3

「ここに俺のちんこを挿れるんだよ」
「ふ、えっ?」

その言葉に大きな瞳がさらに見開く。

「さすがにそこまで知らなかったんだね」
「だ、だって……」

お子様の恋。
淡い純愛。
そんなものがこの手で踏み躙られようとしている。

「どうする?このまま挿れちゃう?」
「はぁっん…あぁっ…」
「成瀬君はさ、その歳でお尻を犯されたっていう恥ずかしい男の子になっちゃうけど」
「秋津さ…っ…」
「どうしよっか」

同様に俺は少年の尻を犯した最低の大人になる。
それは誰も望まない未来だ。

「しかも完全に俺のもんになっちゃう」

成瀬の顔を覗き込むと、泣く五秒前のように顔を歪ませていた。
アヌスに挿れた指が締め付けられる。
やはり早すぎたかと虐めたことに後悔を抱いた、その時――。

「……本当、ですか?」

成瀬は手を伸ばすと、俺の首に回した。
首筋に浅い吐息がかかってくすぐったい。

「お尻に秋津さんのを挿れたら、本当に秋津さんのものになりますか?」

きっと不安げな顔を見せまいと抱きついてきたのだろう。
それはそうだ。
いきなり尻の穴に恋しい人の性器を挿れると言われて混乱しないはずはない。
現に震えている。

「無理はしない方がいいよ」

背中に手を回して優しくさすった。
二人してベッドに横になると、落ち着かせようと宥める。
だが成瀬はかぶりを振った。
して欲しいと何度も懇願して体を摺り寄せる。

「秋津さんのものになりたいんですっ」
「成瀬君」
「お願いしますっ。お、おれのお尻でよければ挿れて下さい!秋津さんだけの恋人にして下さい!」

精一杯の勇気を振り絞って縋りついてくれた。
必死に求めようとしてくれる。
いつだってそうだった。
初めての会話は告白で、それまで声すらかけられなかったのに、想いの詰まったラブレターをくれた。
照れるくせに恥ずかしいことを言ってくれる。
その想いを惜しげもなく伝えてくれる。
そのたびに俺は眩暈がして、愛について考えさせられるんだ。

「成瀬君には敵わないな」

俺は時間をかけて彼のアヌスをほぐしていった。
少しでも痛くないように、苦しくないように柔らかくしてやった。
尻の穴に挿れるのは初めてだったし、弄るのも当然初めてである。
だから探り探りだったけど、一度も嫌なんて思わなかった。
徐々に指は本数を増やし、次第に穴は拡がっていく。
濃いピンクのアヌスは熱くヒクついて俺の指を離さなかった。
ここに性器を挿入したらさそがし気持ちいいだろう。
始めは違和感ばかりで苦しそうにしていた成瀬だったが、徐々に感じ方を覚えると触りもしない性器を硬くした。

「あぁ、あぁっんぅ…ふっ…」

お尻の穴なんかで――と、懐疑的でありながら、切なげに喘ぐたびに欲求は募る。
ようやく俺の性器を挿れられた時なんて、興奮のあまりその場で射精してしまうかと思った。

「はぁ、あぁっん…うれしっ、おれのに…っ、秋津さんのが……!」

根元まで挿ると成瀬は涙を流す。
綺麗な涙だ。
それを優しく手で拭うと、目元にキスを落とす。
初めての経験でしんどいだろうに、一言も辛さを零すことはなかった。
小さな手が俺を求める。
それを抱き寄せると、馬鹿みたいに腰を振ってしまった。
散々煽られて我慢してきた箍が外れる。
静かだった寝室は、激しいベッドの軋みと嬌声、荒い息遣いでいっぱいになった。
童貞喪失でもあるまいし、行為に夢中で他のことが考えられなかった。
女性の体とはまた違った魅力に心を奪われて盲目になる。
搾り取るような腸管は、根元をきつく締め、内壁の温度をあげる。
腸壁に塗りまくった精液や軟膏、俺のガマン汁が溢れてぐちゅぐちゅだった。
蕩けきった直腸の中でこのまま性器さえ溶けてしまいそうである。

「ひあぁ、あぁっ…あっんっ……んっあぁっ…はぁっ」

成瀬は「我慢するな」という俺の言葉に従い、声を噛み殺すことなく、喘ぎ声を聞かせてくれた。
声のいやらしさがさらに俺の激情を煽り、心が締め付けられるような異常な高ぶりに脈が速まる。
気持ち良いところを見つけて執拗にアヌスを擦るたび、内部の肉がうねりをあげ不規則に蠢いた。
もっと乱れた姿が見たくて、成瀬の足をM字に開くと結合部分を見せ付ける。
突っ張った尻の穴は腰を引くと赤黒い性器が挿っているところが丸見えになった。
成瀬は嫌だと言いながら視線は釘付けで、目が離せないでいた。
だから浅く小刻みに突いてやる。
入り口周辺を亀頭で擦りつけると嬌声は高くなった。

「やぁ、あぁっん…っ、そこばっかっ…んっんっ…」
「はぁっぅ…じゃあどこ突かれたい?」
「そんなの言えな……っひぁ、あっ……恥ずかしいよぅっ…」

わざとツンツン突くと、強いくらい締め付けられる。
まるで奥へ誘っているようで、たまらない。

「ね、言ってよ。成瀬君の口から聞きたいんだ」

喘ぎ続ける成瀬の耳元で、甘ったるく囁いてやった。
すると思った以上に良い反応を見せ、体を身震いさせる。
膣とは違ったキツさが気持ち良くて搾り取られそうだ。
首筋に舌を這わし、しつこく愛撫しながら様子を窺う。

「ん、んぅ……はあぁっ、あぁっ…おくっ」
「なに?」
「ひぅ…っん、奥にっ、秋津さんの…っ、おちんちんが欲し…っ……!」

成瀬は我慢できるはずもなく、飢えたように欲してきた。
快楽に顔を歪ませながら、先ほどまでの羞恥心をかなぐり捨てて擦り寄ってくる。
男心を擽る悩ましげな表情は、瞼の奥まで焼きついて当分離れそうにない。
(つーか、AV女優よりいやらしい顔している自覚あんのか)
どうしたらそんな顔が出来るのか疑問である。
しかしそれ以上にその表情を引き出したのが俺だという事実に興奮した。
胸が早鐘のように躍って抑えられない。
俺はもう成瀬をただの子どもとして見られないだろう。
それどころかこの姿を思い出して抜いてしまうかもしれない。
理性も粉々になるほどの破壊力があった。
もっと焦らしてやろうと思ったが、俺の方が耐え切れず起き上がると深く突き上げる。

「あ、ああぁぁっ――っ…!」

ぐちゅぐちゅな穴は難なく根元まで性器を受け入れた。
最奥の内壁を亀頭で激しく突くと、成瀬の柔軟な上半身は反り返る。
愛撫しすぎて濡れた首筋は卑猥にテカリ、淫らな花びらを散らした。
彼の足を抱えて再び奥まで突き上げる。

「ひっあぁっああぁっんっ」

成瀬の性器がビクンビクンと脈打った。
ひときわ激しい嬌声が部屋に響き渡る。
俺は射精の兆候だと気付いて、突きながら扱いてやった。

「あ、んぅっ、出ちゃぁ、あぁっ…あぁっあぁっ…あっ――!」

すぐに絶頂はやってきたようで、未熟な性器から精液が噴き出した。
ぴゅっぴゅっ――と、凄まじい勢いで飛び出してきたのは溜まっていた証拠なのか。
ちんぐり返しのように下半身を抱えていたせいで、見事に射精した精液が成瀬の顔にかかった。
自分で放った精液を顔射で受け止める。

「やぁ、あぁっ……はぁ、はぁ……」

そのいやらしさに思わず見入っていた。
量も多く成瀬の顔は白く汚れる。
よほど激しい快楽が突き抜けたのか、自らの精液を被ったことも構わず肩を上下させて荒い呼吸を静めていた。
糸を引きながら垂れた精液が余計に淫猥さを煽っている。
(なんだ。このドエロな生き物は……)
好き勝手にイかされて蕩けた表情を晒し、甘い吐息を漏らしている。
こんな艶やかなイキかた知らない。

「はぅ……あ…秋津さ…ん…っ、すき……」

精液まみれの顔でうっとりと呟かれた。
今まで好きなんて何度も聞いてきたが、胸の奥にまで響いたのは初めてだった。
果てなき純愛。
これだけ汚されてもまだ清らかな眼差しに言葉を失う。
同時に湧き上がってきたのは清純であればあるほど汚したいという自己中心的な欲求で、本能にも近い情欲だった。

「まだだよ」
「ふえ…?」
「俺はイってないからね」

あまりにエッチな姿を見せられて、こっちの我慢が限界に達した。
力の抜けた成瀬の体を軽々抱き上げると腰の動きを再開させる。
それから俺は、飽きることなく成瀬の体を抱いた。
軋んだベッドの上で、シーツの皺も気にならずに体を擦り合わせた。
初めてで慣れない体だと頭では分かっているのに気遣えなかった。
欲望のままに貪り汚す。
成瀬の尻に中出しして、顔にぶっかけて、口を開けさせて精飲までさせた。
我を忘れる。
もはや成瀬の体のことしか考えられない。
中出ししたあとの内壁は、さらにトロトロのアツアツで、これが尻の穴だということも忘れて腰を振った。
何が男だ同性だ。
勃つか分からないなんてなぜそう思ったのか不思議に思うほど勃起が治まらない。
確かにセックスしたのは久しぶりだ。
だけどこんな風にがっついたのは、遥か昔のことである。
成瀬は荒々しく抱かれても嫌がらずに受け止めてくれた。
何度も好きだと呟いてくれた。
そのたびに胸が高鳴って、性器は硬さを取り戻す。
まるで迷路に迷い込んだような気分だった。
好きでもない少年に欲情し、大人気なく執拗に求めている自分。
気付けば俺まで余裕がなくなっていた。
成瀬の体はどこもかしこも甘い。
蜜のように甘くて、味わい続けていたら中毒になってしまうかもしれない。

「ひゃ、あっん…っんっんぅ…秋津さぁ……っ」
「はぁ…っく、……ね、次はどこに出されたい?」
「…っんくっ…どこでもっ……!」
「どこでも?」
「あぁんっんぅ…っ、秋津さんが出してくれる…っなら…どこでも…嬉し…っ!」

成瀬はふやけた顔をして胸元に擦り付いて来た。
すりすり、すりすり。
前髪のこそばゆさと、無邪気に甘える姿に俺の方が夢中になる。
そのたびに彼の肌を吸い噛み付いた。
悔しかったからだ。
俺ばっかり煽られて、俺ばっかり体を火照らせている。
外からは見えない場所に痕を残して満足感に浸った。
裸の二人は何度もまぐわう。

「あ、あっあ…っん、んぅ、っうぅ……っ」
「はぁ……はぁ……ぁっ」

そうして何度目かの射精をしたころ。
尻を持ち上げ後ろから突きまくった俺は、奥の奥で射精すると成瀬のアヌスから抜き取った。
ずるり――とぬめった汁に糸が引き、中に出された白濁液が垂れてくる。
成瀬はイキすぎて放心したのか力なくベッドに顔を埋めていた。
嬌声は枯れて声も出ない。
いつの間にか枕もどこかへ転がっていて、ベッドの下には可愛らしい制服が散らばっていた。
俺の精子は尻の穴から溢れて落ちるとシーツにシミを残す。
成瀬の体はどちらのか分からない精液まみれてベトベトになっていた。

「成瀬君?」

反応ない彼を抱き寄せると、イキすぎて失神したのか、それとも疲れて眠ってしまったのか目を閉じている。
その健やかな顔に、たまらず頬へ口付けた。
気付けば口許が緩んでいて、俺はそっと抱き上げて浴室へ向かう。

「無理させちゃってごめんね」

暴走した己を恥じて苦笑しながら囁いた。

***

二週間後、店に兄貴がやってきた。
店内にはちょうど客がおらず、成瀬とお茶をしようとしていたところだった。
いつだってやってくるのは突然で、オーナーの意識があるのか危うい。
どうせ来ても経営の話は一切丸投げで、彼はお茶を飲んで適当に会話して帰る。
つまり体の良い暇つぶしの場なのだ。
最後に会ったのは失恋直後で「吉信ってバカ?」と言われた時だった
状況を察知したのか、成瀬は兄貴にお茶を出すと慌てて帰っていった。
引きとめようとしたが遠慮して訊かず仕方がなく見送った。

「気持ち悪い」

狭い店内で男二人になると、兄貴はそう口を開いた。
久しぶりの再会で、いきなりそんなことを言われても困る。
怪訝しく首を傾げていると、

「無理するなよ」
「は?」
「それともショックが大きすぎて麻痺してんのか」
「なんだそれ」

身に覚えなくて眉を顰める。
その反応が伝わったのか隣に腰掛けた兄貴は、

「お袋が心配していたぞ」
「なんで?」
「お前の様子が心配で一ヶ月前に隠れて見に来たんだよ」
「ふーん」
「ふーん、て。お前な……。ああもうまどろっこしい!」

頭をガシガシと掻き、真顔で向き合った。
どうやら気を遣っていたらしいのだが、体育会系の兄貴は器用ではなく、気遣うのが苦手な部類である。
とはいえ、俺も意図的に逸らしているわけではなく、本当に言いたいことが分からなかった。

「だからっ!恭子ちゃんに振られて自暴自棄になっていただろう。お袋がここへ様子を窺いに来た時も、落ち込んでいて見てられなかったって言うんで俺は来たんだ」
「あ、ああ」
「それが何だ、今のお前は!ヘラヘラしやがって。何かあったのか?」
「何かって……」

失恋当初だって落ち込んでいたわけではない。
始めは友人に誘われて合コンやら食事会やら連れて行ってもらった。
慰めついでに可愛い子もたくさん紹介してもらった。
でも気乗りしなくて、面倒になり夜遊びすらやめてしまった。
女に対して――恋愛に対して少し距離を置きたいと思い、真面目な社会人として生活していたのだ。
成瀬に告白されるまでは。

「あったといえば、あったけど」

話していいのか思案しながら兄貴を見つめる。
彼が来ない間に起きた変化といえば成瀬と付き合い出したことくらいだ。
(すっげー年下の彼氏が出来たっつったら血迷ったと思われそうだな)
むしろそこまで思いつめていたのかと泣いてくれるかもしれない。
だが実際のところ、成瀬との初々しい恋愛を満喫していた。
初めてのセックスから二週間も経つのに、相変わらず彼はウブで照れ屋で愛らしい。
手を繋ぐのも一苦労で、今では俺が距離を詰めようとあの手この手で気を引こうとしていた。
つまりセックス後に変わったのは俺の方で、適当な付き合いだと見なしていたのに、いつの間にかノリ気になっていたのである。
抱くまで散々余裕ある発言をしていたくせに、なんとも情けない結果だ。
無自覚にも店内の時計を見てそわそわするようになったのもこのころである。
学校が終わる時間帯になると落ち着いていられず、何度も店の外へ出て成瀬が来ていないか確認した。
(しょうがないっしょ。可愛いんだから)
まさか年下の彼氏にハマるとは思わなかった。
始めは新鮮だから面白がっているに過ぎないと思っていたが、どうやら違うようでもっぱら悩みの種である。
なぜ悩んでいるのかというと、気持ちの変化に答えが出せずにいるからだ。
大体少年が相手という時点で〝新鮮な面白み〟の域を超えているだろう。
新鮮というだけで少年と恋人になる喜びを得る人間はごく少数に限られている。
ショタコンという名の特殊な性癖の持ち主だ。
俺は恋愛遍歴からいって彼らと違うと断言できる。
そう、頭ではちゃんと理解しているのだ。
なのに気持ちの上で追いついていない。
なぜこんなにもハマってしまったのか。
なぜ構いたくて仕方がないのか。
頭での理解と心の納得には、近いようで遠い隔たりがあるようで、両者が納得するには相応の答えを導き出さなきゃいけない。
つまり好意と愛情の間で揺れ動いているのだ。
懐いた子どもを愛でる好きと、本当に恋人同士として――性的にも好きといえるのかどうか。
圧倒的前者で付き合い始めて、その針は決して動くことはないと思っていたのに、ここへきて後者へ傾きつつある。
俺は単純に成瀬の気持ちが嬉しかった。
無垢な想いを噛み締めると不可思議な切なさが込み上げた。
面白がっていた時は気が楽だった。
最近はマジなんじゃないかと思い始めて頭を悩ます時間が増えたのだ。
遅まきながら危険な年齢差に犯罪の匂いがプンプンしてきたのである。
現状、このままで良いのか。
まさか本当に成瀬を好いてしまったのか、好いてしまっていいのだろうか。
そもそも成瀬のためにこの関係を続けて良いのか。
問題は山積して、店内で品出しをしながら悶々とする日々である。
なのに成瀬に会うと馬鹿みたいにデレデレしてダメな大人っぷりを発揮した。
案外兄貴の気持ち悪い発言は的を射ている。
心配になって他の少年の動画や画像も見たが、成瀬ほど興味はそそられなかった。
とりあえず人間としてはセーフだ。
可愛いものは愛でるべき――という信条だが、少年まで許容範囲に含めるのは危ない。
どうやら今のところ成瀬以外にそういった感情は抱いていない。
大体成瀬が悪いのだ。
そう。
成瀬が悪い。
なにせ、彼の言動全てが俺のツボに入るのだ。
ちょっとした仕草や恥ずかしげに呟く言葉まで何もかも俺の心を揺する。
誰にだって理想の異性像はあるはずだ。
それを年齢と性別以外クリアしているのだから困ったものだ。
いっそのこと全部計算で、本来の成瀬が狡猾で嫌な男だったらどんなに救われたか。
鈍くさくて不器用で口下手で、――いいところなんて探す方が難しいのに、彼の手にかかると「愛らしい」としか思えない。
散々女と付き合ってきたあげく、胸がきゅんとする相手が少年だったなんて誰にも言えない秘密だ。
言ったら俺の全てが終わる。
(可愛いは正義って本当だったんだな)
今さら実感してどうする。
そんな堂々巡りを繰り返して、成瀬への感情を磨いているのだった。

「なぁ、そんなことより俺に話があって来たんじゃないの」
「まあな」

やはり兄貴にも成瀬の存在は明かせず、適当に誤魔化すと相手の顔を覗き込んだ。
二人はお茶をすすり、誰もいない店内に目をやる。

 

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