4

董右衛門は涼しげに後ろへ下がると、今度は正吉の方へ振り返る。
滴り落ちる血に、剣を振り刀を向けた。
一連の動作を見ていた正吉は、苦虫を噛み潰したような顔で彼を見る。

「なぜだ。お前が剣を扱えるなど聞いていなかったぞ」

声に焦りを滲ませた。
いまだ正吉が優勢であることに変わりはない。
しかし勢いは確実に董右衛門の方にあった。
吾郎や茜が必死に戦っている。

「それは当然でしょう。秘密裏に剣術を習っていたのですから、誰にも知られるはずがありません」
「……っぅ……!」
「金貸しは案外、力勝負なのですよ。大名でもないのに、忍びを雇わなくてはならないし、己を鍛えなくては生きていくことすら困難」
「そんな馬鹿な」
「あなたのような考えを持つかたと渡り歩いてきたのです。ただ今回ばかりは幼少からの縁が私の眼を濁らせました。最悪の事態になった悔いは残りますね。お父上も可哀想に。こんな放蕩息子に店を潰されるとは憐れでなりません」
「な、なにを……」

正吉は怒りに震えた。
隠し持っていた小刀を私の喉元に押し当てる。

「幼馴染だと思っていたのによ……」
「それはこちらの台詞。博打に女、酒で散財するなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあります。私も今までよく貸していたと思いますよ。本来ならばとっくに切っていた客でしょう」
「チッ。昔から正論ばかり吐きやがって。そういうところが嫌いだったんだよ!」

二人のやりとりを身動き取れないまま見つめる。
正吉はこれ以上にないほど顔を赤くして激昂していた。
対する董右衛門は冷静な眼差しで余裕すら感じる。

「……さて、時間を潰すにはそろそろ頃合でしょう」
「あぁ?」

すると董右衛門は刀を鞘にしまった。
いまだ廃寺の近くで戦っている浪人たちを呆れた眼差しで見ている。

「何を言っている?お前らの方がずっと不利で――」

正吉は怪訝な顔をした。
だが明らかに顔色が悪く、良くない事態が起こることを知っているかのようだ。

ピー、ピーー。

その時、杉山大橋の向こうから笛の音がした。
暗闇から浮かび上がるように提灯の大群が迫ってくる。

「こういう時に顔が広いっていうのは便利ですねぇ」

董右衛門はしたり顔で正吉を見た。
浪人たちも事態の急変に気付いて動揺している。

「貴様……始めから、時間稼ぎのつもりで……」
「勝てる喧嘩しか買わないのも道理。手段を選ばないのも道理」
「……くっ……」

崩れるように座り込む正吉に、私はようやく解放された。
その間に提灯の群れ――もとい奉行所の同心や岡っ引きが浪人たちを取り囲んで、縄につけている。
だが、正吉は諦めるつもりがなかった。
最後の力を振り絞るように、持っていた小刀で自らの腹を裂こうとする。
真っ先に気付いた董右衛門は、素早い仕草で彼の手首に当て身を食らわすと小刀は落ちた。
それに対して正吉は忌々しげに見上げる。

「自害すら許さないというのか。なぜ……お前は、そんなにも強くいられる?」

その問いに、小刀を拾いながら彼が笑った。

「だてに金と命のやり取りで商売していませんよ」

***

そうして正吉一派が捕らえられたあと、私たちが屋敷に戻ったのは、日付を跨いだ深夜のことだった。
早々と部屋へ戻る二人に、董右衛門と共に見送る。
いざ二人っきりになると気まずかった。
今までの慌ただしさが嘘のように静かで戸惑う。

「……本当に私がここへ戻ってもよいのでしょうか」

物音ひとつしない廊下に、床の軋む音が響く。
董右衛門に連れられて戻ってきたが、どうしても躊躇いは拭えなかった。
一大決心をして出て行ったのに、のうのうと戻ろうとしていることに違和感を隠せなかったのだ。
彼は何も答えない。
ただ私の手を握り、隣を歩いている。
辿り着いたのは懐かしの自室であった。
襖を開ければ、数ヶ月前と変わらない趣のある部屋が広がっている。
障子越しに月明かりが射しこんでぼんやりと明るかった。
庭の鈴虫が鳴いているであろう、切なげな音が木霊している。

「もう全て終わりました。今まで座敷牢に閉じ込めていたことは謝ります。今日からは元の部屋でお過ごし下さい」

董右衛門の手が離れた。
彼はそれだけ言って部屋を出て行こうとする。

「ま、待って下さい……!」

咄嗟に着物の袖を掴んだ。
それに足を止め、彼が見下ろす。

「どうして……いつも、大切なことは言ってくれないのですか」
「…………」
「家族のことも、私の身が危険であることも。……いつも、いつもっ――いつも乱されて、必死になるのは私の方です!酷いことをされたかと思えば、急に優しくして……冷たい人かと思えばっ温かくて……っ……っ、わ、わたし……っぅ……」

声が闇夜に溶ける。
あとに残らず陰々とした無音が続いているばかりだ。
自分で思っているより必死な声が痛々しい。

「――では何を言えば小太郎は満足するのです」
「え?」

すると董右衛門の顔を見上げた。
困惑する。
月光に照らされた彼の頬が僅かに赤くなっていたからだ。

「金勘定なら得意なのに、こういう時なんて言えばいいのか分かりません」
「董衛門様……」
「どうすればあなたを引き止めることが出来る?……どうすれば、あなたの心を惹くことが出来る……?」
「――!」

董右衛門は私の体を抱き締めた。
一瞬のことで何が起こっているのか分からなかった。
(あ……)
だが彼の体が震えていることに気付いて、胸が高鳴る。
あれだけ胆の据わった男が私を抱いて震えている。

「……董右衛門様、教えて下さい。どうして私だったのですか。他にたくさんの色子がいたのに、半人前なんかの私をなぜ身請けして下さったのですか」

胸の心地好さに大人しく身を預けた。
ちょうど耳に鼓動が響いて意味なく安堵する。
それは私と同じくらいの速さだった。

「言えない」
「それは、言えないような――」
「違います」

董右衛門は体を離した。
バツの悪そうな顔をしている。

「言っても信じてもらえないでしょう」
「そんなっ!私は……」

顔を背ける彼に食い下がった。
必死な思いで見つめ返す。
思わず声を荒げると董右衛門は自嘲気味に笑った。

「ひと目惚れです」
「え?」
「たまたま顧客の接待で使った茶屋にあなたがいて、すぐに一晩買いたいと申し出たのですが、まだ新造だと断られてしまいました」
「あ……」
「それ以来、他の客に取られまいと、時間を見つけては茶屋へ覗きに行きました。想いは募るばかりです。楼主とも身請けの相談を重ねて、その間にもみじの話を聞き、庭にもみじを植えさせました」
「えっ、じゃあ庭のもみじは私のために……?」
「この部屋も庭のもみじも気を引くためのものです。すべては小太郎を手に入れるために」
「……っ……」
「私もまさか衆道に落ちるとは思いませんでした。しかもまだ幼いあなたに恋焦がれるようになるとは……誤算もいいところです……」

困ったように頭を掻いて、私を見た。
その視線に囚われて動けなくなる。
同時に気付いてしまった。
ずっと欲しかった言葉、ずっと待っていた言葉。
全ては望んでのことである。

「嬉しい……」
「小太郎」
「もっと董右衛門様の気持ちが知りたい!なんでもいいのです。あるがままの気持ちを私に教えて下さい」

すると彼は頬に触れた。
そのまま淡い口付けを交わすと、腰に手を這わす。

「想いのまま呟いても良いというのなら、今すぐこの場で小太郎を抱きたい」
「ん……っ」
「朝まで私で満たして、もう他の誰かなんて目に入らないようにしてしまいたい」

腰から太ももまで撫でるように触れる。
その手つきがいやらしくて、顔が熱くなった。
(でも嫌じゃない)
正吉の時は近付くだけで嫌悪したのに、今はこんなにも胸がときめいて苦しいくらいだ。
吐息の触れる距離では焦点さえぼやけて、彼の目を見られない。
囁くたびに唇のどこかが触れる。
体が冷えているのか、互いの唇は少しだけ冷たくて現実を呼び起こした。
その間に董右衛門の手は尻に回り、何度も撫で回す。
着物の上から尻の穴を探られて弄られた。

「ここに挿入して良いのは私だけ」
「んぅ、ふ……」
「正吉には冥途の良い土産になったでしょう。本来ならこの手で殺めたかった」
「あ、っん……董右衛門様…っ…」
「まさか鳴き声は聞かせていないでしょうね」
「ひ……ぁっ、んぅ……当たり前っ、です……」
「よろしい」

ぐりぐりと責められて、卑猥な声が漏れる。
よほど先ほどのことを根に持っているのか、董右衛門は自らの性器を押し付けて問いただした。
もう熱くなったその感触に、恥じらいと興奮が溢れる。

「はぁ、ぅ……董右衛門様以外のお人に抱かれても、気持ち悪いだけ……」

眼差しは初めての時のように熱情的で強かった。
そんな目で見られたら、きっと誰も抵抗できない。

「可愛いことを……っ……」

彼は欲情を深め、強引に着物を捲った。
月光に白い肌は浮かび上がる。
長い間陽の光を浴びていなかった体は陶器のように白く、女のように艶やかだった。
弄る手は性急で、ふんどしを脱がす間もなく隙間から尻の穴に指を入れる。
その間に鼻息荒く首筋にしゃぶりついた。
重なった体を上下させ、互いの性器を擦り合わせる。
彼の唇は首筋から鎖骨へ、着物を乱し肩、胸元へと降りていった。

「あぁ、いつ見ても男を惑わせる美しい肌だ」
「はぁっ……んぅ、ふっ……そんな、舐め回しても美味しくないです……っ」
「馬鹿なことを。謙遜しても煽るだけだ」

余計に激しく愛撫されてしまう。
片手で強引に帯を取られた。
露出した体は、熱で暑いくらいだった。
いたるところを愛されて、気持ちよさのあまり喘ぎ声を漏らす。
敏感なヘソは触れられただけで少し射精をしてしまった。
その度に尻は董右衛門の指を締め付け、早くとねだっている。
今の二人には我慢できるはずもなく、倒れこむように窓際の机に押し倒された。

「布団を敷く余裕すらない」

そう笑っても目は笑っていない。
私の足を広げ、すぐにでも挿入する気満々なのだ。
ふんどしさえ取られて、何も隠せるものはない。
(また抱かれてしまう)
とっくに指でほぐされぐちゃぐちゃだった尻はヒクついて蠢いている。
下半身は丸見えで、戸惑いながら彼を見上げた。
脈を打つ猛々しい肉棒は、躊躇いもなく宛がわれて挿入される。

「はぁあ、あぁっ……」

ずいぶん悩ましげな息が零れた。
昨日散々犯された穴は、味を忘れず簡単に飲み込んでいく。
ぐいぐいと奥を犯す董右衛門の胸元に手を置いた。
気持ちよさしかない内壁が怖くて、僅かな抵抗を示す。
それは無意識の反応だ。
繋がることが出来て嬉しいのに、強い快楽に流されてしまいそうで不安になる。

「あ、あぁっ……うぐっ、うぅっ……ぁっは……」

彼は分かっていて止まろうとしなかった。
貪るように根元まで入れる。
掴んだ着物に胸元が乱れたが関係なかった。
あまりの刺激に痙攣する足を開かせ、じっくりと犯された私の姿を見る。

「はぁ、ひ……だめですっ、んぅ……こんなっ、だらしない格好したらぁ……っあぁっ、あなたに……嫌われてしまいますっ……」

力が入らなくて為すがままの格好になった。
机からずり落ちそうになりながら、必死に首を振る。
言葉とは裏腹に私の性器は天を仰ぎながら汁を垂れ流していた。
腰を揺さぶられるたびに、周囲に撒き散らし董右衛門の陰毛を濡らす。

「ぅく、私が躾けた体です……ん、誰が嫌いになるものですか……」
「あぁっ、と……えもんっ、さまぁ……っ!」

根元まで入れた性器がゆっくりと引き抜かれる。
自分の尻から赤黒い肉棒が現れた時には、恥ずかしくて死ぬかと思った。
嫌がりながら目を離せない私を面白そうに観察している。
粘っこい液が糸を引いて離れた。
抜けそうになる寸前で、再び中に埋まる。
まるで自分の物だと誇示しているみたいだ。
始めは嫌だった董右衛門の独占欲が今は愛しくて胸がいっぱいになる。

「なんていう蜜壷……。これでは私の方が我慢できない…っ…」
「いいのですっ、んぅあぁっ……我慢しないで、っはぁ……私の尻できもちよくなって下さい…っ…あぁっ、ぅ……」
「あなたも言うようになりましたね」

彼は私を抱きながら不敵に笑った。
同時に激しく突き上げられる。
衝動で奥に鋭い刺激が伝わった。
私は涙を流しながら喘ぎまくる。
抑えようにも抑える隙すら与えてもらえず、言いなりのように鳴いた。
乱暴に内壁を擦られて、頭が真っ白になる。
ただ尻の穴が焼けるように熱くて、このまま溶けてしまうのかと思った。

「あぁっ、はぁ……うぅっ、んぅ……も、なにも考えられなっ……」

あまりの激しさに机は軋み、置いてあった本や紙は辺りに錯乱している。
それを見て淫猥な気持ちに浸った。
(こんなに求められたら蕩けてしまう)
ひたすら二人は肛姦に夢中になっている。
貪欲なまでに互いの肉体を貪り、快感を欲した。
欲情に濡れた体は身震いする。
だから窓際の障子が破れてしまっても気にしないどころか、余計に煽り、燃えさせたのはいうまでもなかった。
董右衛門は従順な私の体をいいように弄ぶ。
獣のように後ろから犯されたり、彼の上に跨って荒淫に耽った。
下から乳首を抓まれて、気をやる。
董右衛門の着物は私の精液まみれになった。
毎晩のように躾けられた乳首は些細な刺激にも敏感で、底が見えなかった。
痛みに痺れ疼き、桃色の乳首が硬くなる。
嫌だと首を振っても止めてもらえず、さらに強く抓られた。

「くぅ、ぅんっ……はぁ、っ……」

気持ちよすぎて立っていられない。
私は彼の体にもたれた。
それでも下から突き上げられて、体はびくんびくんと痙攣する。
董右衛門の体は汗ばんで温かかった。
朦朧となりながら頬を寄せて、肌に口付ける。
甘い御香の匂いは惑わせる蜜の香りだ。
抱かれて気付いたのは、風貌に似合わぬ鍛えられた肉体で、その意味が今日ようやく分かった。
彼は己の命を守る為に剣を振るっていたのだ。
美しい剣さばきを思い出してうっとりとする。

「はぁ、どうした?恍惚として牝の顔になっているぞ」
「んぁあ、ぁあっ……だって、わたしっ……はぁっ、んんぅ……」

知ってしまえば、全てが愛しくなる。
何もかも許せてしまう。
その単純さがおかしかった。

「わ、たし……っ……」

続きが言えなかった。
気持ちよくて腸壁は熟しとろとろに蕩ける。
(ああ、そんなに尻を犯されたら何も言えない)
伝えたい想いはたくさんあるのに、言葉ではなく喘ぎ声しかでなかった。
だらしなく口許を涎で汚し、潤んだ瞳で見つめる。
董右衛門は涎を舐め取り、顔中に唇を落とした。
尻をぐにぐにと揉まれ、ずっぽりと腸の奥で肉棒を咥える。
二人の体に潰された私の性器は、上下に動くたびに擦れて白濁液を漏らした。

「小太郎……」
「とう、えもんっ……さまぁっ……」

互いの存在以外は無に帰す。
見惚れていると、深く口付けられた。
舌を絡め、唾液を飲む。
咥内をべろべろに舐められて、意識は朦朧とする。
その間に彼は起き上がり、代わりに私を押し倒した。
大きな体が圧し掛かり、甘んじて受け入れる。
むしろ望んで腰に足を巻きつけた。
それに気付いた董右衛門は猛烈に腰を押し付け、尻を犯す。
何度も何度も尻の穴を甚振った。
突き刺さるたびに連動して性器から汁が零れる。
気持ちのよい場所は全てお見通しで、執拗に亀頭を擦りつけた。
私の声は喘ぎすぎたのか枯れて卑猥さが増す。
乱れた髪の毛はすぐにでも髪留めが解けてしまいそうだ。
それほど激しく抱かれて嬉しくないはずがない。
私は彼の首に手を回した。

「あぁ、あぁっ……きもちいっ、はぁっ……ずっと、このままっ……このままっ……!」
「くぅ――!」

すると董右衛門は私の中に精を放った。
その感触に私も気をやり、力が抜ける。
しかしそれで終わりにはならず、彼は素早く尻から肉棒を取り出すとそこを見た。

「はぁっ、あんっ……だめですっ、気をやったばかりで……ひくひくしてっ、恥ずかしい…っ…」

尻を指で広げ、息荒く見つめる。
その視線に身震いしていると、奥から吐き出された精液が溢れてきた。
桃色の内壁が、肉棒の隙間を埋めるようにヒクつき求めている。
早く蓋をしないと、戻らなくなりそうだ。

「ああいやらしい。粘膜のような薄い桃色。ここに私をずっぽりと咥え込んでいたのですね」
「ひぁああ、あっ…や、いやっ……んぅ、舐めたら…っ、きたな……っ!」

董右衛門は垂れているのが自分の精液だと分かっていて、尻に舌を入れてきた。
私は飛び跳ねて逃れようとする。
しかし腰をしっかり掴まれて身動きできなかった。
とろとろに蕩けた内壁を巧みに舐め回されてよがり鳴く。
性器と違い、ぬめり器用に周囲を舐める舌の感触は背筋をぞくぞくさせた。
尻に顔を埋めた彼は一心不乱に味わっている。

「あぁ、っふぐっぅぅ……とけちゃ、このままではっ、んぅ、尻が……溶けてしまいますっ……あぁっ、んくっ……」

浅く弱い部分を舌でつんつんされたかと思えば、奥まで這わせてくる。
締める機能があるはずの尻は、なすがまま責められて開きっぱなしになりそうだ。
気が狂いそうなほどしつこく舐められて、抵抗すら出来ない。
それどころか董右衛門の顔に尻を押し付け、達していた。
艶めかしく腰を振り、女子のような声で鳴く。

「はぁ、あぁっ…董右衛門様っ、んぅ……ふぅ、ふぅっ……と……えもんさま……ぁっ!」

気付けば彼の肉棒がぎんぎんに昂ぶっていた。
私の尻を舐めまわして興奮していたのだ。
(た、たまんない……!)
恥じらいを忘れて飛びつくと、肉棒にしゃぶりつく。

「はぁ、小太郎……っ」
「んぅっ……ちゅっ……ちゅ、はぁ……も……董右衛門様が、私の汚い肛門を……舐めるからっ……あぁっ、私も……!」

これが先ほどまで私の尻に入り、犯し、乱していた。
思うだけで理性は飛び、大胆な行動に出てしまう。
喜んで口に入れると強く吸い上げた。
脈打つそれは、生臭さと共に男臭くて何も考えられなくなる。
自ら進んでこんなことをするとは思わなかった。
教えられたわけでもないのに、咥えて離さない。
そうして二人は互いの性器を舐めて興奮を煽った。
董右衛門は尻の穴がふやけてしまいそうなほど舌で愛撫し、腸壁を堪能した。
私は気をやりながらも必死に咥え、恥垢を舐め取る。
一度喉の奥に出され、精液で溺れてしまうかと思った。
咽て咳込むと、残った汁を顔に掛けられる。
それを見た董右衛門は満足そうに笑い、また私の尻を犯した。
体力は限界を迎えていても、気力は十分でもっと欲した。
本に、着物に、畳に、精液がこびり付く。
障子は破れただけでなく、飛び跳ねた精液で汚れていた。
また貼り直さねばならない。
それでもなお肛辱は続き、東の空に陽が昇る頃には部屋中精液臭くなっていた。
私の体は白濁液まみれで、尻の穴からは、とめどなく彼の精が垂れている。
精も根も尽き、陰嚢が痛いくらいだったが、情熱的に抱かれて幸せだった。
私は部屋に陽の光が射し始めた頃、ようやく眠りにつくと彼の腕の中で目を閉じた。

***

「……ん……」

それからどれくらい経ったのだろう。
私は何かの気配に気付いてようやく目を開けた。
途端に体が軋む。
昨日だけならまだしも、連日の無理が祟ってかなり辛い状態だった。

「あれ……?」

布団が敷かれているが、董右衛門の姿がない。
辺りを見回せば障子が僅かに開いていた。
障る体を気にしながら、ゆっくりと起き上がる。
すると枕元にはいくつものもみじが置いてあった。
それを手に取り障子まで行く。
開ければ庭に彼の姿があった。

「小太郎」

音に気付いたのか振り返り手招きをしている。
障子を開ければ縁側になっていて、ここから庭に降りられるようになっていた。
私は草鞋を履くと、彼のもとに向かう。

「ごらんなさい」
「わ……綺麗……」

庭には想像以上に美しいもみじがたくさん色付いていた。
昨日は帰って来たのが夜で見ていない。
鮮やかに染まった葉は陽に透けて輝いていた。
連なる木々に様々な色を重ねた葉は息を呑むほど美しい。
感嘆とした声をあげる私に優しく微笑むと手を繋いだ。
二人で言葉を交わすこともなく、しばしの間紅葉を愉しむ。
薄暗い牢にいたせいか、見る景色全てが鮮麗で眩しかった。
さわさわと秋の風が二人の間を過ぎて、もみじが舞い落ちる。
その中の一枚が私の頭に落ちた。
慌てて取ろうとすれば、董右衛門が代わりに取ってくれる。
私に渡したもみじは、これ以上にないほど紅く赤子のようだ。
嬉しくて彼を見上げれば、頬にそっと口付けを落とす。

「董右衛門様……」
「はい?」
「あ、あのっ……私っ、私……っ!」

(あなたの傍にいたい)
そう言おうとしたら、今度は唇を塞がれた。
昨夜のように激しくはない。
しかし甘く蕩けそうな口付けである。

「ん、ふぁ……」

あまりに優しい唇に泣きそうになった。
すると彼は穏やかに笑う。

「忘れているようなので、もう一度言いましょう」
「え……?」
「あなたにはもう帰る家や家族はいない」
「……っ……」
「だからこれから先、ずっと私の傍で生きなさい。……二度と逃げだすことは許しません」
「董右衛門様っ……!」

私は董右衛門に抱き締められながら、一粒の涙を流した。
温かな腕の中で静かに思う。
家族に文を書こう。
私にも居場所が出来たのだと、今がとても幸せであると伝えよう。
――この手にあるもみじを添えて。

END