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それから一週間経ちました。
子どもたちは相変わらずストライキだと息巻いて練習を休んでいます。
始めにあった緊張感はなくなって、ダラダラと過ごす日々です。
僕は何食わぬ顔でそれに参加し、ぼんやりと鉛色の空を眺めました。
それが終わると、僕だけ家には帰らず、ホールへ直行します。
ホールにはエオゼン先生がいました。
彼はオリバーの言った通り、現状を責任者には伝えておらず、団員が自分を毛嫌いして練習を休んでいることは誰にも知らせていませんでした。
責任者である貴族も、とにかくエオゼン先生や子ども音楽団には係わり合いたくないらしく、一切こちらへは顔を出しません。
幸か不幸かそのお陰で現状が成り立っているのでした。

「んっん…………」

エオゼン先生の個人授業は僕には大きな試練でした。
言葉で僕を屈することが出来ないと思ったのか、それとも新たな玩具として遊んでいるだけなのか。
僕の体を辱めるようになったのです

「あっ……」

彼は僕の下半身だけ服を脱がせると、露になった性器を扱き、強制的に射精させたり、目の前で股を開くなど恥ずかしい格好をさせたりするのです。
エオゼン先生は、僕が羞恥心に頬を染めたり、余裕なく喘ぎ、泣きじゃくったりする顔を見るたびに満足げにしていました。
本当に性根が腐った人なのだと、心の中で侮蔑します。
でないと僕は自尊心を保てそうになかったのです。
男なのに好き勝手弄られて、あんあん言っていることがどうしても耐えられませんでした。

「ひぅ」

だけど気持ちいいのです。
どんなに我慢しようとしても、口から嬌声が漏れてしまうほどたまらないのです。
エオゼン先生に与えられる快楽は、僕が知らないものでした。
始めは困惑と恐れで震えてばかりでしたが、次第に慣れてくると疼いて止められなくなるのです。
我慢に我慢を重ねて射精した時は、目の前が真っ白になって体がどこかへ弾け飛んだような心持ちになりました。
何よりもあの手がずるいのです。
細くしなやかな指先が、僕の肌の上を撫でる時、例えようのない悦びが体を駆け巡りました。
美しい音を奏でる指が僕の体に触れている。
自分さえも触れるのを躊躇うような場所に触れている。
そう思うだけで恍惚となってしまうのです。
エオゼン先生はそんな僕を見抜いて、さらに溺れさせようと体を開発していきました。

「ん、んぅ」

ランプの明かりに僕の白いお尻が浮かび上がります。
冷えた蜜を垂らされてぶるりと震えましたが、それがお気に召したようで、エオゼン先生は塗りたくるように尻を揉みました。
そしてきゅっと締まっていた尻に指を差し込むとほじり回します。

「ん……っ、ふぁ……」

僕は腰をくねらせると、持っていたヴァイオリンを落としそうになりました。
今日は課題曲を弾きながら体を触られているのです。
何度も無理ですと拒否しましたが、じゃあもう指導するのやめようかと言われて、条件を呑み込まざるを得なかったのでした。

「弦の押さえが甘い。ビブラートがかかってないぞ。あと角度だ。弓はもっと立てろと何度も言っているだろうが」

エオゼン先生の指導は的を射ていました。
すぐに僕の苦手な指使いやテンポを見抜き、初歩中の初歩である音の出し方からみっちり教えてくれたのです。
僅かに音を外すことさえ敏感で、一切の誤摩化しは通用しません。
酷い時は一時間丸々一小節を繰り返し練習しました。
少しでもだれてくると、怒号が飛びます。
真面目なんだか不真面目なんだが全然分かりませんでした。

「これ以上は……無理ですっ」

お尻の穴をぐちゅぐちゅにかき乱されながら、楽器なんて弾けません。
僕のちんこはピンと勃ちあがり、触って欲しそうに揺れていました。
ダラダラと汁を垂らして下品極まりありません。

「触り始めてまだ数日だってのに感度の良い尻だな。元々そういう素質があんのか」
「ちがっ」
「本当はお前こうされて嬉しいんだろう。まさか俺に惚れているんじゃねーだろうな」

エオゼン先生は勘弁してくれと笑って僕の柔らかくほぐれたお尻に指を一本追加しました。

「絶対に違いますっ。僕は先生なんて好きじゃありません」
「でも俺の奏でる音は好きなんだろう?」
「そうです。音だけです。僕は先生の出す音以外に興味なんてないんです」

蕩けた顔で言っても説得力はないのかもしれません。
でも認めたくないですから、断固として否定します。
それまで僕は自分の意見を言わない子でした。
言えないというより、言わない方が丸く収まるから、何となく言うことが憚れてしまったのです。
だからといって不満はなかったから、僕は意志が弱いだけの人間なのだと思います。
そうして楽なほうへ、易きへと流れていきました。
しかしエオゼン先生が相手だと、そんな甘ったれたことは許されません。
彼は興味津々に僕の体を弄るのです。
初めてお尻を弄られた時なんて、異物を入れられそうになりました。
僕は絶対に嫌だと首を振りました。
あんなもの入れたらお尻が壊れてしまいます。
そしたら意外とあっさり許してくれたので、これはもう自分の意志を通せるだけ通してやろうと開き直りました。
どうせ今みたいに、どんなに嫌でも強引にさせられることはあるんです。
だったらとにかく嫌なことに対してまず自分の意見を言ったほうが楽じゃないですか。
それで引いてくれたらラッキー、それでも許してくれなかったら、鬼だ、悪魔だ、罵ってやればいいんです。
エオゼン先生はどうせもっと酷いことを言うのだから、これくらいはおあいこなのです。
そう思ったら急に気持ちが楽になって、肩の力が抜けました。
言ったあとにどうなろうと、まず言葉にすることが大事なのだと教わった気がします。
――といって、先生に感謝する気はないけれど。

「躾ければちったぁ可愛くなるかと思えば、お前はとことん腹が立つガキだな」
「躾るんじゃなくてヴァイオリンを教わりたいんですよ」
「まったく」

エオゼン先生は白けた顔で話を受け流すと、僕の腰を抱いて、自らへ寄せました。
彼はズボンを脱ぐと太く大きなイチモツを取り出します。
椅子に腰かけ、来いと手招きされたので、僕は渋々先生の膝の上に乗っかりました。
ゆっくり腰を落としていけば、僕の小さな穴に硬くて熱い性器が差し込まれていきます。
散々ほぐされた穴は柔らかく伸びてソレを受け入れました。

「くぅ」

あまりの質量に腰を震わせますが、手を止めようとすれば下から突き上げられます。
エオゼン先生の性器を挿入されているなんて、始めのうちは信じられませんでした。
入るとも思わないし、入れるとも思わない場所でしょう。

「んにゃ、あ」

すると途中で彼の指が僕の背中をなぞりました。
その瞬間、力が抜けて、一気に根元まで挿入されてしまいます。

「ふああああ」

僕はとろんとろんになりながら、先生の胸に凭れて内蔵を突かれた感触に酔いました。
乱れる息を整えようにも、心臓は早鐘のように鳴って止まりません。
そうこうしている間に、エオゼン先生が動き出しました。
椅子をガタガタ言わせながら、僕の腸内を突き上げてきます。
逃げようと腰を浮かせれば、強く抱きしめられて離してくれません。
突かれ続けていくとお腹の奥が熱くなりますが、好き勝手にむさぼられます。
僕は娼婦の代わりでした。
エオゼン先生いわく、僕を虐められるし、手っ取り早く性欲を解消出来るし、一石二鳥なのだそうです。
だから僕は女の代わりに抱かれているのです。

「ひぁ、あっ、せんせっ……ん、んっ」

僕は女性のような声で喘ぎました。
ホールの高い天井に僕の甲高い声が響きます。
痛かったのは最初だけでした。
エオゼン先生の指に翻弄されて、少しずつ快楽を叩き込まれていったのです。

「あ、あぁっ、あっ……ん、やぁ、あぁっ」
「んぅ、お前は何をやっても駄目で、いいところなんかないが、喘ぎ声だけはいいな」
「そなぁ……せんせ、っ、ひぅ……そんな激しくしないでくださいっ……!」

椅子から振り落とされそうなくらい突き上げられて、僕は先生の太い腰に足を巻きつけました。
本当は嫌でした。
だってこんな風に抱きついたら合意みたいじゃないですか。
恋人っぽく見えるじゃないですか。
僕は嫌々抱かれているんです。
ヴァイオリンのために自らの体を生贄として捧げているんです。

「いっちょまえに蕩けた顔しやがって、俺のちんぽが気持ちいいのか?」
「くぅ、ぅんっ……んぅっ」
「言えよ。気持ちいいんだろ?」
「ひゃぁ、ああっ……奥まで突かないで……ぇっ……!」
「おら、言えってば」
「はぁぅ、っ……きもちい、先生のちんこ……気持ちいいんですっ……僕のおしりを気持ちよくしてくれるちんこですっ」

僕はエオゼン先生の容赦ない責めに甘んじて屈しました。
ホールに喘ぎ声が反響して恥ずかしいくらいに響き渡ります。
だけどこういう時に意地を張っていると、もっと酷い目に合わされてしまいます。
奥をガンガン突いてくるのです。
まだ慣れない奥の内壁を執拗に擦り付けて、内蔵を押し上げようとしてくるのです。
さすがの僕も苦しくて呻きました。
奥は嫌です。
エオゼン先生は慣れたら気持ちいいと適当なことを言っていましたが、僕は信じられませんでした。
ぞわぞわと粟立つような違和感ばかりで気持ち良くなんかないからです。

「そうだ。始めから素直になっておけばいいんだよ」
「はふっ、せんせ……くぅ、んんっ」
「褒美にイイとこ突いてやるよ」
「あぁ、ああっ!」

ひと際僕の嬌声が大きくなりました。
僕のお尻を鷲づかみにしたエオゼン先生は、僕の弱いところを重点的に擦ってくれます。
おちんちんの裏側をえぐるように突かれるたびに、僕ははしたない声をあげました。
亀頭でぐりぐり苛められるたびに、ちんこは悦んで白濁液を垂れ流します。
そこを弄られるとだめなんです。
どんなに反抗していても降参してしまうんです。
ただでさえエオゼン先生は粘着質に責めて僕をいたぶるのに、弱いところを弄られたらお手上げです。
僕は彼の首に手を回すと、恥も外聞も忘れて抱きつきました。
もう強姦でも合意の上でもどうでも良かったんです。

「やぁあ、っ……出ちゃ、あぁっ」

僕の体は限界でした。
エオゼン先生にしがみついたまま思考は停止して、体中の熱が外へ噴き出してしまいそうになります。

「はぁくっ……イクのか?レイプ紛いの行為でイかされちゃうのか?スケベなガキめ」
「ひどいですっ、こんなにしたのは…せんせ、なのにっ」
「口ごたえするな」
「あぁっ!……だって、ひぅ……んぁ、あぁっ…はぁっぅ、んっ」

僕が睨むと愉快そうに口角を上げました。
その割りに目は笑っていなくて、彼も限界なのだと悟ります。
一緒にイクのは、どこか恥ずかしい気分になります。
お互いの気持ちが高めあってそう感じるのかもしれません。

「や、だめ、だめっ…!あぁっ、んぁあっ……せんせ、っエオゼン先生っ!」」
「ハイネスっ……く、ハイネス!」

先生は意地悪を言うくせに放してくれないんです。
彼は、椅子から抱き上げると、冷たい床へ僕を押し倒しました。
覆い被さったままぎゅっと抱きしめてくれるんです。
その温もりは優しくて、どんな酷いことを言われても許してしまいたくなりました。
僕は先生の胸に顔を埋めて鼓動を聞きました。
飄々とした態度に反してとても速いんです。
耳を押し当てていたら酔ってしまいそうなほどで、僕よりずっとドキドキうるさいんです。
それを見せないところが先生らしいと思いました。
僕は大きな背中に手を回して身を委ねます。

「あぁあぁ――――!」

共に高みへのぼっていくと、先にイったのは僕でした。
雷に打たれたかのような衝撃に、体がバラバラになりそうなくらい感じてしまうと、もう思考は働きません。
僕はこれ以上にないくらい先生にしがみついて射精をしました。
あまりに刺激的で目の前が白く染まりました。
意識の混濁を招くくらいの快感が頭の先から足の先まで駆け巡りました。

「ひぅ――――!」

歯軋りするほど我慢を重ねた射精は、この世のものとは思えないほど気持ち良くて、僕は涎を垂らしたまま恍惚としていました。
無意識にお尻の穴を締めていると、耳元で先生の呻き声が聞こえました。
それとほぼ同時に彼も絶頂に達したのか、ちんこをビクビク震わせながら、僕の腸内で射精します。

「く、ぅん……っ」

先生の濃い精液がお腹の中に放たれたと思うと、嫌悪感と同時に不可思議な感情を抱きました。
まるで海鳴りのような微かなざわめきが、心の奥で響くのです。
僕は、指ひとつ動かせず、快感の波がおさまるのを待ちました。
暗闇に支配されたホールの天井には、ランプの明かりによって作り出された影が映し出されています。
僕とエオゼン先生です。
仄かな光は時に揺らめき、生き物のように蠢きました。
窓ガラスを叩くのは冷ややかな夜の風です。
ですが、それも一時のこと。
この世のものとは思えないほどの静けさは、二人の荒い吐息を際立たせました。
暖を分け合うように重なる体は、芯に響く温かさがありました。
なぜ人の温もりはこんなにも心地良いのでしょうか。

「はぁ……はぁ……先生」

僕は絶頂後の虚脱と余韻に浸りながら、彼の服を掴みました。
朦朧とする意識の中で身を寄せます。
相変わらず酒臭い体ですが、慣れてしまったのか、この匂いを嗅いでいると安心するのです。

「何、好きでもない男の服掴んでんだ」

エオゼン先生は振り払おうとしますが、僕は無意識に引っ付いて離れませんでした。
肌を重ねるたび彼に近づけているような錯覚を起こしていたのです。
彼のことは好きでもなんでもないのに、どういうことでしょうか。

「お前は、まったく」

しばらくして諦めたのか、エオゼン先生は僕の腰に手を回すとぎゅっとしてくれました。
その胸にうずくまると彼の顔は見えません。
でも声色がほんの少し優しい気がして、その体に擦り寄りました。
こんないやらしいこと嫌で嫌でたまらないのに、行為の最中や終わったあと、エオゼン先生の態度が柔らかくなるから拒絶出来ないのです。
無性に甘えたくなるのはなぜなのでしょうか。
自分の気持ちが見えなくて困ります。

「ほら、練習の続きやるぞ」

そうして浸っていると、エオゼン先生は体を離しました。
またビシバシと鍛えてくれるのです。
僕はめげませんでした。
どんな汚い言葉で罵られようと、耐えに耐えて粘り強く練習しました。
すべてはエオゼン先生のような音を出すためです。
そのためなら悪魔に魂を売り渡してもいいと思っていました。

それからしばらくヴァイオリンを見てもらうと、今夜の練習は終わりました。
僕はエオゼン先生より先に帰ります。
こってり絞られてクタクタになっていました。
エオゼン先生の指導はスパルタそのものです。
弓で引っ叩かれたこともあります。
でも僕は気付いてしまいました。
厳しいということは熱意があるということなのです。
子ども音楽団での授業ではまったくやる気が感じられませんでした。
今だって同じように罵倒されますが、教えてくれるところはちゃんと教えてくれるのです。
熱心に根気強く僕の体に音楽を叩き込もうとするのです。
音楽に対する情熱が戻ってきているのでしょうか?
僕は淡い期待に胸を膨らませます。
(明日も頑張ろうっと)
練習が楽しみで楽しみで仕方がありませんでした。
自分の上達は見えなくても、信じる人がいれば迷いや不安はありません。
僕はどんな理不尽も訊きました。
それこそエッチなことも屈辱的なことも受け入れました。
きっと相手がエオゼン先生だからです。
僕はもう一度彼が演奏するところが見たいと思いました。
そうして暗い廊下を足取り軽く進むとホールの出口に辿り着きました。
群青の空に張り付く星が、瞬きながら僕の晴れやかな顔を照らします。

「おい、ハイネス」

ですが、希望に満ちていたのはこの時まででした。
見上げていた顔を戻すと、血の気が引いて息を呑みます。

「どういうことだ」

そこにいたのはオリバーでした。
その眼差しは裏切り者めと言いたげでした。
ああ、とうとうこの時が来てしまった。
僕はいつかこうなると覚悟していました。
遅かれ早かれオリバーは気付く。
すべては僕の弱さが招いたことです。
いつでも「もうやめよう。練習しよう」と言えたのに、僕はそれを彼らに言えませんでした。
影で練習している僕は裏切り者以外の何にでもありません。
弁明も言い訳もしませんでした。
あるのは事実のみです。

「ごめん、オリバー。僕、やっぱりヴァイオリンが好きなんだ。音楽が好きなんだ」

樫の木が僕らの動向を見守るよう風に吹かれて枝を揺らします。
葉同士の擦れた音が耳を騒がせました。
それもすぐにやみ、あとに残ったのは陰鬱な静寂のみです。
僕は懺悔をするような気持ちで、じっと睨むオリバーを見ました。

「一緒に練習しよう? もう一度子ども音楽団をやろう?」
「………………」
「エオゼン先生から教わろう? あの人はすごく素敵な音を奏でるんだ。だから――」

必死の説得にも、彼は眉ひとつ動かしません。
どんなに心を込めた言葉も、相手に届かなくては意味がないのです。

「お前、最低だ」

オリバーはそれだけ言うと、僕に背を向けました。
そうして僕から遠ざかっていきました。
本当なら引き止めなくてはならないのに、喉が引きつって声が出ませんでした。
昂揚のない彼の声が大きな刃となって胸に突き刺さったのです。
あまりに痛くて本当に裂けてしまったのではないかと思いました。
その言葉には僕に対する信頼があったのです。
大切なオリバー。
大好きな友達。
僕は彼を裏切ったのです。
後悔と呼ぶにはあまりに重い十字架を背負ったような気分でした。

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