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「お…兄さん…兄さんっ…っぅ…兄さんっ」

気付けば直樹はそのままの格好で兄に続き部屋を出て行った。
受身で待っているのはこれ以上無理だと判断した彼は自らの手で蹂躙される事をねだろうとした。
静かな廊下を走り階段のところまで行く。
もうどんな罵声を浴びせられようが構わなかった。
兄が触れてくれるのなら、それが優しくであろうが意地悪であろうがどうでも良かった。

「に…いさんっ――」
「直樹」
「!!」

すると追いかけていった兄が階段の一番下で振り返り直樹を見上げていた。
まさか章介がそこで自分を待っていてくれるとは思わず直樹はそこで立ち止まる。
階段の一番上と一番下。
その距離がもどかしく思いながら足は動かなかった。
彼は先ほどと違い甘く優しい笑みを浮かべている。
それは最初に二人が対面した時と同じ穏やかな顔であった。

「好き…っ…兄さん、すきっ」

だから直樹は無意識に口走っていた。
章介の始まりがほんの出来心であったように直樹も始まりは出来心からであった。
ただ兄の部屋に置いてある漫画が自分の読むタイプの漫画と違うから読んでみただけであった。
それがまさかここまで発展を遂げるとは思わない。
しかし今の直樹はもう漫画さえどうでもよかった。
章介さえ居ればそれでよかった。
体の疼きを止められるのは兄しかいない。
兄にこんな感情を抱くのはいけないことだと判っている。
その歯痒さに泣いた夜もあった。
尊敬や憧れなど、きっかけさえあれば簡単に恋へと転げ落ちる。
だがそのきっかけこそがやっかいで難しいものだ。
もしこういったアプローチでなければ二人は特別な感情に気付かなかったかもしれない。
だがこの方法が他のケースでも成り立つかといえばそれもまた違う。
偶然が運命を手繰り寄せるといってしまえば格好良いだが、その間に失ったモラルを思えば皮肉にもとれるであろう。

「すきっ」

だがもう兄以外何も見えていなかった直樹にはモラルなど通じなかった。
零れ落ちる“好き”の言葉が何度も口を滑る。
ネジが切れるまで太鼓を叩き続ける人形のように彼は繰り返しそう呟いた。
章介は黙ったままそんな彼を見つめ微笑んでいる。
それが無性に嬉しかった。

「直樹おいで」
「!!」
「さ、おいで」

すると章介は階段の上に居た直樹に手招きをした。
その声は顔と同じくいつもの様に優しい。
先ほどの様な咎める意味合いなどなく純粋に直樹を呼んでいるように聞こえた。
だから彼は兄の胸に飛び込みたい衝動を抑えて一気に階段を駆け下りた。

「兄さんっ」

そのままポスッと章介の胸にうずくまる。
彼も待ち望んでいたかのようにそんな弟をきつく抱き締めた。
発達途中の体はどこも柔らかくて温かい。
触れたところから伝染するように体の温度が上がる。
直樹もまた兄の大きな体に胸をときめかせていた。
いつもは章介が使っているパジャマやスウェットに抱きついて兄と想像するのに今はその本人に抱き締められている。
自身も良く知る洗剤の柔らかな匂いに章介の付けているシトラス系の香水が鼻を擽った。
これが兄の体なのだと実感するように強く抱き締めて体を擦り付ける。

「ほんとはねっ…ぼく、ずっと兄さんにこうして欲しかったんですっ…」
「直樹」

階段下はいうなれば玄関の前であった。
本来ならそろそろ母親の帰りを心配しなくてはならない時間帯なのだが二人は気にも留めない。
見つめ合った兄弟は禁断の一歩を踏み出すように唇を重ねてしまった。
踏み出した歩幅は大きくてもう戻れない事を悟る。

「んぅ、ふぅ…んんっ…」

章介はこれが直樹のファーストキスであると知っているのに関わらず容赦しなかった。
キスをしながらクルっと場所を入れ替え彼を壁に押し付ける。
身長差から必死に爪先立ちになる直樹を尻目に上から押し付けるような口付けを交わした。
ぬめっとした舌を弟に押し付けては口の中を開かせようとする。
為すがままの直樹は動揺も混乱も呑み込まれていいように扱われてた。
(こ…んな、兄さんっ)
まさかあの章介が激しいキスをしてくるとは思わなかった。
彼と初めて会った時はまだ彼女がいた気がする。
少しして別れてしまったようだが彼の恋愛遍歴は知らなかった。
むしろただの家族ならそれが当たり前であろう。
だからこんなにも熱情的なキスに驚いてしまった。
舌を絡めるようなキスは漫画の世界で得た知識で直樹も知っている。
だが実際に経験すると印象は違った。
それだけでなく間近に感じる兄の気配に心臓がドキドキ止まらなくなる。
掠める前髪に鼻先が当たる。
唇を甘噛みしては吸い付いてちゅっと音が響いた。
僅かに開いた唇の隙間を逃す事無く舌を挿入してくる章介はいやらしくも手馴れている。
唇の感触ですら新鮮なのに口内に入って来た舌は強引なほど直樹を蹂躙した。
電気がついていない玄関に二つの影が重なりくちゅくちゅと甘い水音が響き渡る。
外はもう薄暗く街灯の明かりが中にまで漏れていた。
駅から近くのせいか様々な人の足音やら話し声が聞こえてくる。
だがその賑わいから遮断された家の中は異空間にも似たまどろむ雰囲気に満ちていた。
初めてのことだらけで上手く呼吸も出来ずに荒々しいキスを続ける直樹は口元を涎で汚している。
まるで親鳥から餌を貰うように口を開けては章介の舌を受け入れた。
そのままの格好で出てきてしまった為、下半身は丸裸である。
それこそ今両親が帰ってきたら大変な事になるであろう。

「ん、んぅ…っちゅ…ぅうっ、んぅっ」

しかし直樹はそこまで考える余裕がなかった。
壁に押さえつけられ捕らわれた体は身動きひとつ出来ない。
あまりの苦しさに逃れようと顔を背けるがすぐさま角度を変えて章介の唇が襲い掛かってくる。
抵抗する気はないが“待って”の意味を込めて章介の胸元に置いた手も飾りでしかなかった。
章介の両手は壁に置かれて隙間無く直樹を掴まえたままである。
(ふぁ、兄さんのキスってこんなにえっちだったんだ)
普段とのギャップに胸がドキドキ騒いで落ち着かなくなる。
唇を重ねている時の兄を見ようと僅かに目を見開けば章介は挑戦的な瞳で直樹を見つめていた。
そしてネットリと舌を絡ませ見せ付けてこようとする。
それが恥ずかしかったからキスの時はもう二度と目を開けないと誓った。
唇を重ねているだけなのに予想外な兄の雄な部分を見せられてたまらなくイケナイ気分になる。
体はその反応に従順ですぐに熱くなった。
学校から帰ってあれだけ自慰をしていたのに下半身が熱を取り戻す。
だが隠そうにも丸出しな格好では無理があった。
すぐに章介は異変に気付くと膝を割ってくる。

「ん、んっ!ふぁ…にいさっ…」

相変わらず濃厚な口付けを交わしながら彼は膝を使い直樹の勃起したペニスを擦りつけて来た。
強引に割られた足のせいで背伸びも出来ずにガニ股になる。
章介のズボンはデニムで擦れると痛気持ちいい。
スリスリと何度も擦られて無意識に腰を揺らしながらリズムを合わせた。

「あ…はぁっ、きもちい…っ」

章介はようやく唇を離すと今度は首筋に吸い付く。
思わず出てしまった声は十分に悦んでいた。
首筋が焼けるように熱く擦れる互いの体が気持ちいい。
貪るように弟の体を嘗め回す兄は飢えた獣のように強引であった。
二人の影がモゾモゾと妖しく動き縦長に伸びていく。
直樹は章介の肩越しにそれを見て卑猥な気持ちに浸った。
先ほどまで口付けを交わしていた柔らかな唇が自分の体に吸い付いている。
時折噛まれるような痛みを感じて体は悶えた。
砕けそうな腰に足を震わせて満たされる時を待つ。
暗闇の玄関は見慣れている筈なのに違った印象を抱かせた。
それはきっと廊下に木霊する章介の荒い吐息と自分の喘ぎ声のせいであろう。

「あ…にいさっ…」

すると章介は直樹のシャツを捲り上げた。
そのまま首を通すと頭の真上まで腕を持ち上げそこで止める。

「やぁ、これっはずかし…んぅふ…っ」

おかげで両手を上に挙げたまま動かせなくなった。
変なところでシャツが止められたせいで脱ぐことはもちろんその格好から動けなくなる。
衣服がまるで手錠のように絡められ自分の裸が丸出しになった。
元々食が細いせいで貧弱な体がおぼろげに映し出される。
直樹は身を捩って見られまいとするが章介にとっては誘っていると煽るように見て取れた。
だから彼はいち早く体に唇を落とすと鎖骨から胸まで舌でなぞり直樹の反応を見る。
彼は眉毛を下げて身震いするだけであった。
その敏感な反応が可愛くて章介は舌での愛撫を続ける。

「あ…はぁ、ぁ…く…ぅ」

見定めるような章介の舌は直樹の体を焦らしていた。
彼は兄の舌の動きに魅了されてか細い喘ぎ声を放ち続ける。
胸や脇腹、ヘソ、下っ腹などありとあらゆる部分を舐められて本当に食べられてしまうのではないかと錯覚を起こしそうになった。
だが兄に食べられるのならそれでもいいと思えるほど溺愛していた。
無論、二人にカニバ趣味はない。
直樹の体は縛られた状態ということもあり普段より敏感であった。
肌は章介の舌の感触に酔いしれ、もっとと欲している。
さっきまでガニ股だった足もいつの間にか内股になり生まれたての仔鹿のように震えて頼りなさ気であった。
章介が腰を掴んでいなければ今頃とっくに座り込んでいたに違いない。

「ひぁ…あぁっ、にいさ…そこは…っあぁ」

すると脇腹を舐めていた兄が顔を上げてきた。
そしてそのまま舌で脇の下を舐め始める。
その感触に背中がゾゾゾっと粟立ち身震いしてしまった。
くすぐったいと気持ちいいの狭間で揺れる体は気持ち悪いほどの鳥肌を立てながら感じてしまっている。
しかし直樹はそれ以上に恥ずかしかった。

「だめっ…お風呂入ってない、からっ…あぁっ…」

学校では体育もあったし昼休みも外で遊んでしまった。
さらに帰ってきてからは一人で自慰をしては汗をかいていた。
これが真冬ならまだ我慢が出来たがもうずいぶん暑く日中は何もしていなくても汗をかいてしまう。
さすがに恥ずかしくて暴れようとしたが章介は頭上にあった直樹の手を掴みそれを制した。

「はずかし…っ、ふぅぅ…やぁっ」

さっき出した精液を舐められた時も死ぬほど恥ずかしかった。
だが体臭を嗅がれるほうがもっと恥ずかしい。
なのに章介は一切彼の言う事を聞かず直樹の湿った脇の下を舐め続ける。
それもわざとらしく丹念にねっとりと舌を這わした。
まだ毛の生えていないツルツルな脇の下は愛らしくもそのラインが無性にそそる。
だから飽きもせずにしゃぶりついては舌先で味わった。
直樹も胸や脇腹の愛撫よりずっと感じているのか声を抑えもせず喘いでいる。
(はぁっ…こんなとこ舐められて気持ちいいなんて変態だよっ)
兄に変態と言われたが否定できない自分がいる。
むしろ読んでいた漫画の主人公達より淫乱だったとこに気付いて泣きたくなった。
しかも実際にこうしてみると現実の方がずっと背徳感があり変な気持ちになってしまう。
脇の下はとっくに章介の涎でべちょべちょに濡れていた。
それが生ぬるい空気にあたって気持ち悪い――のに、気持ちいい。
片方を舐め終えた章介はもう片方を舐め始める。
直接扱かれたわけでもないのに直樹のペニスはそそり立ち必死に自己主張していた。

「はぁっ、直樹のここ…いやらしい匂いがする」
「や、だぁっ…だから匂いっ嗅がないで…っ…」

このままでは頭がおかしくなりそうだった。
外は何度目かの電車が止まったのか賑わい始める。
もしかしたら自分の声が外に聞こえているのではないかと思ったが口を塞ごうにも動けない。
玄関でこんなエッチなことをされたら、明日からきっとここを通るたびに変な気持ちになってしまうだろう。
見慣れた母親の靴や花瓶の花がその異常さを際立てている気がして気持ちが苛んだ。
こんな万歳のように両手を挙げたまま無防備な場所を晒し貪られている。
伸びた手は助けを求めるように指先を動かし天を仰いだ。
章介の執拗な唇はどこまでもいやらしく直樹の体を求めている。
彼の部屋で見たような意地悪さもなければ普段のように明るく優しい兄の姿ではない。
熱っぽい眼差しで直樹を見つめ体中をくまなく愛撫する章介は男であった。
――そう、彼は自分の兄ではなくただの男であった。
唇を這わす章介を見下ろしながらその事実に胸をきゅんと縮ませる。
薄いシャツから見える首筋はセクシーで、抱き締められた時に感じた腕の太さは自分には持っていないものだ。
抱かれながら今更兄の格好良さに惚れ惚れとしているのだから情けない。
(兄さん、すきっ。全部すきっ)
こうなると身動き取れない体が歯痒かった。
いますぐにでも抱きついてしまいたいのに直樹はずっと受身のままである。
知識だけは豊かな直樹はどんどん先に進みたくなった。
むしろシャツから覗く素肌に興味津々で兄の体を想像しては顔を赤らめる。
そしてもちろん自分の体に当たる章介の硬くなったペニスにドキドキしていた。
このままいけば願望通りお尻の穴を犯されるであろう。
デニム越しに感じるそれは大きくて熱かった。
自分のお尻にソレは入るだろうかと不安を忍ばせながらも興奮の方が大きいから手に負えない。
章介のペニスに想いを募らせる度にお尻の穴がヒクヒクと締め付けた。
もういっそぐちゅぐちゅにされてしまいたい。
奥の奥まで突っ込んですべてを奪われたら今までの自慰をしていた自分も救われる。
だがそれこそが越えてはいけない一線だと気付いた。
しかし気付いたところでもう止まる術はない。
あとに残ったのは淫欲な関係だけであろう。
むしろ兄との秘密に心を躍らせていた。
(母さんは嘘をついてはいけないと言った。でもこんなこと言えない)
それが初めて母親に吐いた嘘になった。
今までどんなことも話してきた信頼関係が一気に壊れていく。
甘くも棘のような恋。
まさか初めての相手が兄で犯される場所が玄関であると誰が予想したであろうか。
これからも表面的には兄弟を貫きながら二人は隠れて情交に浸るであろう。
部屋でもお風呂でもリビングでも――。
もちろん両親の寝室でさえもそれは可能なのだ。
途端にこの家自体がいやらしい娼婦館に思えて身悶える。
犯そうと思えばいつでもどこでも許される開放感とその代わり決して知られる事のない罪悪感は溶けて媚薬の様に胸を擽る。
それは両親を裏切っている不幸と大好きな兄に股を開く幸福に似ている。
相反するからこそ人は魅了されてしまうのだ。
何も知らず純真で真っ白な少年が大人になる時。
それは罪を知り悪に気付いた時から始まるのではないか。
きっと誰にもこの関係を知られることなく直樹は大人になっていくのだろう。
初恋というにはあまりに苦く淫縦な関係であった。

――その後も章介からの執拗な愛撫は続いた。
直樹の体がふやけてしまうのではないかと思うほど舐め回されてしまった。
只でさえ薄い理性が脆くも崩れ落ち直樹は暗い玄関前で喘ぎ続ける。
暗闇で蠢く影は魔物のように溶け込んでいた。
初めて直樹がこの家にやってきた時からの日々が走馬灯のように過ぎる。
章介は弟のペニスを口に咥えながら不思議な気分に浸っていた。
男の性器を舐めるなんて数ヶ月前の自分には絶対に考えられなかった筈なのに、目の前の未熟なペニスを苛めたくて仕方がない。
皮を被り恥垢だらけの汚いものを舐めているのだから信じられなかった。
片方の手ではお尻の穴に指を突っ込んで腸内を掻き混ぜている。
一瞬我に返って何をやっているのだと突っ込みたくなったが、それ以上に興奮していたから止められなかった。
むしろ甲高い声で鳴き続ける弟の姿に心を奪われている。
直樹は予備知識があるせいか何事にも興味津々で体を解放させてやると自ら章介の性器にしゃぶりついてきた。
さすがに味は予想外だったらしく明らかに不味いといった顔をしている。

「…うぅ、だって漫画には美味しいって…」
「はぁ」

彼の歳ではそれがフィクションであると気付かなかったのだろう。
しかし章介は手を緩める事無く彼に咥えさせた。
まさかイマラチオのように強引には出来なかったがしっかりと味や感触を覚えさせた。
これから先も仕込む余地がある事に内心ワクワクしてしまう。
早くも次の目標が出来た事に胸を躍らせていた。
(そうだ。毎朝咥えさせて練習すれば上手くなるかも)
まるでエロゲーの様な世界である。
だが一緒に住むとはそういう事なのだ。
多忙な両親に兄弟は二人っきりなど考えれば考えるほど美味しい。
やり放題なんて下品な言い方は避けたいがそれに近いものがあった。
しかも両親の目という名の刺激まで付いてくる。
些細な障害ほど燃えるものはない。
今までの彼女では当然無理な話であり、男の願望の様なものである。
めくるめく愛欲の日々が頭に浮かんでそれだけでもイきそうになった。
だから章介は健気にペニスを口に咥える直樹の頭をどかせると強引に立たせた。
(挿れたい…早くコイツの中に挿れたいっ!)
直樹は乱暴な程強引な章介に戸惑いながら為すがままにする。
大人しく壁に手を付きお尻を突き出すと挿入の体勢をとった。
(はぁはぁ…とうとうお尻に挿れられちゃうんだ)

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