9

「昼間あんな事を申しましたが私は貴方がこの村に留まるのを望みません」
「えっ…」
「だからといって村を捨てて着いていく気もありません」
「……っぅ…」
「それでも藤千代は私を好いていると言えますか?」

子供には残酷な選択を与える。
この状況でそんなの言えるはずないのに私は逃がす事無くそう呟いた。
藤千代様はよく私を意地悪だと怒っていたが本当にその通りである。
私は実に嫌な男だ。

「そ、そんな…っ…」

やはり藤千代様には重い選択だった。
彼は泣きそうな顔で私を見ている。

「…あっ、あれからずっと考えていたんじゃ。先生はいつだって正しい。先生の申す事に間違いはないから」
「藤千代は始めから私を買いかぶりすぎです」
「そんなことないっ!」

すると藤千代様は首を横に振って必死に否定した。
腕の中に居た彼は恐る恐る手を伸ばすと私の頬に触れる。
その手は冷えた体には暖かく心地良かった。

「先生の言うとおりじゃった。私はいつでも自分に都合の良いように生きていた。何でも思い通りになると思っていたんじゃ」

藤千代様の頬に一滴の涙が流れる。
それでも彼は私を見上げていた。
拭おうともせず話し続ける。

「でも私は国を捨てられん」
「藤千代…」
「ひっぅ…先生が大好きじゃ。でも…ひっく、でもっそれは駄目なんじゃ…」

とうとう泣きじゃくり始めた藤千代様はどうすることも出来ないもどかしさに悲痛な表情を浮かべていた。
だから私は指でそっと涙を拭ってやる。

「ふふ。藤千代は泣かないのではないですか?」

そして笑いかけた。
すると彼は顔を真っ赤にして気張る。

「なっ…こ、こ、これは涙ではない!」
「ほほう、まさか汗…だと?」
「そ、そうじゃっ。先生があまりに意地悪なんでついっ…あ、汗がっ…ふっ…」

だがどうやら涙は止められないらしく汗と言った矢先に泣いていた。
ポロポロと流れ落ちる涙に胸は痛む。
だけどそれを涙と言わない健気さがどうしようもなく愛しかった。

「それで良いのです」

私が彼に惹かれたのはきっとその強さと気高さである。

「もし私を想い村に残ると言い出したら今すぐにでも引っ叩いて追い出したでしょう」
「ひっぅ…せ、先生は相変わらず鬼じゃ…」
「そうかもしれません」

藤千代様の言い方がおかしくて苦笑した。
泣いている割に尤もな事を言うのだから面白い子である。
その素直さがいつも心を和ませた。
そして私に楽しい日々を与えてくれた。

「でも鬼でもいいんじゃ。私は先生のことを…」
「好いてくれると?」
「うむ。そうじゃ!私はどんなことがあろうとも先生が大好きなんじゃっ」

するとようやく藤千代様は笑ってくれた。
頬を僅かに赤く染め嬉しそうに微笑む。
それと同時に涙は止まった。
その純粋な心が私を救い浄化させてくれる。

「せっ……ん、んっ」

だから私は我慢が出来ずに再び口付けた。
唇に宿る感触は柔らかく暖かい。

「藤千代」
「んっ…」
「なら私と一夜限りの恋をしましょうか」
「!!」

恋なんて甘酸っぱい言葉は何年ぶりに使ったのだろう。
慣れない響きが照れ臭くて恥ずかしい。
自分には不釣合いの台詞だと分かっていたから自嘲気味に笑った。
すると藤千代様の顔が見る見る赤くなる。
先程はほんのり昂揚していたに過ぎなかったのに今は林檎のように赤くなった。
そして絶句したまま口を開けて何も言わない。
やはり私には似合わない言葉だったみたいだ。

「嫌、ですか?」

だから思わず困った顔をしてしまう。
するとそれに気付いた藤千代様はひたすら首を横に振った。
相変わらず変な顔をしている。
もしかしたら緊張しているのかもしれない。
私はそのぎこちない態度にクスリと笑った。
(きっと何も知らないのだろう)
無垢な子供にこんなことをするのは躊躇われる。
だがそれでも私は自分の気持ちを抑えられなかった。
外の嵐がきっと上手く私達を隠してくれる。
そんな風に考えていたのかもしれない。

「藤千代」
「せ、せっ…」
「好きですよ」

私は彼に覆い被さると耳元でそっと囁いた。
藤千代様の耳は虫に刺されたように赤くなっている。
それが可愛くて思わず唇を這わしてしまった。
すると彼は身悶えるように震える。
味わった事のない感触に戸惑っているようにも見えた。

「先生っ…なにっ、ん……」

それでも抵抗する気は一切無かった。
むしろ無防備なまま私に体を預けている。
何をされても構わないと言っているような仕草に胸は熱くなった。
これではどっちが年上か分からない。
だが余裕がない自分というのも久しぶりだった。
こうして誰かの体に触れ疼いてしまう感覚も久しぶりである。

「心配しないで下さい。取って食おうとしているわけじゃありませんから」
「ん、ふぅ…」
「それに愛しい者達は皆していることなんです」
「はぁ…っ、それは本当か?」
「ええ。もちろん」

すると藤千代様の顔が緩んだ。
きっと“愛しい者達”に反応したのだろう。
思わずにやけてしまう顔を止められないのか必死に堪えようとしている。
その力んだ表情が愛しくて首筋に吸い付いた。
そしてゆっくり手を這わしていく。
彼の小さな浴衣へと。

「んはぁ…せんせっ、なんじゃ…ぁっ」

私は撫でるような手つきで触れると藤千代様の胸元から手を入れた。
いきなり浴衣の中に手を差し込まれて驚いた顔をする。
だが私は微笑むだけで手を休めようとはしなかった。

「わっわ、駄目じゃ…そんなとこに手をっ…」

それどころか胸元を大きく開かせると白い肌に唇を寄せる。
浴衣は乱れ肩が丸出しになっていた。
そのいやらしい格好に喉を鳴らしながら吸い付く。
この村に来て少しは日に焼けたがそれでも他の子供達に比べると白い肌をしていた。
きめ細やかで弾力感のある若い肌は触れているだけで気持ちいい。
弄られている当の藤千代様は戸惑いながらも甘い吐息を放った。
未だに信じられないと言った顔で私を見つめ体を開いてくれる。
きっと初めてのことでわけも分からず怖いだろうに止めようとはしなかった。
だから私も襲ってしまいそうな気持ちを抑えてなるべくゆっくりと事を進めていく。

「せ、先生っ…こんな格好、はしたな…いっ…ぞ」
「良いのです。私は貴方のはしたない姿が見たいのですから」
「んっ、ふぁ…」

普段なら浴衣に隠れている胸元に何度も口付けた。
するとそこに赤い跡が残る。
始めは僅かな痛みに顔をしかめていた藤千代様だが跡を残していると知ったあとは自由にさせてくれた。
肌の上を指や唇が這っていく。
小さな体はどんな些細な刺激にも敏感で可愛らしい反応を見せてくれた。
だから私も調子に乗って下半身の方に手を伸ばす。
帯の下を探るように弄れば藤千代様は私の着物を掴んだ。
恥ずかしいのか首を振っている。

「大丈夫」

だから私は彼のおでこに唇を落とした。
そうして安堵させるとまた手を伸ばす。
帯はもう緩くなっていて機能を果たしていなかった。
おかげで簡単に浴衣が乱れるとそこから生足が顔を出す。
傷ひとつ無い脚は羞恥のせいか内股で震えていた。

「や、先生っ…見るな…ぁっ、恥ずかしくて死にそうじゃ…」

普段は隠れて見えない部分が丸見えというのは恥ずかしいだろう。
彼の躊躇いがおかしくなるほど伝わってきて口元が緩んだ。
その初々しい反応が尚更私を虜にしていく。
だが藤千代様は一切その事に気付いていない。

「そうですね。これでは不公平ですものね」
「先生?」

私は一度藤千代様の体から離れた。
よしよしと頭を撫でるとそのまま起き上がる。
そして自分の着物の上半身を一気に開けた。
濡れて張り付いた袖が邪魔だったこともあり上だけ裸になったのだ。
行灯の明かりが揺れる。
藤千代様はじっと固まったまま私の脱ぐ様を見ていた。
だがチラッと彼の方に振り返ると視線を逸らされる。

「せ、せ、先生は意外と良い体をしているのう」
「ありがとうございます。前にも言った通り勉強だけしているわけではないですからね」
「そっそうか」
「ですがさすがに徳田さんには敵わないですけど」

徳田さんはさすが侍だけあってしっかりと鍛えられていた。
確かに刀だけでも結構重い。
それを自在に扱うのだから余程鍛えていないと難しいのだ。
軽やかに扱うが実際に持ってみると振りかざすだけで結構力がいるのだ。
それは上半身だけでなく下半身も。

「あやつは筋肉馬鹿だからあれで良いのじゃ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって…貴方ね…」

ずいぶんな言い様に苦笑する。
だがあながち間違っていないので否定しなかった。
むしろ脳裏には村に来ても毎日鍛える彼の姿が思い浮かんで吹き出してしまいそうになる。

「なっなんじゃ。先生は徳田の方が好きなんか!」

すると私が思い出し笑いをしそうな事にいち早く気付いたのか藤千代様は慌てて起き上がった。
だからため息を吐いてそれを否定する。

「そんなわけないでしょうが」
「だ、だが」
「まぁ嫌いじゃないですけど」
「なんと!」

実際良い人だと思う。
出会いは最悪で、なんて失礼な人だと憤慨したがそれも彼の良さだと気付いてからは腹が立たなかった。
というより藤千代様の彼に対する態度の違いに哀れんでいたのかもしれない。
どんなに一生懸命仕えても当の藤千代様が冷たいのだから同情せざるを得なかった。
(でもま、そういう二人を見ていることが面白かったんだけどね)

「先生はずいぶん罪作りな人じゃ。私は絶対に渡さんぞっ」
「徳田さんを?」
「戯け!逆じゃ逆!徳田なわけないじゃろうが。先生を渡すものかと言っているんじゃ!」

すると妬いているのか必死の形相で詰め寄ってきた。
そしてしっかり抱きつこうとする。
まるで自分の物だと誇示しているような仕草がおかしかった。
いつもなら勝手に抱きつかれて「はいはい」で終わるが今の私は違う。

「せ、先生?」

私はそっと彼の首筋に顔を埋めた。
そして下に回した手でそのまま太ももに触れる。

「やっ先生…っどうしたんじゃ」

いつもなら流されるのに今日は様子が違う事に気付いたのか藤千代様は戸惑っていた。
だけどそれを無視して首筋に埋めた顔を下へとずらしていく。
そして僅かに見えた乳首を甘噛みした。

「い――っ」

それに驚いた彼は顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせている。
だから顔を上げると口付けた。
触れるだけに留まらず強引に藤千代様の口内に舌を進入させる。

「んっ!ふぅ…ぁっ、んっ、んんっ」

それがどういった口付けだと知らない彼にとっては信じられない行為だった。
だから体は固まっていいように蹂躙されてしまう。
呼吸の仕方が分からないのか苦しそうに胸元を叩いた。
だがその腕を掴むと制してしまう。

「ちゅ…っ、ん・・・ぅ、く…ぷはぁっ…」

しばらくして唇を話すと涎が糸を引いた。
それを彼は瞬きもせずに見つめると一気に力が抜けたのか私にもたれかかってくる。

「わかるでしょう?」
「ん、はぁ…はぁ…」
「私がこういう事をするのは藤千代ただ一人です。勝手に焼きもちを妬かないで下さい」
「せ…んせっ…」

絡めた舌の感触は卑猥で興奮した。
でもそれは私だけでなく藤千代様も同じである。
抱き締めた体から硬い物が当たっていた。
もちろんそれは見なくても分かる。
なにせ私自身もとっくに熱くなり藤千代様の体に擦り付けていたのだから。

「い…いつものっ、先生らしく…ないのう…」
「藤千代はいつもの私の方がいいでしょうか?」

私は苦笑しながら引き摺っていた藤千代様の帯を引っ張った。
それをいとも簡単に手繰り寄せて取ってしまう。
お蔭で彼の幼い体が露になった。
揺れる蝋燭の影が妖しさを増す。

「ちが…っ…でもっ…ん」
「でも?」
「…ま、まさかこんなに積極的だとは思わんかった」

それが素直な感想だろうと思った。
何せ普段の私に色恋の影は見えない。
怒られてばかりいた藤千代様なら尚更戸惑うのも無理はなかった。
何せ私自身も戸惑っていたのだから。

「反則じゃ…。だってこんな風に触れられたらもっと好きになってしまう」
「藤千代」
「先生はずるい人じゃ。色んな顔を持っている。お蔭で私は――――んっ」

私は言い途中の唇を塞いだ。
本当にずるい人間だと思う。
だがそれ以上言わせてはならないと思った。
言えば余計に彼が傷つく事を知っていたからだ。
それを本人も分かっているのか大人しく唇を重ねる。
その代わり寂しさを紛らわすように触れた手を握り締めた。
私は後ろに回したままの片手を下にずらすと彼の浴衣を捲り上げる。
そしてそのまま褌へと手を這わした。

「ふぁ…ぁっなんじゃ…?」

もっちりとした尻の感触を手のひらで味わうと驚いた藤千代様が目を見開く。
思わず離しそうになった体をぐいっと引き寄せた。
私は怖がらせないように顔や首筋に唇を落としていく。
藤千代様は慣れない感触に耐えようとしがみ付いてきた。
その隙に褌の紐を食い込ませ擦るように弄る。
発育途中の体は男だというのにどこも柔らかく心地良い感触がしていた。

「ん、んぅ…っぅ…」

藤千代様は押し殺したような声で必死に我慢している。
きっと気を抜けば変な声が出てしまうと思ったのだ。
眉毛を下げ、じっと耐える姿に被虐心を煽られてぞくぞくする。
(もっと可愛がりたいけど我慢できない)
こんな姿を見せ付けられて余裕をかましていられる程、経験を積んでいるわけではなかった。
藤千代様と同じように私も初めて見る彼の顔に魅了されっぱなしである。
心のどこかでたとえ好いたとしても欲情しない可能性を考えていた。
つまり本来あるべき愛する気持ちではなく、好き程度の流された感情なのだ、と。
――だが今の私はどうだ。
獣のように息を荒げ、小さな少年の体を弄り回し興奮している。
性癖として持っていたとすれば、寺子屋の子供達をも同じような目で見ていたはずだ。
しかしこのような不思議な感覚は持ったことがない。
まるで元服前の若者のように純粋な欲望であった。
久しくこんな気持ちになったことはない。

「わっ…ぅく!」

すると藤千代様は目を見開いた。
なぜなら私の指が彼の尻を弄り始めたからだ。
窄まった穴へと挿入していく。

「ま、ま、待つのじゃっ…痛っ、そこは…っ」
「痛い?」
「んぅ、先生…っ本当にど、どうしたんじゃ…っ」

お尻の穴は窮屈で指一本入るのがやっとであった。
その違和感と痛みに顔を顰めている。
だがそれ以上に肛門へ挿入するという行為に驚いていた。

「頭をどっかに打ったんか?」
「さぁてどうでしょう」
「だってそこは…くっ、お願いじゃ…そんな汚いとこ…っ触らんでくれ」

藤千代様は嫌だと首を横に振る。
顔から火が出てしまいそうな程赤らめていた。
彼の自尊心の高さからいえば尻を晒す事自体屈辱的だろう。
それなのに尻の穴を弄られているのだから辛いと思う。
今までは拒絶しなかった藤千代様が嫌だと首を振っていた。
だから私は彼の様子を観察するように見つめる。

「そのお願いは聞けないですね」
「うっ、うぅ…鬼にも程があるじゃろ。先生は本当に私を好いているんか?」
「それぐらい嫌?」
「あ、当たり前じゃ!こんなことされて嬉しい奴なんかいるわけない」

訴えるように睨まれたので思わず苦笑した。
必死な形相すら可愛く思えてしまうのだから仕方がない。

「わかりました」

だが本気で嫌がっていたとしたらそれ以上は触れられない。
私は一度頷くと彼の体から身を引いた。
藤千代様は安堵した様子で私を見上げる。

「なら、もう触りません」
「そ…そそ、そうか」

するとその言葉にひと安心したのか藤千代様は抱きつこうとしてきた。
しかしそれでは私の方がまずい。
だから彼の体を避けた。

「なんでじゃ!」
「だからもう触らないと言ったでしょう」
「なんとっ」

両手を肩まで上げて触らないことを主張する。
というより、触るなと言っておきながら抱きつこうとする藤千代様も変な話だ。
彼からすれば抱きつくのは大丈夫で尻の穴は駄目だったらしい。
(まあ、それもそうだ)
だがそれは彼だけの話である。
私から見れば触るという行為は同じだ。
むしろお預けをくらった状態で下手に触れたら理性が飛びそうな気がする。
だから私は悉く逃げた。
意地になって抱きつこうとする藤千代様の体を紙一重でかわし続ける。
深夜のお堂にドタドタと騒がしい音が響いた。
外は相変わらずの大雨だというのにすっかり忘れてしまう。

「はぁはぁ…先生は子供か」

一進一退の攻防が続きさすがの藤千代様も息を乱していた。

「子供だったら何です?」
「開き直るなっばか者!」
「先生に対して馬鹿はないでしょう?何なら朝まで説教でもしてあげましょうか」

お互い睨み合って引かない。
先程までの甘ったるい空気は消え汗をかく二人がいた。

次のページ