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ピンポーン――。
「はぁー……いっ」

だから頼んでいたルームサービスが届いたときもおれは抱かれていた。
食事用のダイニングテーブルに備え付けられたイスに腰掛けたおっさんの上に跨って座ると、そのまま下から突き上げられる。
押し倒された時と違っておっぱいの位置が近いせいか、おっさんは終始おれの僅かに膨らんだおっぱいにご執心だった。
恐る恐る乳首に吸い付いたのは最初だけで、すぐに荒々しく愛撫をするようになると舌でねぶり、先っぽを甘噛みし、無我夢中になった。
これではお嫁さんではなく本当にママ扱いだ。

「ルーム…っ、……サービス……っきたよ」
「んぅ、んぅちゅっ……」

お腹が減ったからご飯を食べてから帰ろうとの話になってルームサービスを頼んだのに、待っている間も我慢できず挿入してしまったのがまずかった。
(いやいや、あれだけ勃起した性器を持て余しながら座っていたら、つい跨っちゃうでしょ、挿入しちゃうでしょ)
彼も身長差が埋まる対面騎乗位はよほど気に入ったみたいで、こうして人の話も聞かずに乳首にしゃぶりついている。
おれの問いには答えないくせに一丁前に腰は振って腸内の刺激を味わっている。
立ち上がろうにもがっちり背中に手を回されて身動き取れなかった。

「ひっうぅっ……!」

おれだってヤバかった。
高めのイスだったこともあり、おれの足は床に着かず宙ぶらりんの状態だったのだ。
体の重みによって有無を言わさず根元までちんこを受け入れざるを得なく、逃げ場がないまま足をバタバタさせる。
角度や深さの調整が出来ないまま無防備に弱い場所を晒し、一方的に掘られている。
正常位やバックのように激しいピストンが出来ない代わりに、彼はグリグリと穿るように性器でえぐる。
まさにダッチワイフそのものだ。

「あぁっ、んっ……よちよち…っ、いい子だから……っ、大人しくして…ぇっ……」
「んっ、んぅっ…ちゅっ、ちゅっ……」

飢えた赤子の如き貪欲さで乳首を吸い続けるおっさんは、ルームサービスが来ているのも無視して体を貪り続けた。。
どれだけ抗おうにも敵わず、全然いい子になってくれない。

ピーンポーン
「ルームサービスでーす」

ドアの外にいたスタッフがコンコンとノックした。
動こうにも動けず、かといってご飯が来ているのに帰すのは惜しい。

「はー…いっ、手が塞がっているので、中へ入ってくださーい!」

やむに已まれずどうにか大きな声で呼んでみた。
ルームサービスの中には客自ら開けない限り入ってこないスタッフもいるが、これ以上の手はなかった。
それで帰ってしまえば仕方がないと諦めがつき、またセックス後に注文すればいいと思った。
だが、さすがアングラ界で有名なホテルである。

「失礼しまーす」

強面な中年男性が何食わぬ顔で入ってきたから驚いた。
手には注文したチャーハンとから揚げ、中華スープを乗せたお盆を持っている。
彼は脱ぎ散らかした服の合間を器用に歩いてみせ、行為に勤しんでいる二人のいるダイニングテーブルまでやってきた。

「ご注文いただきましたチャーハン二人前とから揚げ、中華スープになります。お帰りの際はこちらの伝票をフロントへお渡しいただき、ご精算をお願い致します」

そこら中体液まみれで酷い室内、しかも現在進行形でエッチをしているのに、スタッフは顔色ひとつ変えやしなかった。
事務的な説明を淀みなく伝える。
フロントの老婆と同じく、ここで働く従業員たちはある程度のイレギュラーな出来事には驚かないらしい。
きっと似たような場面に何度も遭遇し、こんなことくらいでは彼の心に波は立たないのだ。

「ひぅっぅ……!」

だが、こっちは大問題だ。
まさか本当に入ってくるとは思わず、とんでもない羞恥心に駆られる。
(これまで一切人前でそういったことをしなかったのに)
痴漢クラブでも個室以外ではエッチはしなかった。
なのに、こうして抱かれている様子を間近で見られている。
今日だけで多くの人に己の痴態を見せてきた。
周囲には気付かれなかっただろうが電車内で尻を犯され、フロントやエレベーターではキス諸々を見られ、電話越しにセックスしている様子を聞かれ――。
そのせいか人に見られること、知られることへの耐性がついてしまった。
おれは恥ずかしいと思う気持ちと同じくらい震えるほどに興奮し、スタッフの男と目が合っただけで軽くイきかけてしまった。

「わ、わかりっ…まひた……っあぁっ、んぅ……ありがとご…ざいまっ…すぅっ…ぅうっ!」

微笑んだつもりがアヘ顔を晒し、なんとかお礼を言う。
するとその途端、おっさんに胸を噛みつかれてしまった。
見れば不服そうな眼差しでおれを見ている。
無論挿入をされているのだから、おれが軽くイきかけたことも穴の締まりで気付かれている。

「一平君はああいう男が好きなの」
「ちがっ、やぁっ…あぁっああっ、…いきなりっ!…あぁあっ、はげしっ…くっはぁっ…息できなぁっ……!」

スタッフが去ったあと、腰を両手で掴まれたおれは床が抜けそうなくらい激しく下から突き上げられた。
動きに反するようその声は冷たく、研がれた刃の如き鋭さを含んでいる。
嫉妬心が強いことは重々承知していたが、適当に会話をした相手まで範囲に入れられたらたまったものじゃない。

「あっぁっ、ああっ……ちがうのっ、おっさんに抱かれてるところっ、見られて!…ひぅっ……っ、見られてっ!」
「見られて気持ちよくなっちゃったの?一平君ってばそんな性癖あったの?」
「ちがぁっ」
「なにが違うの?おちんちん挿れられながら赤の他人にお礼を言えるなら、ちゃんと説明出来るよね?」
「あぁっああっ……!」

いつになく責め口調のおっさんは、激しい動きに汗を流しながらもおれを苛める手を緩めない。
呼吸すらままならないほど突かれて涙と涎が溢れた。
だが、そんなもの気にする余裕もなく振り乱して喘いだ。
逃げようにも膝の上にいて逃げられない。
むしろ腰を引こうと体をくねらせると、腸内の性器が変なところに擦れて力が抜けてしまう。

「ごめんなさぁっ……ひゃぁ、ああっ……あぁっ」

おれはおっさんの首に手を回し、体にしがみつきながら繰り返し詫びる。
まるで熱で魘されるように虚ろに謝罪をするのだが、実は反省をしていない。
それどころかおっさんの荒々しさに胸がきゅうきゅう高鳴って、我慢できずに彼の耳に吸い付いてぺちゃくちゃ舐め回してしまった。
だってすごいんだ。
こんなにセックスで気持ちよくなれるなんて思わなかった。
エッチの回数だけいえばとんでもなく場数を踏んでいる。
今日だけで何度セックスをしたのか覚えていない。
だが、普段ならとっくに冷めても良さそうなところ、益々夢中になってえっちい気持ちが止まらないのだ。
薬でも盛られたんじゃないかと思うくらいおっさんにムラムラして視界が歪む。
下半身がどろどろに溶けてしまったんじゃないかと錯覚する。

「はぁっ、ちゅっ、ごめんねぇ……っあぁっ、でも好きなのはっ……おっさんだけだよっ…」

おっさんの耳から汗が流れるこめかみへと舌を移動させると、丁寧に顔中舐めまくる。
完全なる服従。
いや、完璧な堕落。
もはや奴隷のような従順さで、好意を体中に示す。

「一平君は俺だけのものっ、誰にも渡さないっ……!」

アドレナリン全開のおっさんは興奮を露に、すでに誰もいないというのにおれを抱きながらドアのほうを見つめフーフー威嚇していた。
そのまま二人は床に転げて深くまぐわう。
おれが下になっていいようにピストンされたかと思えば、おれがおっさんの上に乗って淫らに腰を振る。
次第に今日最後になるだろう射精をするために、血管が切れそうなくらい奥歯を噛み締め激しく腰を動かした。
せっかく風呂に入ったのに、もう体液まみれに汚れてしまっている。
すでにルームサービスで提供された中華スープは冷めきっている。
腹が減っていたのも忘れてセックスに勤しんでいるなんてエロいと思わない?
酷使されまくった尻の穴は、すでに本来の働きを忘れて根元までおっさんのちんこを受け入れている。
彼によって拡張されたはずなのだが、始めからおっさん用に作られたと思うくらいぴったりと馴染んだ。
みっちりとした蜜壷がおっさんの性器を咥えて離さない。
S字までの挿入も幾分慣れて、むしろここまで届かないちんこは物足りなくなってしまうだろう。

「ひぁ、あぁっ……っあぁっ、おちんちんで!……っ、もっと、おしおきして……っえ…っ…!」
「ぐ…おっ、おぉっぅ…一平くっ…のエロいあなぁっ、パコパコしすぎて…ハメ殺しちゃいそっ…!」
「してっ、して…!…いいよっ、あぁっ、あっふっ、こんな気持ち良く殺されたらっ…幸せすぎるぅっ……!」

おっさんは激しく腰を突き上げた。
そのたびに気が触れるような快感で嬌声が出てしまう。
すでに喘ぎすぎて声が枯れても勝手に出てしまうのだ。

「あぁっ、あぁあっん!…も、おれおっさん専用だからっ…おっさん専用の穴になるからっ、…好きなだけ使ってぇっ…あぁっあ…!」

とうとう彼専用の穴と化すことを認めてしまった。
いや、おっさん専用になりたかった。
食事中でも、トイレ中でもいつでもアナルは差し出せる。
ううん、それこそ綾人くんと話している最中にちんこをブスッと刺されてしまっても喜んでしまうかも。

「ひぅっんっ!…も、イクっ!イクイクっ…あぁっ、ちんこに堕とされて、イッちゃぁ…!あ…あぁっ…あ……!」

(あーこれ、ハマりそう……)
ラストは安定の種付けプレスで中出ししてもらう。
上から圧し掛かられて苦しいのだが、逃げ場なくちんこを押し挿入れられると幸せを感じる。
自分が認めたオスに交尾を許すメスのような気分だろうか。
散々ナマは嫌だとか中出しなんて無理だと言っていたが、もう拒否の言葉は出てこない。

「くぅっ――!」

一度目に比べたらだいぶ薄くなった精液をびゅっびゅと出された。
最後の一滴まで注ぎ込もうと射精の勢いに任せて腰を押し付けてくる。
所詮男同士で、中に出したところで子は孕めないと分かっていながら奥へ付ける本能は、快楽を知ってしまった人間だけが背負う業のようなものである。
精子を出し切ったおっさんは少しぐったりしながらおれを抱きしめてきた。
まだブツブツと嫉妬の言葉を呟いている。
よほどスタッフに反応したことが気に障ったみたいだ。
(……なるほどね)
注がれた精液の熱さに胸を焦がしながら、おっさんの頭を撫でて気を鎮めてやる。
同時に自分が新しい世界に染まっていくことを予感した。

 

 

休憩予定でホテルに入ったのに、時間内じゃ満足することが出来ず、宿泊することになってしまった。
おっさんはおれの家庭の心配をしていたが、うちは今日誰もいないから大丈夫というと、何も言わずに後ろからぎゅっと抱きしめてくれた。
思わず目頭が熱くなる。
いやいや、今更じゃん。
これだけウリをやっていられるのは、ほとんど家に人がいないからだ。
機能不全家庭というわけではないが、たまたま両親が仕事命なだけで、おれはそこに不満なんて一切なかった。
むしろ都心の億ションに住めて、好きなものは何でも買ってくれる何不自由ない家庭。
有名大学には幼稚舎から通わせてもらって将来は安定した大手ホワイト企業に就職するところまで見えている。
近くに公立小学校があるにも関わらず、わざわざ満員電車に乗って学校へ行かなければならないことに疑問に思ったこともあったが、ウリをして多くの経営者や役員級の大人たちと出会うことで教えてもらった。
社会的に認められた学校に幼稚園や小学校から通うということは、それだけちゃんとした家庭で育ったという信頼の証なんだそう。
問題を起こすような人間になる確率はほかの家庭に比べると低い。
故に職種によっては就職の際に有利に働くことがある。
(……本当に?)
おれがウリをし続ける理由は金が目的だ。
裕福な家庭で育っているがゆえに金の大切さもよく分かっている。
だが、大人たちのそんなクソみたいな指標が癇に障ったのも事実だった。
たまらなかった。
周りから見て信頼に値するものを多く与えられているおれが、実は違法な手段で金を稼いでいる。
初めて見知らぬ男に抱かれて金を渡されたとき、後悔や嫌悪よりも愉悦が勝った。
深い意識の水底では、きっと表層を撫でる大人たちに抗い、自分という人間を見て欲しかったのかもしれない。
いや、自分という人間を勝手に決めて欲しくなかったのかもしれない。
社会的地位のある家庭に生まれ、有名大学の小学校に通っているしっかりしたいい子なんていうのは、まさに砂上の楼閣だった。

「え、なに? おっさん泣いてるの?」

後ろから鼻をすする音が聞こえてきて振り返ろうとしたが、おっさんは強く抱きしめて離さなかった。

「あはは、へんな人」

おれは前を向いたまま、肩口に顔を寄せるおっさんの頭を優しくポンポンと叩く。
別に同情して欲しかったわけではないし、悲観しているわけでもない。
むしろどこか自分の青臭さに辟易としていたくらいだった。
恵まれている人間ほど、それを恵みとは気付けていない。
物心つく前から両親によって安定した道へ、人より多くの選択肢を持てる道へ導いてもらえたのはこの上ない幸せなことだった。
彼らの努力に唾を吐くとき、それは自分へ返ってくるものと覚悟せねばならない。

”初めて見た時、幼い外見なのに大人びた眼差しをする子だなって思った。何を考えているのかなって…”

だが、そんな中で初めておれ自身を見てくれたのがおっさんだった。
今思えばあの出会いは運命だったのかもしれない。
無論、二人の関係が一般常識からかけ離れていることは分かっている。
もし他者に知られたとき、間違いなくおっさんは性犯罪者として晒し者になり、おれは勝手に悲劇の子どもに祀り上げられ、多くの人の同情を買うだろう。
――だがしかし、世間はおれを救ってくれただろうか。
正論の羅列ばかりが目立つこの世の中で、おれを理解してくれただろうか。

「ねえ、今更なんだけど……教えてくれない?」
「えっ」
「アンタの名前」

 

 

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