10

 

 

「す…き……っ……」

恋しい相手にされたとき、それは正反対の感情が湧き出て溢れる。
耳元で響く荒々しい吐息や、こめかみから頬へ顎へと伝う汗の面映ゆさよ。
自分より何倍も大きな体に包まれ、身動きが取れないほど強く求められることの愛おしさよ。
腹の中で溜まっていく命に、慈しみにも似た気持ちを覚え、勝手に瞼が震える。

「アンタが好き……」

陶酔が波のように次々と打ち寄せて、ほろりと本心が零れ落ちた。
二度繰り返すことで自ら隠そうとしていた気持ちを認める。
おっさんはその言葉に大げさなくらい仰け反ると、吃驚を表しながらおれの顔を覗き込んだ。
そっと大きな手のひらでおれの頬を包む。
困惑したように眉毛は下がっているのに、その瞳は切ないくらい希望に満ちている。

「悔しい。でも好き。…っん、好きな人に中出しされるのがこんなに嬉しいことだなんて。やばい。好き。ん、好き好き……っ」
「……っ……!」
「はぁ…ん、おれの初中出し…きっとおっさんのために残しておいたんだね。…電車の中でもすごかったけど…こんなじわって広がって満たされるんだ」

おれは大量に出された精液を想像するように、自分の腹を撫でた。

「好き。大好き。好き……」

おれはうわ言のように呟いた。
一度言葉にすると止まらなくて、口にすればするほど幸せな気持ちになって、限界を越えていく。
途端に目の前のごく普通のおっさんが、まるで自分だけの運命の王子様みたいに見えてきて胸が絞られるような思いがした。

「い、い、一平く……!」

おっさんも同じだったみたいで目にハートを浮かべておれを見つめてくる。
やべーわ。
マジでやべー。
もう町中にいる不細工なバカップル馬鹿に出来ないわ。
見かけるたびに眼科か脳外科へ行けバーカって思ってたけど、きっと彼らもお互いが唯一無二の美男美女に思えてたんだろう。
気持ちがわかってしまう。
だって、

「お、お、おじさんのほうがずっとずーっと一平君のことが好きだよ」
「いいや、おれのほうが好き、大好きなの!」
「もう、一平君可愛い!好き!」
「おっさんだってめちゃくちゃ恰好良いもん、やばいくらい好き!」

――っていう、クソみたいな会話を飽きずにいつまででも出来ちゃうんだ。
おっさんがおれのおでこをツンってするから、代わりにおれがおっさんの頬にちゅってキスをする。
するとおっさんはお返しと言わんばかりに、おれの体中にキスマークを残した。

「やあぁ…んっ、うれし……」

これまでの援交相手だったら、商品である体に痕をつけるなんてぶっ飛ばして即ブラックリスト行きだった。
けれども今は嬉しくて喘ぎながらもっと付けてと強請ってしまっている。
ラブホで全面鏡張りの部屋が受けるわけだ。
鏡の中の自分がキスマークによっておっさんに支配されていくことに満足感でいっぱいになった。
首筋や胸元だけでなく、ふくよかな腹や太ももから、背中、脇の下や足の裏などマニアックな部分まで吸い付かれて赤い鬱血が残されていく。
そうしている間に、先ほどアヌスに出された精液が漏れてきて、シーツを白濁で汚した。
当然気持ちは盛り上がりまくっていて、それで終わりになんか出来なかった。
即座に四つん這いになったおれは、自ら精液溢れる尻の穴を広げ、腰を振っておっさんの性器を求めた。
すでに二度中出しされた穴は、ラブホの白熱灯に照らされて、ヌラヌラと卑猥なテカリでおっさんを誘っている。
通常であればきつく窄まったソコが、己の巨根で無理やり拡げた上、呼吸をするかのようにヒクヒクと蠢いていたらたまらないだろう。
すぐに硬さを戻した彼の肉棒は無遠慮におれのアヌスに突っ込み、根本まで押し込んでしまった。
ホテルに来た当初は途中までしか挿れない気づかいを見せたおっさんだが、もはや理性のタカが外れた彼は野獣のように激しく抽挿を繰り返した。
その様はまさしく発情期を迎えた動物たちの交尾で、おれの肉付き良いお尻を鷲掴みにしながら必死に腰を振るおっさんを鏡越しに見つめて満たされた気になるが、おれだってデカすぎるブツを咥え込んでいるんだ。
すぐに思考は掻き消されて、自分のペニスを扱きながらダラダラと涎を垂らして喘ぐケモノ以下の存在に成り下がった。
三度目の中出しになっても射精時の甘美な快感は薄れず、すでに中毒化して手遅れになっていることを悟った。

「えへへ。おれがおっさんの体を隅々まで洗ってあげる」

その後、体液まみれの体を洗おうと二人で風呂に入った。
おれは体中にボディソープを塗りたくると、おっさんの体に自分の体を擦り付けて洗ってやる。
ぷにぷにの体はここぞとばかりに本領発揮し、おっさんは照れながらもその魅惑的な感触に浸っていた。
彼の腕を洗おうとむっちりとした太ももで挟んで腰を振ってやった時には、歓喜の眼差しでおれを見つめて視線を逸らさなかった。
何をするにも一々感動して「か、か、かわいいっ――!」と上擦った声をあげるものだから、おれのテンションもあがる。
ウリでもサービスとしてやってやることはあったが、買い手はやってもらって当たり前であり、こんなに感激されることなんてほとんどなかった。
いいや、おっさんが喜んでも喜ばなくても、してあげたいという思いは変わらない。
自分にこんな献身的な気持ちがあるなんて、綾人くんが聞いたらさぞ驚くだろう。
(恋って偉大だ)
今まで散々綾人くんと彼氏を馬鹿にしてきた。
意味が分からなかった。
あんなに可愛い綾人くんが無償でたったひとりのオヤジ相手に体を開いている。
それどころか彼氏のために卑猥なコスプレは当たり前で、なんならオヤジの誇示欲、独占欲を満たすために痴漢クラブのステージでセックスを見せている。
いつかは目が覚めて別れるだろうと思っていたが、二人とも全く熱が冷める気配がなかった。
それどころか頻繁にデートもしているみたいで、会うたびにどこへ遊びに行っただの惚気られるし、なんならお泊りデートの時なんかはおれをアリバイに使っている。
日ごと愛情は増すばかりのようで、おれと痴漢クラブのカウンターでしゃべっている時でもあのオヤジ割り込んでくる。
キスをしながらイチャイチャするのはまだ良いほうで、綾人くんのおちんちんを勝手に扱き始めるわ、尻の穴を弄り始めるわでやりたい放題だ。
酷い時なんかは話し途中の綾人くんを立たせると、後ろからちんこを挿れやがる。
可愛い男の子ふたりで話している最中にセックス始めるってどういうこと?
綾人くんもまんざらではないようで、オヤジのちょっかいをすべて寛大な心で受け止めている。
結局盛り上がった二人は我慢できずに、そのまま奥の個室へと消えていくのだが、おれは何度オヤジの後ろ姿にあっかんべーをしたか分からない。
綾人くんいわく良いところもいっぱいあるようなのだが、全然良さが分からなかった。
(それにくらべてうちのおっさんの愛らしさよ)
おれはスケベ椅子に座り、ポーっとおれに見惚れているおっさんを見上げる。
素直でピュアで可愛くて、なのに時に強引でエロくて格好良いって凄くね?
ついでにちんこがデカい上、そこに甘んじることなくおれを気持ちよくさせようと一生懸命なんてもはや彼氏として優勝でしょ。

「……な、なに?あ、ご、ごめん。一平君を見すぎてたかな。あまりにも可愛くて、つい……」

おっさんは照れくさそうに頬を赤く染めて微笑んだ。
(最高かよ!)
おれは心の中で大きくガッツポーズをした。
だが紙一枚の理性で抑えると、おっさんの横にちょこんと座り、きゅっと腕に擦り寄る。

「……おっさんとおれって今日から恋人同士ってやつだよね?」
「えっ……あ、う、うん」
「ならさ、好きっていっぱい言ってくれたけど、でも……ほかにもおれに言うことあるよね?」
「……っ……」
「ちゃんと言葉でも言ってほしいなあって」

おれは意図的に普段よりウルウル瞳になると甘えるように呟く。
泡まみれの肉々しい体で彼の体を押し潰し、隙間ひとつなくなる。
もはやアカデミー賞並みの完璧な演技力だ。
するとおっさんは、興奮を露におれの体を掴むと押し倒し、足を開かせるとそのまま挿入してしまった。

「あぁっ……はぁっ、ん…せっかくさっきお尻の穴、綺麗にしたのにぃ……」

そう言いながらおれの声は悦んでいる。
見上げたおっさんは珍しくも凛々しい表情をしていて、そのオスみに胸がドキドキと騒がしくなる。

「結婚を前提に、俺とお付き合いしてください」
「は……?」
「そうだよね。好きって言う前にちゃんと伝えなきゃだめだよね。気が回らなくてごめん」
「いや、だから……おれは別に、そうじゃなくて」
「俺、一平君のこと、ずっとお嫁さんにしたいって思ってた。ううん、絶対にお嫁さんにするって決めてた!俺、必ず幸せにする、一平君が選んでよかったって思ってもらえるように頑張る。だから——!」
「い、いやいやいや……!…け、結婚を前提なんて、おれ男の子で……んっんぅ!」

すると強引に唇を塞ぐようなキスをされてしまった。
おれとのキスが初めてだったくせに、今日一日で何度も口づけをしたせいか、おっさんの舌はなめらかに動く。
そう仕込んだのは自分なのだという実感が一層幸せなキスになってしまう。

「んぅっ、……ちゅっ、ぷ……はぁっ、んんぅっんっ……ちゅ…っ…」

ラブホらしく広い浴室で、そのまま有無を言わさず激しく突き上げられた。
すでに緩み切った尻の穴は、拡張される痛みや違和感を忘れ、ダイレクトに脳へ快楽物質を流し込んでいく。
喘ぎ声が響いて耳に届くいやらしさと、意識を逸らさぬようおれの唇にしゃぶりつく彼の唇の熱に充てられて、否定の言葉もどこかへ飛んで行った。
肉感的なおれの体にボディソープのヌルヌルや泡がぴったりと二人の肉体を繋げる。
もはやどこからが彼の皮膚で、どこからがおれの体なのか境目も曖昧なほどだ。
おっさんもおれの肉壷の気持ちよさに腹筋を引きつらせている。
おれは残念ながら童貞で、アナルに挿入している側の気持ち良さは分からないのだが、彼の快楽に歪む表情を見ていると、その気持ち良さが手に取るように伝わってくる。
男に抱かれるたび、少なからずデブ専というジャンルが存在する意味を実感する。
一度この肉感を味わうとヒョロヒョロした細身を抱けなくなるらしいのだが、おっさんの場合はそんな極上のアナルで童貞を失ってしまったのだ。
もはやおれ以外を抱いたところで満足できまい。
だが、実際に二人が気持ちいいと思えるのは想い合っているからなのだ。
ちんこが大きいだとか、体がぷにぷにで気持ちいなんていうのは要因の一つにすぎず、結局のところ気持ちが繋がっていなければ二人はこんなに夢中になっていない。
風呂場で押し倒され、半ば強引に挿入されて幸福感で満たされる。
飽きることなく角度を変えては繰り返し唇を重ねる。
好きな男にオナホ扱いをされ、貪るようにキスをされるということがこんなにもたまらないとは思わなかった。
口づけの合間の呼吸すらもどかしい。
かと思えば僅かに目を開けてぼやけそうなほどの至近距離でおっさんを見つめる。
いつもぴっちりと分けられた七三の前髪が濡れてボサボサしていると、普段よりずっと若くて野性味あふれる風貌になる。
おっさんもおれをうっとりと見つめて視線を離そうとしなかった。
言葉はない。
ただ、そのまま引き寄せられるように唇が触れて舌を絡めた。

「へぁっ……んちゅっ、お嫁さんにしてぇ…んっんんぅ…」

結局最後はキスで堕とされたような形で了承してしまった。
彼氏どころか未来の旦那様が出来てしまった。
ただ単に「付き合ってください」って言葉を引き出したかっただけなのに、結婚を前提になんてずいぶん重い前置きの加わった告白が来てしまったものだ。
だが、それくらいおれと共にいようとしてくれるおっさんの想いや覚悟に心の奥底が熱くなる。
のちにこの告白が人生初の告白だと聞いた時には思わず吹き出して笑ってしまったが、それくらい一途なのだと思えば悪い気はしない。
(っていうかおれって罪なやつ)
おれは自分の有り余る魅力に打ち震えたが、結局彼に絆された時点でおっさんと変わらないことに気付いて苦笑した。

「ん、もう……これじゃどっちにしろ恋人すっとばしてママになっちゃうかも……」

結局おれは風呂場でもねっちりと中出しされてしまった。
ずるりとアナルから抜けたおっさんのちんこが精液の糸を引いて伸びる。
M字に股を開けば粘っこい精液が垂れてくる。
おれはおっさんに見せつけるよう中出しされて溢れる白濁液を見せつけながら口を開き舌を突き出した。
すぐに察したおっさんはおれの口元に自身の性器を近づける。
おれはアイスキャンディ―を舐めるようにおっさんの陰茎を綺麗にしてやった。
デカすぎて咥えきれない分、丁寧に心を込めてお掃除フェラをしてやると、見る見るうちに硬さを取り戻す。
元々性欲は人一倍強そうだったが、あれだけソデにされてきた好きな子が自分にデレデレなのだ。
これだけで射精してもまるで十代だろと言わんばかりの凶悪な角度で勃起する。
故に体をシャワーで洗い流している間も、バスタオルで拭いている間もおれの体に性器を擦り付けて煽ってきた。
まるで盛る犬の如き執拗さだったが、そんなところも愛おしくて、互いにペッティングしながら浴室から出た。
もはやこの欲望を遮るものは存在しない。

 

 

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