ぷにショタ需要

 

 

「はぁ?ふざけんなよ、誰が中出しさせるかっての」
「い、いいじゃないか。妊娠しないんだし、お金も上乗せするからさ」
「ふざけんなっ、死ね!」

トドみたいなおっさんが息荒くおれにのしかかってきたから、おれはその腹を思いっきり蹴飛ばしてやった。
尻の穴からおっさんのゴム付きちんこが抜ける。
彼は腹を押さえて悶絶すると動けなくなった。
その隙にベッドを飛び出すと、

「二度と抜いてやんねーから」
「あ、ま、待って!一平くんっ、おじさんが悪かったから許して」

泣いて懇願するおっさんを一瞥して高級ホテルから出ていった。
外はどんよりと重い雲が空を覆って、月光が遮られている。
夏の暑さに加えて気が滅入るような湿気が肌にまとわりついた。
おれは忌々しそうに舌打ちすると、夜の町を歩き出す。
すると携帯が鳴った。

「もしもし、綾人くん?」

電話の相手は綾人くんだった。

「ううん、平気。ったく、ハズレを引いちゃってさ。あのおっさん、急に中出ししたいって」

綾人くんと知り合ったのは半年前だった。
おれが出入りしている会員制の痴漢クラブに彼がやってきたのがきっかけだった。

「はぁ?するわけないじゃん。気持ち悪い」

おれは小遣い稼ぎに痴漢クラブでウリをしていた。
あそこの客なら身元もしっかりしているし、変態趣向も多いからおれを好きだと言ってくれる人も多い。

「やめるわけないでしょ、こんなおいしい仕事。…それよりおれは綾人くんが理解できないよ」

綾人くんはおれのようなウリはしていない。
彼は決まって彼氏と店にやってきた。
コスプレやら縛りやらいいように抱かれているのをほかの客に見せている。
綾人くんくらい可愛らしければ客の間で人気が出るのも当然だけど、彼は一切自分の体を売らなかった。
彼氏が独占欲強くて触らせなかったのだ。

「あんな冴えないおっさんのどこがいいわけ?ちょっと考えてみなよ。おれと一緒ならセット売りでかなり高く買ってもらえるんだよ?」

どうせセックスするならお金をもらったほうが得じゃないか。
しかも相手はどこにでもいるようなオヤジで、金もなければ顔だって微妙。
最悪なのは、喘ぐ綾人くんを見せびらかして自分のものだって誇示しているんだ。
この間だってオモチャで弄り回したあげく、散々中出しして綾人くんの緩んだ尻穴をみんなに見せつけていた。
あんなやつのどこがいいのか全く分からない。
なのに綾人くんは彼氏に夢中でいつもイチャイチャしてる。
たったひとりに入れ込むなんておれには到底無理だ。

「おれは綾人くんのようにはならないよ。おっさんなんて気持ち悪いだけだ」

ホモセックスなんて金とストレス発散以外にする必要はない。
あいつらだっておれらの体が目当てなんだ。
おれは自分の丸い腹の肉をつまむと夜の町に消えていった。

 

 

***
 

 

翌朝、おれは電車に揺られていた。
朝の通勤電車はぎゅうぎゅうで特急ともなればすし詰め状態だ。
冬はまだしも夏は地獄である。
空調の生ぬるい風すらおれの身長では届かない。
後ろのOLは香水臭いし、隣の学生はヘッドホンから漏れた音がうるさい。
癖になっているのか異様に舌打ちを繰り返すサラリーマンはウザい以外の何者でもなかった。
それぞれ苛立ちながら電車に揺られている。
この不快感は何年経っても慣れなかった。
しかしそんなおれでも楽しみはあった。
(また見てる)
ドア側の座席横にある棒に掴まっていると背後から視線を感じてニヤリとほそく笑む。
同じ時刻の同じ車両にはいつも同じおっさんがいた。
おれが乗り込んだ時にはもういるから、おれより前の駅で乗車するのだろう。
見た目気弱そうで、会社や家でもいいように扱われてそうなサラリーマンだった。
最初に視線を感じたのは三ヶ月前で、それ以来、わざと彼の近くにいくことにしている。
するとおっさんは決まり悪げに顔を背けるが、頬に赤みが差していて意識しているのはバレバレだった。
(おれの何がいいのか)
同じ年頃の少年より肉付き良い体。
と、いって相撲取りみたいな巨体ではない。
女子で言うところのぽっちゃり程度だ。
女たちが言うぽっちゃりは大抵がデブだが、おれのはちゃんと体重を抑えている。
あえてこの体型を維持しているからだ。
これ以上太ったり痩せたりしないよう細心の注意を払いコントロールしている。
それは需要があるからだ。

「………ごくり…」

背後でおっさんが唾を飲んだのが分かった。
たぶん電車が揺れておれの体が彼の身体へもたれこんだからだ。
(特殊な性癖ってやつ?)
ふとましい体は八割の人間には見向きもされないが、残り二割の人間には異常に好かれる。
デブになればなるほど好かれる割合は減るが、その分、執拗に興奮されるようになる。
つまり営業をかけずともリピーターになってくれるのだ。
この世界可愛い少年はいくらでもいるし、そこで客を取り合うのは不毛だ。
ならいっそ特殊な好みのウケを狙ったほうが楽だ。
そのバランスとしてぽっちゃり程度が一番ウリをしやすかった。
デブほど人を選ばないし、肉付きの良さからノンケがハマる場合も多い。
この体型を好きになってしまったら、もう痩せ細った女の体なんて抱き心地が物足りなくなるからだ。
(まーた勃起させてるよ)
おっさんは、密着すると、よく勃起したちんこを擦り付けてくる。
自然を装っているが、普段からおっさんちんこを咥えているおれが気付かないわけがなかった。
だが、彼はそれだけで満足なのかおれには触れようとしない。
降りる駅になれば何食わぬ顔で下車する。
慎ましい興奮。
金にものを言わせてナマだ中出しだと要求してくる男たちに比べれば可愛いものだった。

「…っふ……」

やばい。
おれも勃っちゃった。
だいたい昨夜も中途半端に終わってしまった。
客が急に中出ししたいなんて言い出すからだ。
誰がおっさんの溜め込んだ黄ばんだ精液なんか欲するか。
ナマでさせるだけでもムリなのに、腸内にぶちまけられるなんて死んでもごめんだ。
ウリを始めてから一度もナマでの挿入と中出しは許さなかった。
その噂が広まったのか、最近はおれに中出し希望で買う客も増えた。
どいつもこいつもおれの”初めて”と”特別”を欲しているのだ。
好意があるわけではない。
ただ単に他者に対して優越感を抱きたいだけなのである。
(くそむかつく野郎どもめが……)
故にストレスばかりが蓄積されていた。

「はぁ……はぁ…」

すると、不意におっさんの吐息が耳を掠めた。
くすぐったい。
チラッと振り返れば即座に目を伏せられる。
なのにちんこは硬さを増している。
(うぶなやつ)
彼はおっさんのくせに今時珍しいくらい愛らしい反応をする。
こいつの頭の中でおれは何をしているのだろう。
どんなことを強要されているんだろう。
きっちりと七三に分けた髪に、暑そうなスーツを着ている。。
いかにも生真面目を描いたようなおっさんは、目を泳がせて右往左往している。
おれのどこに興奮してるのか?
尻?太もも?
だいたいそのちんこはどう処理をしているんだ?
駅のトイレで抜いてから出社する哀れな姿が目に浮かぶと頬が緩んだ。
彼は知らない。
おれがいろんな大人に尻を犯されてあんあん喘いでいること。
それで金を得てお菓子やゲームを買っていること。
太っていると、なぜか無条件に良い子、優しい子に見られることが多かった。
温和だとか落ち着いているとか、人の良さそうな顔に見えるらしい。
本来のおれは客によってはぶりっ子を演じたりするが、昨日みたいに頭に来ればおっさんを蹴飛ばすし、平気で罵声を浴びせるほど勝ち気な性格だ。
それを知らない彼は、おれをただの無垢なぽっちゃり少年だと思っている。
(ああ、なんか興奮する)
おっさんが何で抜いているのか、どんな風におれを見ているのか知りたくなってきた。
その期待を裏切って失望し、膝を折るおっさんを見てみたくなったのだ。
我慢できない。
おれは空いている手でおっさんの股間に触れた。
始めは偶然を装い、ズボンの上から手の甲でスルッと撫でる。
するとおっさんはビクビクと身もだえ甘い吐息を漏らした。
まさか恣意的に触られているとも思わず、ラッキースケベを心から享受している。
だから今度は意思を見せようと微かに爪を立ててみた。

「………っ!…」

すると、彼は目に驚愕を表し、咄嗟に体を離そうとした。
逃がさないようおれはズボンの上から陰茎を掴む。

「あ………っ」

その刺激におっさんは蚊の鳴くような声で啼いた。
思ったより低く、良い声をしていた。
おれは優しく陰茎を撫でてあげた
直接触らなくてもちんこのデカさが分かる。
皮肉にも散々ウリをしてきたからこそ、性器のデカさを測ることができるのだ。
(あーあ、もったない)
イケメンであれば――いや顔は並程度であれやり手であれば今ごろこの性器は彼の武器になり得たのかもしれないのに。
こんなところで年頃の少年相手に変態行為にいそしまなくても多くの女たちに悦ばれただろうに。
他人事ながら哀れんだおれは、ズボン越しに感じる熱を煽るように亀頭を指でぐりぐりした。
するとおっさんは声を押し殺しながら腰を震わせた。
次第におれの動きに合わせて腰をカクンカクンさせる。

「……ど…して…?」

周りに聞こえないよう消えそうな声で呟く彼におれは微笑んだ。

「明日も触らせてくれたら教えてあげるよ」

彼のちんこはおれの手の中で返事をするように脈打った。

 

 

翌朝、いつもと同じ電車に乗るとおっさんが待っていたかのようにおれを見た。
目の縁をポッと赤らめて視線を逸らすのはいつものこと。
いかにも小心者そうな彼は、時間をずらして避けるのではないかと思っていたが杞憂に終わった。
いや、おっさんのことだ。
煩悶したに違いない。
迷いに迷ったが、結局欲には勝てなかった。
おれにちんこを弄んでもらう悦びには抗えなかった。
だって昨日のように密着すると、もうすでにちんこを硬くさせていた。
おれを待っていたんだ。
(いいね。そういうの興奮する)
いい年したおっさんがおれの肉体に溺れ、振り回されていると思うと、清々した気になる。
もっと遊んでやりたくなる。

「…あ……あの…」

おれはおっさんが声をかけてきても素知らぬ顔で無視をした。
体にちんこが擦れても昨日のようには触ってやらない。
そんなおれの態度に彼は戸惑うように眉をひそめた。
泣きそうな顔がドアのガラスに映っている。
そりゃあそうだ。
昨日触ってあげるという約束をして別れたのに、いざ現れたおれは触るどころか無視を決め込んでいる。
困惑するのも無理なかった。

「……ん……」

彼はおれの尻から腰にかけてちんこを押し付けている。
すりすり、すりすり。
オナニーを覚えたてのガキみたいにちんこを擦ってる。
分かっているのか?
そうしている相手はまだ子どもなんだよ。
そんな臭いもの擦り付けて変態そのものじゃないか。
なのに彼は、おれへ手を伸ばそうとはしない。
胸もお尻も触り放題なのに、そこまでの勇気はない。
(ちんこを押し付けるほうが卑猥なのに)
変な人だ。
電車の揺れでごまかしながらおっさんはおれにちんこを擦り続けた。
もどかしそうにおれを見つめる瞳にはうっすら涙が滲んでいる。
彼の期待が手に取るように伝わった。
また触ってほしいんだろう?
小さな手で陰茎をしごいてほしいんだろう?

「…ん、ふ……」

そんな泣きそうな声を漏らさないでよ。
大人でしょ。
しかもおっさんのくせに、何捨てられた子犬みたいな顔をしているの?
アンタならおれくらいの子どもがいてもおかしくない年齢だろうに。
なんで欲情しているんだ。
(欲求不満なんだね)
奥さんに相手してもらってないのだろうか。
顧客の中には既婚者も大勢いた。
奥さんには言えない性癖を持っている奴や、上手くいかない夫婦関係の憂さ晴らしをするような客もいた。
男なんて所詮そんなもんだ。
欲を吐き出すことを求めているんだ。
それは結婚なんていう契約では抗えない本能的なものだ
(それにしてはちんこ押し付けすぎだろ)
先ほどからおっさんは動きを止めることなく擦り寄ってきている。
どんだけムラムラしてるんだよ。
これじゃほかの乗客に気づかれてしまう。
おれは暴れるちんこの先をズボンの上からきゅっとつまんだ。
するとおっさんは呻き声を漏らす。
おれは振り返って背伸びをすると、

「おれがおっさんのちんこを躾てやるよ」

彼の耳元で密やかに囁いた。
びくん、びくん。
返事代わりにちんこが脈打つ。
相変わらず返事の良いちんこだ。
口角を上げて挑発するように見据える。
おれがしごいてやると、おっさんはすぐに歓喜の射精をした。
ズボンが湿る。
眉間に皺をよせ、唇を噛み締めて絶頂の余韻に浸っている。
彼の官能的に歪む顔や、荒々しい吐息はおれの心を満たした。
なりゆきの関係だったけど、おれの好奇心に火をつけた。
自分の中で新たな感覚が芽生えようとしていることに、ぞくぞくと肌が粟立った。
 

 
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