしない顔晒して、家族に――兄貴になんて見られたくないよな」
「ひぅ…っんんぅ、はぁっ…くぅ…っ」
誠司さんは乳首を抓りながら僕の顔を覗き込んだ。
だから慌てて手で隠そうとする。
(やだぁ…お兄ちゃんにこんなとこ見られなくないっ)
しかし彼の方が力が強かった。
顔を覆おうとしていた腕を掴まれると上にあげ、固定してしまう。
乱れた着物は殆ど役目を果たしておらず無防備な肩が出ていた。
「あぁっ、んっはぁっあぁっ…あっ」
「ん、ふっ…」
「やぁん…っきょう、汗かいてるのっ、舐めちゃだめ…ぇっ…!」
固定された腕に晒された脇の下が丸見えである。
誠司さんは掴んだままソコを舐め回した。
弱く敏感なところにざらざらとした舌がねっとり絡みつく。
僕は暴れたがビクともしなかった。
まだ毛の生えていない脇を執拗に舐めては吸い付き貪っている。
その間も肛姦は続いた。
上も下も同時に責められて眩暈がする。
そのせいでベッドの軋みすら忘れてしまった。
「声がおさえられなっ…いっ、そんなにペロペロされたらぼくっ…」
「さっきから喘ぎっぱなしだろうが」
「ふゃぁあっ…あぁっ、だって、止められないんだも…っ」
脇の下はもう誠司さんの涎でべちょべちょだった。
さんざん嬲られて、ちょっとの刺激さえ我慢できない。
そのせいで勝手に腰が浮いていた。
彼の腰の動きに合わせるように無意識に揺れる。
性器を擦り合わせてはもっと激しい快楽を欲していた。
誠司さんは分かっていてアヌスを穿り回す。
僕のイイところを見つけると面白そうに笑った。
「あぁっふ…ぁん、んんっ…んぅっく…はぁっ…」
ソコを突かれると頭が真っ白になる。
ペニスは触っていないのに、裏側から押し出されるようにガマン汁を垂れ流した。
「にゃぁ…ぁっ、ちんこっ、きもちいっ…はぁっ、さわってないのに、出ちゃうようっ…」
ぐちゅぐちゅといやらしい水音が聞こえる。
粘ついた汁が糸を引いて繋がっていた。
上下に揺さぶられて足が広がる。
間接が強張るほど開いた恥骨に容赦なく誠司さんの性器が押し付けられた。
もう蕩けきった穴は彼の精子を搾り取るように締め付けていた。
根元まで突き刺さると限界まで拡がる肛門に皺が伸びる。
引き抜けば窄まりヒクヒクと物欲しげに蠢いた。
「ひぁ、あぁっ、あ…あっ、うぐっ…はぁっ、うぅ…」
僕の口から断続的に喘ぎ声が出てくる。
繋がられた尻がくねくねと打ち振られた。
熱い肛壁が尖端に纏わりつき、収縮を繰り返す。
「も、だめっ…はぁ、あっ…うんっ」
身悶えが激しくなるにつれ、誠司さんの下腹部との摩擦が強くなった。
皮の被った未熟な性器が踊らされる。
もっとその快感を貪ろうと腰をくねらせた。
あたかも更なる責めを乞うかのようだ。
誠司さんはたまらず打ち込みを激しくする。
「可愛い。甘えてんのか」
「んふぅっ、もうわけわかんな…っはぁっ…」
「いつもこんなに素直だといいんだけどなあ」
「や、やぁっ…知らないもんっ、ばかっ」
誠司さんは涎で濡れた唇に指を這わした。
人差し指をそっと押し付ける。
僕は悪態を吐きながらもその手を掴んだ。
「ん、ちゅっ…ふっん、ちゅぅっ…はぁっすき、…すきっ」
そうして何度も口付ける。
ゴツゴツとした指が今は愛おしかった。
漏れる吐息が甘ったるく響く。
一生懸命キスをしていると、腸内の性器がビクビクと脈打った。
驚いて見上げれば誠司さんが息を呑んで見ている。
真剣すぎる眼差しにドキリと胸が震えた。
それに気付いたのか彼はふっと力の抜けた笑みを見せる。
「キスをするならこっちにも」
そう言って至近距離まで被さってきた。
彼の指はもちろん自分の唇を差している。
かぁっ――。
僕は一瞬で顔を真っ赤にした。
求めるがまま口づけていたが、誠司さんの唇に自分からキスをしたことはない。
「はやく」
彼は面白そうに僕を覗き込んだ。
あれだけ激しく突き上げていた体を静止してキスを待っている。
「も、もうっ」
(恥ずかしいのに!)
これじゃ断れない。
僕は意を決して誠司さんの肩を掴んだ。
いつもならされるがままなのに、今は僕から動かなければならない。
恐る恐る顔を近づけると吐息の交わる距離まできた。
そこから彼の唇を目指す。
「ん……――」
ゆっくりと確認するように唇を合わせた。
そうして重なった彼の唇に自分のを押し付ける。
肉感的な感触に背筋が震える。
(ぼ、僕からキスしちゃった)
ドキドキして手が震えてしまったことはお見通しだろう。
だがそれ以上に大きな達成感があった。
少しだけ自分が大人になれた気がしたからだ。
「んふぅっ……!?」
だが次の瞬間には覆されていた。
誠司さんの腕が強引に僕の腰を掴むと抱き寄せる。
驚いて目を見開いた。
彼はそのまま僕の体を持ち上げると自分の膝に乗せる。
「ふぁあっ、んーっんっ…んぅ!」
自らの体重により肉棒が深く突き刺さった。
思わず声を上げるが今度は唇を奪われて言葉が呑み込まれる。
「くぅっ、んんっ…はぁっ…ぅ、はげし……」
離れた唇から涎が糸を引いた。
しかし肉体が悲鳴を上げて気にならない。
壊れそうなほどベッドは音を立てた。
体を揺さぶられて朦朧と彼を見つめる。
「はぁ…あぁっん、ふっぅ……」
真冬だというのに汗をかいた誠司さんは熱っぽい眼差しで僕を射抜く。
額を流れる汗が妙に色っぽくてドキリとした。
すると僕の視線に気付いた彼が手を伸ばす。
くしゃ……。
そっと髪に触れると撫で回した。
その指は辿るように耳に触れ、頬を包み込む。
仕草が甘ったるい恋人みたいで眩暈がした。
「ひぁ…はぁっ、く…な…にぃっ…」
指が弄ぶみたいに肌の上を這う。
顎を擦り、無防備な首筋に下りて、未熟な鎖骨に沿った。
激しい腰つきに抵抗できず、彼の為すがまま。
そうしている間にその卑猥な指先は乳首を捏ねて、脇腹まで落ちた。
「んんぅっ……っ」
途端にビクビクと震える。
触られ慣れていない肌に刺激は弱かった。
きゅっと引き締まった腹筋に体が震え身悶える。
「はぁ…ぁ、そこっ…だめ…っはぁっ…」
悩ましげな吐息が勝手に出た。
だめと言いながらねだる様に腰を振る。
誠司さんはゆるゆると指の腹でヘソの回りを愛撫した。
執拗に触られて仰け反る。
敏感な肌は火傷でも起こしているかのように熱かった。
「やぁ…ぁっ、んっ、んぅっ…なんで…っ?」
しかしそれ以上、下にはいかない。
ヘソの下を弄るように行き交うだけだ。
「はぁっぅ…んっく…っ…ひどいっ…よぅっ…」
本当はもっと下――ペニスにまで触れて欲しい。
僕はねだるように足を広げた。
誠司さんの突き上げに合わせてグラインドする。
その度に僕のペニスは甘いミルクを零した。
手を後ろに付け、見せ付けるように体を振り乱す。
いつもなら恥ずかしくてこんな大胆な格好は見せられない。
だけど切羽詰っていた。
内壁を嬲られて、尻の穴はとろとろになっている。
執拗に前立腺を突かれて下半身は言いなりだ。
それでも求めるのは直接的な刺激で、男なら誰しも性器に触れて欲しいところである。
「ひぅ…ふっぅ、くっ……してっ、して……ぇっ…はぁっ…」
「充っ、みつ…るっ……」
「ぼくのちんこっ、さわって…っ?はぁっぅ……おねがっ…じゃないと、おかしくなっちゃぁ……っ」
トロリと涎が垂れた。
官能的に顔が歪むと哀願する。
「せ…じさんのっ、手で…イかせてよぅっ…っ…」
求めるように小さな手を伸ばした。
すると誠司さんは甘ったるく微笑む。
それと同時に僕の体を押し倒した。
「素直におねだり出来るじゃん」
「ふぁぁ……」
誠司さんは僕の手を掴むと甲に口付ける。
その仕草にひときわ胸が高鳴るときゅううっと縮んだ。
「いいよ。たっぷり触ってあげる」
「ああっ…うっん――!」
ガマン汁でたっぷり汚れた性器に手をかける。
そのまま少し乱暴に扱き始めた。
「ひぁ、あぁっ…だめっ、つよすぎっ……ぼくっ、これじゃすぐっ……!」
腰がズクンと重くなる。
それでも誠司さんは扱く手を休めない。
僕は双方の刺激に眩暈を起こしながらのた打ち回った。
強すぎる快楽はもはや暴力的である。
「んっんぅっ…はぁっ、くるし……あぁっはぁ、ぅんっ…んっ」
「ほら、ここ気持ちいいだろ?」
「ふやぁあ…っ、あぁっ、皮はっやぁあっあぁっっ……」
指で執拗に皮の被った内部を弄くる。
溢れる汁が指に絡み付いて糸を引いた。
僕は衝動のまま体をくねらせ浸る。
(このまま僕の体溶けちゃうかも)
ありとあらゆる弱い場所を責められてギブアップ寸前だった。
トロトロに蕩けた顔を好きな人に晒さなくてはならない羞恥。
それでも恍惚となった表情は変えられなかった。
艶やかな肌が桃色に染まる。
「イっぅ――――!」
幼い性器から白濁液が飛び出る。
それは誠司さんの手の中で弾けた。
身震いしながら射精の感触を確かめる。
一瞬頭が真っ白になったかと思えば海老反りしていた。
必死に掴んだシーツに皺が寄る。
「あぁっ、あぁ…っん、そなっ……!」
だが誠司さんは待ってくれなかった。
射精の余韻に浸る間もなく、ぐじゅぐじゅになった奥を貪る。
「まってっ、まって……っイって、いちばんっびんかんなのっ…っ、はぁっあああぁっ、あっ、ああっ」
零れ落ちる嬌声は、もはや悲鳴に近い。
周囲のことなど考えている余裕はなかった。
イったあとの一番敏感な時にお尻を犯され続ける。
肌が放電しているかのようにピリピリした。
触れるだけで電気が走り何も考えられなくなる。
途端に僕は気付いた。
誠司さんは性器から手を離したのに、未だに僕は射精を続けている。
「ふぁあぁっ、止まんないよぅっ……!!」
奥まで肛姦される度、ポンプのように精子が漏れた。
誠司さんの陰毛は僕の精液でどろどろになっている。
彼はそれを面白そうな顔で見ていた。
「可愛い。充、お漏らししながら泣いてやんの。ちんこ気持ちい?」
「あぁっ……うっうぅ、誠司さっ…せいじさ…ぁんっ…」
僕は涙を流しながら何度も頷いた。
そうして手を伸ばすと彼にぎゅっと抱きつく。
すると誠司さんも僕を包み込むように覆い被さってくれた。
真冬だというのに熱すぎる体温に体を火照らせる。
耳元では誠司さんの荒い吐息が聞こえた。
色っぽい響きに耳さえ犯された気になる。
「はぁ、はぁっ…俺もっ……もう、限界かも……」
「んっぅふぅ…せ…じさっ……」
「充んナカ気持ちよすぎ」
苦笑されて羞恥心が募った。
わけもなく慌てると誠司さんが甘えるように首筋に吸い付く。
それが無性に愛しくて後頭部に手を回すと撫でるように触れた。
「はぁっ、きてっ…誠司さんっ……」
「充」
「んんぅ、ふっ――!」
誠司さんは強引に唇を奪った。
そのまま彼は性器を根元まで突き入れる。
僕は衝撃に目を見開きながら抱き締めた。
(キスされながら射精されたら――またイっちゃう……)
乱暴に押し付けられた唇が甘い。
ぐいぐいと腰を突かれて、僕の内壁は痙攣した。
精子を搾り取ろうと締め付ける。
ひと際強い刺激に、体を仰け反らせた。
熱い精液が放たれる。
(で、出てる……っ)
脈打つ性器に肉体が昂揚した。
いつの間にかしっかりと握られていた互いの手に力が入る。
それは痛いぐらい強いのに、すごく幸せだった。
僕は激しい快感に視界を霞ませたまま目を閉じる。
「好き……だよ…」
深い眠りに入る瞬間、甘ったるく囁かれた気がしたが、返事は出来なかった。
――次に目が覚めた時、僕はひとりベッドで寝ていた。
乱れていた着物はパジャマに着替えさせられ、体液まみれのシーツは別の物になっていた。
「あ…れ…?」
そっと起き上がると体が軋む。
あれだけ激しいエッチの後ならば、体の負担も相当であろう。
僕はゆっくり立ち上がると壁伝いに歩き始めた。
外はもう真っ暗である。
参拝客もいなくなったのか、どこもしんと静まり返っていた。
廊下に出ると電気は付いておらず、どこまでも闇が支配している。
ドアから漏れた自分の部屋の明かりが頼りなく感じた。
(誠司さんは?)
抱き合ったまま眠りについた僕は、その後のことを一切覚えていない。
いつ彼が出て行ったのか――それすら、気付かなかった。
(おかしいな)
みんな仕事が終わっているはずなのに。
家の中にはどこも人の気配がない。
僕は暗闇の中恐る恐る足を伸ばした。
電気のスイッチがあるのは階段の下である。
「なんであそこにしかスイッチがないんだよ」
心細くて声が震える。
やはり真っ暗な家は苦手だった。
体が辛くて思うように動けない分不安は増す。
いつもなら走ってみんなの下に行くのにそれすら出来ない。
「怖くない。怖くないもん」
僕は必死に念じながら独り言を呟いた。
どうにか声を出していないと恐怖に呑まれてしまいそうだったのだ。
だからちょっとしたことでも口にする。
「あ、あれ」
するとせっかく階段下のスイッチまで来たのに、廊下の電気がつかなかった。
僕は何度もボタンを押す。
カチカチ、カチカチ。
それでも電気はつかなかった。
「なんでこんな時に……」
薄暗い闇の中で絶望に浸る。
普通の家ならそこまで恐れることはないだろう。
しかし年季が入った母屋は子供から見ると迷路のように広く恐ろしいものだった。
お札がいっぱい置いてある部屋もあれば、線香臭い部屋もある。
もう少し大きくなれば、何ともないであろう物が今はとてつもなく怖かった。
僕は水を被ったように背筋を凍らせ立ち往生してしまう。
(みんな、いなくなっちゃったの?)
疲れと震えで立っていられなくなり、ずるずると座り込んでしまった。
昔、夜トイレに起きてそのまま迷子になり泣き出したことを思い出す。
さすがに今の年齢で迷子にはならないが同じくらい不安な気持ちだった。
あの時だって真っ暗な中、ひとりぼっちが恐ろしくて腰を抜かしたままワンワン泣いたのだ。
幸い、お母さんが泣き声に気付いて起きて来たお蔭でその場は収まったが、今回はそれも難しそうである。
ギシ――。
すると遠くの方で床の軋む音が聞こえた。
一瞬聞き間違いかと思うが、またギシっと音が鳴る。
思わず音のする方へと顔を上げた。
ギシ、シギ――……。
それは徐々に近付いてくる。
「お、お母さん…それともお兄ちゃん?もしかして…お、お父さん……とか?」
僕は声をかけようとする。
(で、でもなんで明かりをつけないの?)
ふと疑問が頭を掠めた。
誰か居るなら廊下ぐらい電気をつければいいだろう。
真っ暗な中でゆっくりと近付いてくる足音は重い。
そこでいつもの聞きなれた家族の足音とはまったく違うことに気付く。
(だ、誰……?)
僕は生唾を呑み込んだ。
途端に膝がガクガクし始める。
近付いてくる得体の知れない何か――。
それは途轍もなく厭なものではなかろうか。
そう想像するに難くない。
背筋が粟立っていた。
ひんやりとした冬の空気が刺すように痛む。
「や、やだ……」
(お化けなんているわけない)
歯が震える。
呼吸が荒ぶる。
そう思いこみたいのに、恐怖に覆いつくされては何も出来ない。
「せ、せ…せい…じさ…ん……」
(守るって言ったのに)
彼は言った。
僕が望むのであれば、一晩中傍に居てくれる――と。
「っひぅ……ふっ……」
膝を抱えた。
怖くて寂しくて途方もなく不安だったからだ。
最初から素直になっていれば良かったと後悔が押し寄せる。
その間に近付いてくる足音は容赦なく傍まで迫っていた。
「誠司さんっ…せ…じ…さっ…」
縋るような思いで名前を呼ぶ。
それだけでほんの僅かに不安が和らいだ気がしたのだ。
まやかしだと分かっていて呼ばざるを得ないほど、余裕がない。
「……充?」
すると怪訝そうな声で自分の名を呼ばれた。
僕は咄嗟に顔を上げる。
曲がりくねった廊下の先から現れたのは、紛れもなく誠司さんだったのだ。
「なんだ?」
「ひっぅ…ふっ…うぅっ…」
「ちょ…っお前なんで泣いて……」
暗闇の中でうずくまる僕を見つけると慌てて駆け寄ってくる。
彼は重そうな瓶ビールを箱ごと持っていた。
「うぅっ…ばかっ…なんでって…それはこっちのセリフでしょ…っ」
足音の張本人が誠司さんだと気付いた僕は脱力したように項垂れた。
張っていた気が抜けて、力が入らなくなる。
「なんで怒ってるんだよ。ちょっとビール取りに来ただけだろ」
「明かりぐらい…っ…つけてよ!」
「バーカ。両手が塞がっているの見りゃわかるだろ。いちいち面倒臭いに決まってんじゃん」
「うぅー…さいあくー!」
どうやら敷地内の離れにある社務所でみんな一緒に飲んでいたらしい。
お兄ちゃんやお母さん、地域のボランティアやアルバイトの方々もそこにいるという。
道理で母屋に誰も居なかったはずだ。
「で、でもどうして誠司さんが…」
「別に」
すると彼がビールの箱を置いて横を向く。
「それよりお前こそどうしたんだよ。…その、寝てなくて平気なのか」
口篭ったように呟くとぶっきらぼうに僕の頭を撫でる。
その様子に言いたいことが分かってしまい恥ずかしくなった。
「か、体は…へ、平気……」
それを最後に何も言えなくなって下を向く。
しばらくの間、お互い相手のことが見られなくてドキマギした。
別に体を重ねるのはこれが最初ではないというのに。
胸のドキドキが治まらない。
「お、お前のことだ。どうせまた怖くて震えていたんだろ。しょうがないなぁ」
誠司さんはからかうように笑った。
それもまだぎこちない。
そっと僕の目尻に指を這わすと涙を拭ってくれる。
きっと彼は僕が怒るのを待っているのだ。
そうしてこのぎこちなさを払拭させようとしている。
(やばいなぁ)
気遣われていることが嬉しくて顔が緩む。
さっきまで怖くて死にそうだったのに、今は違う。
たとえ延々と続く闇の中でも恐れはない。
「……怖かったよ」
僕は涙を拭ってくれた彼の手を掴んだ。
誠司さんは戸惑ったように目を見開く。
「起きて誠司さんが傍にいなかったから凄く不安になったんだ」
「あっ…みつ…」
「真っ暗なところはやっぱり怖いんだ。情けないよね。でも僕は弱虫だから…」
「…………」
「――だからずっと誠司さんの名前を呼んでいたんだよ。そうすると弱虫の僕でも少し……」
遮るように抱き寄せられた。
少しお酒臭い体なのに、なぜかホッとする。
僕はされるがまま背中に手を回した。
「素直になったら、ずっと傍に居てくれる?僕を守ってくれる?」
「バカっ。素直でも意地っ張りでも……本当はどっちでもいいんだよ」
「誠司さ…」
「俺が傍にいたいんだ。充を守りたいんだよっ」
ぎゅっと強く抱き締められて胸の音が聞こえる。
それが心地好くて目を閉じた。
「つーか、いきなり素直になんな」
「なんっ…」
「めちゃくちゃかわいい。やばい、理性がもたないかも」
「んっぅ…」
そっと耳たぶにキスをされる。
抱き締めていた手が落ちて腰へ――お尻へ這わされる。
「せ、誠司さ……」
積極的に求められて僕もトロンとしてしまう。
あれだけ深く愛し合ったのに、体が疼き始める。
甘く切ない痺れが体を襲って身動きがとれなかった。
少し顔を離した誠司さんはキスを求めるように目を細める。
僕も抗う理由はなく身を委ねようとした。
「――やっぱり仲良しさんなんだね」
するとそこにずいぶん暢気な声が響いた。
あまりに場にそぐわない声色だった。
だから思わず二人は身を遠ざける。
「なっ」
「お、おおおっ、お兄ちゃん!」
そこにはにこやかに笑う兄の姿があった。
この光景にさほど驚きもせず腕を組んでいる。
「誠司。遅い。みんなもうビール空だってよ」
「えっあ……悪い」
反射的に謝った誠司さんだが、未だに目を見開き体が固まっていた。
僕は僕で、座り込んだまま動けない。
「いっつもパシリにされるの嫌がるのに、今日に限っては進んでビール持ってくるなんてな」
「…………」
「やっぱり充の様子を見に行こうとしていたんだろ」
「え…?」
チラッと誠司さんを見る。
すると彼は否定もせずムスッとしていた。
だから僕の顔が赤く染まる。
「だから言っただろう。ケンカするほど仲が良いってね」
お兄ちゃんはそう言って傍にあったビールの箱を持ち上げた。
「寂しいなぁ。いつも俺のあとにくっついていた充が、俺以上に好きな人を見つけるなんて」
「あ……」
「いつまでも俺が守ってあげなくちゃいけないと思っていたんだけど、もうそんな時期はとっくに過ぎていたんだね」
そう言って苦笑する。
僕はその言葉に反応して立ち上がっていた。
第三者に気持ちを知られることのむず痒さにいても立ってもいられなかったのだ。
何より相手は兄である。
大好きでたまらない兄である。
「ち、ち、違うもん!!」
僕の声は部屋中に響いた。
握り締めた拳が震える。
さすがの二人もその声に驚いていた。
「僕はお兄ちゃんが好きだよ!お兄ちゃんが世界で一番好きなんだから!だからこれからもお兄ちゃんとずっと一緒だよっ?」
「なっ――」
「おやおや」
言ったあとに後悔するとも知らず。
そこには嬉しそうに笑う兄と、眉間に皺を寄せた誠司さんがいた。
言った手前どうすることも出来ず、一歩後ろに下がる。
その様子を見ていた誠司さんは僕とお兄ちゃんを交互に見てからこう言った――。
「お、お、お前らっいい加減にしろー―っ!!」
どうやら兄離れ――弟離れはまだまだ先のようです。
誠司さんの受難の日々は続く。
END