6

「ひっ、くっ……秋津さっ、こんなところでっ」
「だってアイスクリームがもったいないでしょ」
「あぁっん、んぅ…、ふっ、ぅ……」

体の至るところにクリームを塗りつけては舐めとる。

「ん、さっき食べた時より甘いかも」
「うっ嘘です…っんぅ、んっ」
「成瀬君の体って、もしかして砂糖で出来てるんじゃない?」
「やだぁっん、そんなこと…っないもんっ……」

成瀬は空いた手で口を覆い、必死に喘ぎ声をこらえていた。
それでも止められないのは、本心では嫌がっていない――いや、俺に触られて悦んでいるからだ。

「はぁ……甘っ」

本当にどこを舐めても甘く感じてしまう。
少し取り乱すくらいでやめてやろうと思っていたのに、止められなくて存分に成瀬の華奢な体を味わった。
気づけばアイスはほとんどなくなり、最後のひとくちを指ですくうと彼の口へもっていく。

「ね、舐めてよ」
「秋津さん……」

立ち上がった俺は挑発的に成瀬を見下ろして口許を歪ませた。
体中舐め回されて身悶えていた彼は物欲しげに瞳を潤ませて俺の名を呼ぶ。
どんな淫語より下半身に響く言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。

「ん……っ」

ゆっくりと小さな口が開いて俺の指ごと咥えた。
アイスの冷たさに一瞬だけ目を細めるが、構わずにしゃぶりつく。
温かな咥内の感触に、これが己の性器だったらどれほど気持ちいいかと想像した。
成瀬は性知識に疎く、何も知らないまま言うとおりに従っているだけで、これが意味する行為を知りもしない。

「んぅ、んっ……はぁっ……」

俺が指で舌を擦るとこそばゆそうに身をくねらせた。
面白くて咥内を弄ると、ダメだと言わんばかりに首を振る。
それでも彼は指を離さず赤ちゃんみたいに吸い付いてきた。
どこまでも従順な姿にもっと苛めたくなる。
だけど泣かせたくなくて加減が難しかった。
一通り弄って満足するとようやく許してやる。
成瀬の頭を撫でると「もういいよ」と優しく言い聞かせた。
その様子に彼は縋りつくような目で見つめ、へなへなと座り込んでしまった。
見れば水着が盛り上がっている。
どうやら弄られて興奮したらしい。
成瀬は俺の視線に気付いたのか、慌てて股間を隠した。
「見えた?」とでも言いそうな彼の眼差しに柔和な表情で頷くと、みるみるうちに顔を真っ赤にして、燃えるように上気してしまった。
顔どころか鎖骨辺りまで赤みが消えなくなる。

「じゃあいこっか」
「ど、どこへ……?」

俺はそんな成瀬の手を引くと、流れるプールへ戻った。
雅たちは先に行ったようで、使用していたテーブルには別の少女たちが腰掛けている。
躊躇うことなくプールに入ると、成瀬の手をそのままに人の間を縫うよう歩いた。
そうして元の広場まで戻ってくると、水中からあがって更衣室へと向かう。
幸い今の時間は空いているらしく、着替えている人も疎らでシャワー室にも人気がなかった。
そのうちのひとつに入るとカーテンを閉める。
前かがみ気味で不安そうに辺りを見回す成瀬は、そわそわと落ち着かない素振りで様子を窺っていた。
トイレに行くと思っていたのだろう。
股間を押さえ足を擦り合わせながらモジモジしている。
シャワーのコックを捻ると温い水が降ってきた。
彼は肩を震わせ、先ほどより心細そうに俺を見上げる。

「もう一度訊くよ。どうしたの?」
「………………」
「はぁ……成瀬君って意外と頑固だよね」

俺は反応を見越していたように成瀬の水着を脱がした。
白くつるりとした尻が顔を出す。

「な、にっ……」

僅かに抗うような仕草を見せる彼を後ろ向きにして壁に押し付けると、尻の穴に指を這わした。

「ひっぅ……っ」

いきなりの刺激でも柔軟に受け入れる穴に、すぐさま指を増やす。

「教えてくれないならこのまましちゃおうかな」

彼の背中にキスを落としながら舌を這わした。
そのたびに腸壁は締まって指を引きちぎろうとする。
俺の部屋以外の場所で行為に及ぶのは初めてだ。
ただでさえ気の小さな成瀬には耐え難い状況である。
すぐに嫌がってワケを話してくれると思ったのに、それでも成瀬は口を開かなかった。
それどころか顔だけ振り返ると訴えるように俺を見つめる。
目じりに溜まった涙は何かの拍子に落ちてしまいそうなのに、頑として泣くことを拒否しているようだ。
(別に……俺だってムキにならなくてもいいのに、何をやってんだろう)
年下相手に大人気なく苛めていることに気付くと、厭わしい気分が広がった。
俺はただ成瀬の些細な変化が気になっただけで、意地悪をしたいわけじゃない。
そもそも考えてみれば、成瀬が不機嫌だって俺には関係ないことだ。
苦手な同級生を前にして不機嫌だっただけかもしれないし、何か腑に落ちないことがあったのかもしれない。
無理に問いただすほど重要な話ではなく、わざわざこんなところへ連れ出して何をやっているのだろうと我に返った。
彼の全てを知っているわけではないし、知る必要もない。
他人に対してそこまで固執する意味はない。
「何か嫌な思いさせちゃったかな。ごめんね」と、軽く声をかけて適当にフォローすれば十分だ。
遊びに戻ればいつの間にか機嫌も直って楽しく一日を終わらせられる。
(なのになんでこんなイライラするんだろう)
自分でも必死なわけが分かっていなかった。
頑なに口を割ろうとしない成瀬に意固地になっているだけなのか。
年上として引くに引けなくなっただけなのか。
よく分からない。

「あ、あっんぅ、……ふぅっ、ふぅっ……」

成瀬は声を出すまいと口を手で押さえ、喘ぎ声を噛み殺していた。
だいぶほぐれたアヌスは指で広げると柔らかく伸びる。
初体験からだいぶ経つが、ここは変わらず薄桃色の愛らしい形をしていた。
可愛がれば可愛がるほど応えるようヒクつき、誘うように穴の形が変わる。
次第に同性としての嫌悪感も薄れて、初めての時のような戸惑いは感じなくなった。
俺は吸い寄せられるように跪く。
手で双丘を割り、奥に隠れている尻の穴に唇を落とす。

「やぁ、あぁっ!」

途端に成瀬の嬌声が響く。
我慢していたとはいえ、俺の行動は想定外だったようで驚嘆に目を剥いた。
放たれた声に慌ててシャワーを強くする。
土砂降りのような水音で室内はいっぱいになった。
俺は気を取り直して成瀬の尻を鷲掴みにすると、女とセックスする時のようにアヌスへ舌を挿入した。
いつも指でほぐすだけだったせいか、成瀬はそこを舌で愛撫することを知らない。

「ひぅ…、く、汚っ、……からぁっ……」
「んんっ、んぅっ……」

信じられないと耳まで赤くした彼は抗うように腰を振った。
それでも俺は離れず、窄みへ舌を這わす。
成瀬の反応は煽っているようにしか見えなくて、丹念に腸壁を舐め回した。
彼が気持ちの良い場所は把握しているから喘がすのは簡単だ。
指で強引に開かせた穴へ舌をねじ込み先っぽで突っつく。
涎で濡れているせいか、思ったより楽に奥まで挿入出来た。
舌に力を入れて内壁を擦りあげると、体は気持ち良さそうに波打つ。
初めての感触に身震いしながらも恥じらいは忘れず、俺の頭を押しのけようとした。
しかし後ろから責められては太刀打ち出来ないだろう。
結果、いいように弄くられてしまう。

「ひ、んっ……んっ、んぅっ……」
「はぁっ、成瀬君の尻、マシュマロみたい。すっごい可愛い」
「やだぁっ、んぅ、っん……おしりっ、ぺろぺろって……んくっ」

犬のようにしつこく舐め、ほじり、犯す。
性器や指のような硬さはないが、ぬめった舌は尻に新たな快感をもたらす。

「ん、こんないやらしい顔を見せてくれるならもっと早く舐めてあげれば良かったな」
「秋津さ……っ、やぁ、あっんっ、舐めすぎです、ひくっ、いつまで――!」
「逃げちゃだーめ」

強すぎる快楽から逃れようとする成瀬を押さえつけた。
逃げようにも無防備な背中を晒し、好き勝手にいじられている。
そんな姿が愛らしくて、もっと可愛がりたくなる。
俺は負けじと出来る限り奥まで舌を突っ込んで、柔らかな内壁を舐めあげた。
シャワー室の壁にしがみ付きながら愛撫を甘受していた成瀬は、次第に力を失い吐息が荒くなる。
それどころか艶かしく腰をくねらせて壁に自身の性器を擦りつけていた。
目を閉じ眉を下げながら快楽に酔いしれているようだ。
時折かぶりを振り、己に言い聞かせるよう「だめ、だめっ……」と呟いている。
理性と本能が相克して悩ましげな吐息を漏らしていた。
そこにはつい先ほどまで同級生の尻に敷かれていた面影はなく、清らかな妖艶さを身に纏っている。

「んぅ――っ!」

成瀬は初めての刺激に耐えられずあっさり射精してしまった。
流れ落ちるシャワーの水に混じって白濁液が排水溝へ吸い込まれていく。
合わせてアヌスもぎゅっと締まったが、俺は構わず舌で陵辱し続けた。
手でたまを転がしてやると益々蕩けそうな顔を見せてくれる。
ただでさえ一度出して体力が消耗している時に、肛門を執拗になぶられて、大きな声を出さなかっただけでも偉かった。
その代わり抵抗する気力が失せたのか、尻を突き出して甘えるように押し付けてくる。
そんな成瀬が余計に愛しくて、愛戯は激しさを増した。
成瀬がへろへろになって立っていられず、その場に座り込むまで内壁を虐めてやった。

「はぁ……はぁっ、そんなにしたら……お尻に力が入らなくなっちゃいます……っ、はぁ…開きっぱなしになっちゃう…っ…」
「そしたらどうしよっか?」
「んく……い、意地悪……です……」

身悶えるように尻を向けて唇を震わせている。
肌自体が敏感になっているようで、肩にシャワーの水が当たるだけで妄りがましい声を漏らした。
上気した頬に濡れた髪から垂れた雫が色っぽい。
一度射精した性器は再び勃起して、彼の下っ腹についてしまうほど元気になっていた。

「そんなに俺の舌気持ち良かった?」
「それはっ」
「成瀬君はどんどんエッチになっていっちゃうね」
「……っぅ……」
「でも俺も出さなきゃもとには戻らないなぁ」
「あ……」

尻の穴を舐めていただけで下半身を滾らせていた俺は、彼を笑い者には出来ない。
目の前で水着を脱ぐと、成瀬に劣らず熱くなっていた性器が飛び出した。
(少年の尻を舐めて勃起させた方がやばいわな)
最近加速する体に気持ちの方が追いついていかない。
俺だって初めてだ。
初めて尻の穴なんか舐めた。
女ですら舐めようという気にならなかった不浄の穴だ。
なのに舌に残る不確かな感触は嫌悪より興奮が勝ってしまった。
成瀬は俺の勃起した性器に息を呑む。
ゴクリと喉が鳴った音が聞こえた。
上目遣いで煽る仕草は誘っているとしか思えない。

「……おいで」
「んく」

手招いてやると成瀬は素直に俺のもとまでやってきた。
やはり待ち焦がれていたようだ。

「さっき指を舐めたみたいに俺のちんこを舐めてごらん」

成瀬の触り心地良い猫毛を撫でてやると、自ら性器へと促した。
理解の早い彼は頷くと、恐る恐る俺の陰茎に顔を近づけてぺろりと舐める。
それから反応を見ようと顔をあげた。

「いい子いい子」
「秋津さ……」

微笑んでやると成瀬の固かった表情が和らいで、もう少し積極的になる。
成瀬は俺を想って懸命に舐めた。
まずいだろうに文句も言わない。
男性器に対して不快さを微塵にも出さず、どうすれば良いのか分からないのに、喜んでもらおうと必死になって舌を這わす。
そのぎこちない愛撫は、さほど気持ち良くもないのに胸を擽り情感を高めてくれた。
精一杯の想いが伝わってくる。
手に取るように成瀬の気持ちが分かって切なくなる。
どんなテクニックより勝るのは愛情なのだと、この年になって改めて気付かされる。
股の間に顔を埋める姿を眺めながら心は無に還った。
同時に今までモヤモヤしていた原因の正体を認めて苦笑いを浮かべる。
(……もう、誤魔化せないな)
こんな健気に奉仕されて、何もなかったで終わらせられるはずがない。
俺は口淫する成瀬を見下ろしながら、

「今日は散々酷いことしてごめんね」

成瀬の後頭部を優しく撫でてやった。
性器を口に含んでいた彼は、咥えながら目だけ上を向く。

「俺、雅ちゃんにヤキモチ妬いていたんだ。なんだかんだいいながら成瀬君と雅ちゃんが仲良いからさ、温かく見守っていようと思ったのに、内心嫉妬してイライラしてた。大人の俺が子ども相手に妬くなんて格好悪すぎだよね。それを認めたくなくて成瀬君に八つ当たりしてた」

冷静になってみると簡単なことだった。
嫉妬、やきもち。
仲良さ気な雅と成瀬の姿にイライラを募らせてムキになっていた。
成瀬の些細な変化にも過敏になって、意地悪く訊問するような真似をしてしまった。
雅じゃなく、俺には――俺だけには本音を吐露してくれると思い上がっていたんだ。
そんなことで優越感を得たかったんだ。
自分は特別なのだと。
だって成瀬に愛されているのは俺だからと。
今時小学生だって好きな子相手に泣かせたりしないだろうに。
俺は前髪をくしゃっと掻くと呆れたようにため息を吐いた。
性器を咥えたまま固まっていた成瀬の肩を掴み起こしてやる。
彼はただでさえ大きな瞳を燦然と輝かせて俺を見上げていた。
誤魔化しの効かない無垢な眼差しに、益々己の心の狭さを実感して目を伏せる。
本当は心のどこかで期待していたんじゃないのか。
雅と一緒にいたくないという成瀬の言葉を待っていたんじゃないか。
だとしたら自ら彼女たちを誘っておきながら勝手な男だ。
口先ばかり格好つけて泰然とした大人を装いながら、内心はやきもちを妬いて恋人を困らせている。
雅と成瀬が並ぶ様子は、俺と成瀬が一緒にいるよりしっくりくる。
いや、ここまできたら素直に認めよう。
二人はお似合いだ。
実際にそれらを目の当たりにした時、思ったよりショックだった。
突きつけられた現実に顔を背けたくなった。
どんなに足掻こうとも俺と成瀬じゃ恋人同士には見えないからだ。
(誰より女々しくて面倒なのは俺じゃないのか)
知りたくなかった情けない姿に消えたくなる。
醜い本性が暴露されたみたいで虫唾が走った。
余裕のある男でありたい。
悠然と構えていられる大人でありたい。
どんな時も従容としていられる人間でありたい。
成瀬にも雅にも勝っているのは年齢と経験だけだからだ。
体だけがデカイ器の小さい男なんて誰も好きにならない。
きっと成瀬だって好きになってくれない。

「――ね、どうして俺のこと好きになってくれたの?」
「えっ」
「どうして告白なんか……」

幾度聞いても得心いかなかった問い。
店の外から成瀬は何を見ていたのだろう。
店先からどんな風に俺を見ていたのだろう。
(どうしてこんな俺なんか……)
成瀬の大事な気持ちをリハビリ代わりに使おうとしていた俺なんか好かれる資格はない。
ずっとそう思って自信がなかった。
その隙間には不安や嫉妬が簡単に入り込んだ。
そうして今回のように成瀬を苛めてしまう。
でも俺だって変だ。
リハビリ程度の相手に不安や嫉妬なんて抱く必要ない。
気持ちが離れれば別れればいいし、ひとりに戻ったって惜しくもない。
好意もない相手に対して恣意的に振舞っても罪悪感なんて生まれないはずだ。

「……それはっ……」

成瀬は一瞬の躊躇いのあと口をついた。
俺の声が切羽詰ったように聞こえたからだろう。
意を決したように顔を向ける。

「秋津さんが笑っていると……嬉しいから」

見たこともないほど真剣な表情に、俺も逸らしていた目を合わせる。

「お店が通学路の途中にあって毎日前を通っていたんです。全然興味なんてなかったのに、ある日、お客さんを見送る秋津さんが外へ出ていてたんです……すごく優しそうに笑っていて、それでっ……」
「…………」
「一度気付くと目で追っちゃって、でも見るたびに秋津さんはにこやかに笑っていて、それを見るとどんなに学校で嫌なことがあっても嬉しくなるんです。気持ちが軽くなっておれまでつられて笑顔になっちゃうんです」
「成瀬君……」
「お客さん相手だからって分かっていても、気持ちを止められなかった。毎日、毎日……土日も見に行って、お店にはどうしても入れなかったから窓から盗み見て……っ、勝手に好きになってごめんなさい。す、ストーカーみたいなことして……っ、ごめんなさい!」
「…………」
「気味悪がられると思って言えませんでした」

精一杯な二度目の告白。
一度目より饒舌で、せかせかと言葉を連ねるさまは、緊張しているせいだろう。
僅かな間が耐えられなくて、無言の空間が恐ろしくて、成瀬は最後まで一気に言い切る。
捲し立てるような勢いに、溢れる戸惑いと不安が痛いほど伝わってくる。
彼だって悩んだに違いない。
なぜ自分はこんな年上の男が気になってしまうのか。
これは憧れなのか恋なのか。
瞼を閉じれば煩悶とした日々が目に浮かぶようだ。
誰にも言えず育まれてきた純愛は宝石のように煌いて、俺にはもったいないほどである。
(気持ち悪いなんて思うわけないのに)
でも納得した。
成瀬は自分が変だと自覚しているから、何事にも自信がないのだ。
だから俺を見る時、いつも不安の影を目に宿らせている。
常に心の底では嫌われることや煙たがれることを覚悟しているのだ。
全部自分が悪いと思っているからだ。
それは成瀬の年で抱えるには大きすぎる荷である。
俺には支えることが出来るのだろうか。

 

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