8

翌朝、お父さんとお母さんはエオゼン先生の姿にたいそう驚きました。
もう寝ていた二人は僕らが淫らな情事に耽っていたことなど知る由がありません。
まして、息子である僕が部屋へ誘ったなんて夢にも思わないでしょう。
しかしエオゼン先生は平然としていました。
さすが一流の演奏家は肝の据わりようも違うのです。
彼は何食わぬ顔でパンをかじりながら、

「もう演奏会間近ですから、夜通しハイネスの疑問に答えていました」

なんて嘘を言ってのけるのです。
僕は痛む腰を擦りながら同意することしか出来ませんでした。
そうしている間も、横から手が伸びてきて、今度はミルクを飲みながら先生は僕の尻に触れるのです。
朝方まで散々こねくり回したくせに、飽きずに触れてくるしつこさに頬を膨らませますが、僕の不満なんて気にも留めませんでした。

「くひっぅ」

その手がズボンの中へ入ってきました。
僕が変な声を出すと両親はきょとんとしています。
エオゼン先生は意味ありげに両親を見据えると、楽しそうに口元を歪ませました。
とことん卑劣な男です。
人の反応を楽しんでいるのだからタチが悪いです。

「ハイネス、どうしたんだい?」
「な、なんでもない!」

僕はそうして食事中ずっとエオゼン先生から性器を弄ばれ続けました。
終わるころには足腰が立たないくらいへろへろにされていました。
そのくせイかせてもらえませんでした。

「頭、変になっちゃ……ぁ……」

哀願した僕は蕩けきった表情で熱くなった股間を抑えました。
これから学校へ行くのに、こんな状態じゃ行けません。
僕はお父さんとお母さんが店へ出て行ったのを見計らってトイレで抜いてもらいました。

「あ、あっ、ん、んぅっ……!」
「そんなに喘いだら聞こえるぞ?」

狭い便器に跨って後ろからずんずん犯してもらいます。

「……だっ…て、エオゼン先生が…っ、ひぅ…朝方まで僕を抱いたのに……またっ」
「また――なんだ?」
「くぅん、お尻をいじって……はぁ、っ…しかもお父さんとお母さんの前でなんて…酷いですっ」

感じてはいけないのに、お父さんとお母さんの前でいやらしい顔をしてしまいました。
テーブルの下でぐじゅぐじゅに弄られて、ちんこを硬くしてしまったんです。
煽るような興奮に夢うつつとなっていました。
大体、今日はほとんど寝かせてもらえなかったんです。
一晩中エオゼン先生に抱かれて、お尻も心もふやけきっているんです。

「あぁっん!」

すると先生はひと際強く突き上げました。
奥まで犯されて腰を震わせ、少量の精液を漏らします。

「いやらしいハイネスの体が悪いんだろう?」
「そ…な……っ」
「この俺を惑わせてどうするつもりだ?」
「ん、んく……僕が、先生を惑わせているのですか?」

そんなことありえません。
僕がエオゼン先生に夢中なんです。
その指で体で僕を翻弄するんです。
なのにそれを意識すると、勝手に心は躍るように弾んで、

「はぁ、っ…締め付けが強くなった。そんなに嬉しいのか?」
「あ、あぁっん、んぅ…はげし……パンパンしちゃ、やぁあ……!」
「その割りに腰振ってるぞ」
「くひぅ、らって……おしりのなか、擦れて…あぁぁ、きもちい!」
「ならもっとパンパンしてやる。いつ両親が気付くかな」
「いじわるぅ……っ、音出しちゃだめ…っぇ…っ、ぱんぱんやらぁ……」

それこそ家族に聞こえてしまいます。
僕のお尻に打ち付けるエッチな音がお父さんとお母さんに訊かれてしまうと、想像するだけでたまらなくなりました。
僕は悪い子です。
内緒でエオゼン先生を家を連れ込んだ挙句、貪られるように抱かれているんです。
強制的にじゃありません。
自ら望んで犯されているんです。
先生は男で、僕も男なのに、組み敷かれて尻の穴を弄くられて悦んでいるんです。
娼婦以上にふしだらなことは、言葉にしなくても分かっていました。
でも、もう止められませんでした。
エオゼン先生のモノによって体の奥まで支配されているんです。
抗えるわけがないんです。
両親は今ごろ、一階の店で開店準備をしています。
酒屋は昼もレストランや喫茶店への配達があって忙しいんです。
僕に構っている暇はありませんでした。
それを承知でえっちなことをねだっているのです。

「こんな奥まで男のもん咥えこみやがって」

エオゼン先生は僕の上体を起こすと、下っ腹をなでなでしてくれました。
その皮膚の下には彼のちんこが暴れています。
肌は敏感で、手の感触にいちいち感じてしまいます。
そんなに撫でられたら、それだけでイっちゃいそうでした。

「ひぁ、あ…男じゃなくて…エオゼンせんせ…の、です…っ。ぼく……ぼくっ、えっちだけど……あぁっく、それは……先生だからっ!」

エオゼン先生だからこんな淫らな姿を晒しても構わないんです。
むしろお尻はきゅんきゅん締め付けて、媚びるようにエオゼン先生のちんこを包みました。
もう離さないといわんばかりの締め付けでした。

「嬉し……ですっ、僕の体で…先生を気持ちよく出来たら……あぁっ、あっんんぅ……それだけで僕はっ」
「ハイネスっ、ハイネス!」
「くぅ、ん…これから学校なのにっ、…ひぁ、あっ……先生に抱かれて…めろめろになっちゃいます……っ」

エオゼン先生は僕の言葉に甘ったるく微笑むと、首筋に顔を埋めて何度も僕の名前を囁きました。
吐息混じりの声が感官を刺激して益々感じてしまいます。
(ふぁ、先生が夢中で腰を振ってる。えっちだよう……!)
背後に感じる気配の必死さに恍惚としていました。
結合部分はトロトロに溶かされています。
足腰に力が入りませんでした。
また中で出されるのでしょうか?
せっかく掻き出した精液をまた仕込まれてしまうのでしょうか。
たまらなくて口許から涎を垂らしながら僕は喘ぎました。

「ひぅ、また気持ちよくなっちゃ……!」
「あぁっ、俺ももう出る――」
「せんせ…っ、おねが……キスしながら…っ出してくださ……!」
「ハイネスっ!」
「中にっ、いっぱい…んぅ、ちゅっ……いっぱい……!」

すると、先生は強引なくらい僕の頬を包み込んで自らへ向けると、口付けてくれました。
僕のおねだりにすぐ応じてくれたのは、きっと彼も僕にキスがしたかったのだと思います。
上も下も繋がってイきたかったんだと思います。
唇で塞がれた瞬間、ぞくぞくと震えが背中を上がっていって快感が突き抜けていきました。
僕らは密着したままほぼ同時に絶頂へ達しました。

「んぅ――――!」

舌を絡ませてキスに酔いしれていたから嬌声は上がりません。
だけど体を巡る快楽は凶悪なくらい二人を煽りました。
一度の絶頂が尾を引くようにいつまでも体に残り、お尻の中で射精される悦びを噛み締めます。
エオゼン先生も種を植えるかのように根元までちんこを入れたままじっとしていました。
苦しいくらい後ろから抱きしめられて余韻に浸ります。
その様は、もう恋人同士みたいでした。

「はぁ……はぁ……エオゼン先生……」
「ハイネス……」

ほら、見つめ合って互いにうっとりとさせているんです。
もしこれで学校がなければ、すぐにでも続きをしてしまいそうなくらい心酔しきっていました。
僕が潤んだ瞳で見上げていると、エオゼン先生は、ちゅっちゅと目尻に口付けてくれました。
(ん、そんなことされたら、もっとぎゅってされたくなる)
先生はずるい人です。
やっぱり夢中にさせられているのは僕のほうなんです。

「次に会えるのは、音楽団の練習か」
「はふ……まだ何時間も先ですね」

いっそのこと学校なんか休んで先生とヴァイオリンの練習していたのに。
それが顔に出ていたのか、エオゼン先生は僕の頭をぺしっと叩きました。

「ガキは勉強しろ」
「ぶー。横暴です!」

文句を言いますが、二人を取り囲む雰囲気はひたすら甘くて胸焼けしてしまいそうでした。
ほんの数時間別れるだけなのに、離れがたくてもどかしい気持ちがしました。
家を出て別れ道まで手を繋いで歩いたのは、誰にも秘密の出来事です。
エオゼン先生の頬が僅かに赤くなっていたのは、寒さのせいでしょうか。
それとも僕と手を繋いでいたからでしょうか。
後者だったらいいなと思ってしまう僕は、きっともうエオゼン先生をただの指導者として見られないと思いました。

***

「皆さんに紹介したい人がいますので静かにしてください」

事件が起きたのは、その日の放課後、子ども音楽団の全体練習を行っている最中でした。
エオゼン先生を取り囲むように椅子を並べて、オーケストラの形態をとっていた僕らは、その声に振り向きます。
入り口には責任者が立っていました。
とても誇らしげに胸を張っていたのを覚えています。
エオゼン先生は何も知らされていなかったのか、僕らと同様に怪訝な表情を浮かべていました。
責任者は、ざわつく僕らを静めるとゆっくりドアを開けました。

「明後日の演奏会に来て下さるミシェル様です」

その声に呼ばれるようにホールへ入ってきたのは、暖かそうなコートを羽織った青年と、護衛だろうお付きの兵士です。
いかにも高貴な身なりの青年は緊張の面持ちで頭を下げました。
責任者は紹介するように彼らを招くと、

「ミシェル様はかの有名なアルドメリア音楽団の第一ヴァイオリンを担当している、世界的に有名なヴァイオリニストです。今回は陛下たっての希望に応えて下さり――」

すると説明の途中でその声は遮られてしまいました。
エオゼン先生が、

「ミシェル」

と、呟いたからです。
その背筋が震え上がるような声に僕はハッとして彼を見上げました。
(ミシェルって、まさか――)
蘇るのは酒場で人違いに殴られそうになった時のことです。
あの時も同じように彼の名を呼びました。
まさか、それがこのミシェル様ということなのでしょうか。
ミシェル様は僕と同じ髪の毛の色をしていました。
酔い潰れていた上に寝起きの状態ならば、僕と彼を間違えたとしても納得出来ます。
何も知らない子どもたちはぽかんと口を開けて、交互にエオゼン先生とミシェル様の顔を窺っていました。
僕だけがこの緊張感を理解して息を詰めます。

「あー、ああっと、エオゼン先生も以前はアルドメリアにいましたもんね。ミシェル様は彼をご存知ですか?」
「え、ええ。知っています」

責任者はエオゼン先生の不穏な態度に気付くと、空気を壊さないように極力明るい口調でミシェル様に問いかけました。
対してミシェル様は苦笑いをしながら頷きます。
その様子に失敗したと気付いた責任者は空笑いで誤摩化すしかありませんでした。
蚊帳の外にいた子どもたちも雰囲気が険悪になっていくのを肌で感じます。
誰も微動だにしません。
――と、エオゼン先生はタクトを手で叩きながら指揮台を下りました。

「よう、久しぶりだな。ミシェル」

彼は明らかに突っかかるような態度でミシェル様に近付いていきます。
その鋭い眼差しは、罵声を浴びせられてきた僕らですら見たことがないほど冷ややかでした。
爬虫類のような目で睨みつけます。
すると、ミシェル様を庇うように兵士が前へ出ました。
彼は脇に差した剣を抜こうとします。
それほどの殺気をこめてエオゼン先生はミシェル様を見ていたのでした。

「ほう、貴様はクラリオン大佐ではないか?」

するとエオゼン先生はその兵士の顔を覗き込んで愉快そうに笑いました。
彼は顎ひげを撫でながらしげしげと見つめ、

「勇敢な英雄様がなにゆえこのような小国においでくださったのかな? 戦争の下見にでも来たのかな?」
「俺の任務はミシェル様をお守りすることだ」
「はっ、どうした、大佐。何をやらかしたんだ、お前は。あぁ?」

先生は食ってかかるのをやめません。

「軍人としてエリート街道を突っ走ってたお前が、演奏家の護衛なんて左遷もいいところじゃないか。大佐の地位でも剥奪されたのか?」

しかし、クラリオン大佐と呼ばれる兵士は、先生の挑発には乗らず、黙って睨むだけでした。

「落ちぶれたものだな。俺が宮廷にいたころのお前は誰もが憧れる国の英雄だったが」
「……………」
「所詮、靴屋のせがれ。叩き上げもいいところだが、こんなもんだよな、ははっ」

そうして馬鹿にしたように笑いました。
それでもクラリオン大佐は動じません。
むしろ反論したのは、後ろにいたミシェル様でした。

「エオゼン様、もうやめてください!」

彼は悲痛な声をあげました。

「大佐は落ちぶれてなんかいません。望んで私を守って下さっているのです……!本当は国に必要とされて――」
「言い返さなくて良いのです、ミシェル様。これは自分で決めたこと」
「ぷはははははは」

するとホール全体に先生の嘲笑うような声が響きました。
彼は腹を抱えて哄笑すると、

「傑作だな」

緩めることのない眼光でミシェル様を射抜きます。

「そんな偉い御方になられたのだな、ミシェル。ああ、ミシェル様と呼んだほうがよろしいですか?」

彼はおどけて頭を下げました。
ホール中の視線が三人へ注がれます。

「私は……」

ミシェル様の声は感情を押し込めたような苦々しいものでした。
苛立ちが透けて見えるようで、僕の心も痛くなりました。
二人の間に何があったというのでしょうか。
僕は遠くに感じるエオゼン先生の背中を見つめました。

「……私は、エオゼン様が音楽を続けていると訊いて嬉しかった」
「戯けたことを」
「本当です! あなたが私を恨む気持ちはよく分かります。申し訳ないことをしたと思います。だけど、私だって歯を食いしばって生きてきた。必死になって音楽の道を歩いてきた……それを、少しは認めてくださるかと思ったのに……あなたは……」

ミシェル様の声は次第に小さくなって、最後には泣いてしまいそうな声色になっていました。
それ以上何も言えず、目を伏せてしまいます。
クラリオン大佐は、ミシェル様の様子に眉間を険しくさせると、

「彼は優しいからこう言っているが、俺はあなたを自業自得だと思っている。あなたが受けた報いはミシェル様や多くの生徒たちにしたことへの罰だ。それをいまだに恨みがましく突っかかってくるなど愚かなことを……」
「黙れクラリオン、軍人ごときが貴様」
「今のあなたは爵位を持たぬ平民だ。第一に軍人だろうが貴族だろうが関係ないだろう」

クラリオン大佐は堅い態度を崩さないまま向き合いました。
どんなに凄まれようと、正面から見据えます。
その度胸はさすが大佐といったところでしょうか。
まるで鋼のような意志が見えました。
代わりにエオゼン先生は舌打ちをすると、ふて腐れたようにホールを出て行ってしまいました。
それを見送るミシェル様の表情は辛そうでした。
これだけ大勢が集まっているのに、室内は潮が引いたように静かです。
全員が息を凝らしていました。
すると、ミシェル様も僕らにお辞儀をすると、ホールを出て行きます。
その後ろを責任者が追いかけていきました。
ゆえにホールには嫌な雰囲気だけが残ってしまいました。

「な、おい。どういうことだ?」

指導者がいなくなってしまった僕らは騒がしくなりました。
練習そっちのけで、今見たことを話し合います。
憶測で様々な話が飛び交う中、僕は居心地悪くてホールを飛び出していきました。
そのまま走って外へ出ます。
すると建物の前には馬車が止まっていました。
ミシェル様の馬車だろうと近づくと、

「あのっ、エオゼン先生のことで、ちょっと!」

かじりつくように窓に詰め寄ります。
すると、馬車にいたミシェル様とクラリオン大佐は驚いたように僕の顔を見て、快くそのドアを開けてくださいました。
僕は馬車に揺られながらエオゼン先生の過去を知りました。
アルドメリア宮廷専属楽団に在籍していたこと。
第一ヴァイオリンとして何十年と陛下に仕えていた高名なヴァイオリニストだったこと。
しかし、影でミシェル様のような有能なヴァイオリニストの卵たちを潰していたこと。
それがもとで地位と財産を没収されたあげくに国外追放となったこと。

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