3

「はぁ……」

一方部屋の外に出た途端に始まったポルノショーに章介はため息を吐いた。
彼が風呂に入ると言ったのは先ほどのまでの痴態によって勃起したペニスを抜く為であった。
しかし自分が部屋を出た途端に直樹の様子が変わるとそのままの体勢で自慰を始めてしまったのだから困る。
だから章介はいつものように僅かな隙間から覗くと自分のペニスに手をかけた。
彼の指には触れたばかりの腸内の感触が染み付くように残っている。
弄りすぎたせいか若干ふやけた指の腹はどこかいやらしく生々しかった。
部屋の中ではとっくに兄の存在を忘れた直樹が穴一杯に指を頬張っている。
フィストファックなんてマニア向けの行為だが直樹ならそれすらやってしまいそうな気がした。

「ん、んぅっお兄っ…さ、お兄しゃんっ…」

舌足らずな甘い声で自分の名前を呼んでいる。
それだけで章介は息を呑んだ。
一体彼の妄想の中で自分はどんな風に弟を犯しているのだろうか。
それを考えると背中がゾクリと震えてしまう。
今自分が扱いているペニスを直樹の穴に挿れたらどんなに気持ちいいのだろう。
章介は直樹の喘ぎ声を聞きながら自分のペニスを見た。
天に向かってそそり立つ性器は直樹の包茎とは違いずる剥けでグロテスクな形をしている。
こんなものをあの小さな体に挿入してしまったら壊れてしまうのではないかと危惧するのは当たり前の事だ。
だがオナホールで扱くように力の限りめちゃくちゃにしてしまいたいと思ってしまうのも事実である。
(直樹はどんな風にされたいのだろう?)
恋人みたいにイチャイチャしたいのか、鬼畜なまでに陵辱の限りを尽されたいのか、ねっとりといやらしく執拗に苛められたいのか。
そして章介自身自分はどういう風に思っているのか考えた。
ただ義理の兄弟という背徳感に魅了されているのか、それともウブな少年を手篭めにする事に満足しているのか。
入り乱れる感情には境界線など無く、結局は何もかもが欲しい等と馬鹿げた独占欲しか残らなかった。

「おにっさ…あぁっ――!」

するとドア一枚隔てた向こうで果てたような声が聞こえた。
それに合わせて章介自身も射精する。
あいにくティッシュを持ち合わせて居なかった為片方の手で精液を受け止めた。
ヌメッとした生暖かい感触が手のひらに広がりどっと疲れが押し寄せる。
だから最後にもうひとため息を吐くと部屋の中でぐったりと射精の余韻に浸っている弟に気付かれないように静かに階段を降りた。
それ以来、直樹は章介のベッドで漫画を読まなくなった。
その代わり彼は便秘だといってまた薬を塗って欲しいとねだってきた。
だから章介は何も知らない振りをして前回同様にイク寸前で止めた。
そうすると直樹は兄が出て行った部屋で自慰に耽る。
そしてそれを覗き見るのはもちろん章介の役目であった。
つまりは漫画から実物の兄へと代わっただけなのである。
無邪気な淫乱は時折章介の心を揺さぶった。
この行為はいつまで続くのか。
家族の中に響いた不協和音が家全体を密かに呑み込もうとしている。
待っているのは破滅なのか幸福なのか二人とも検討がつかなかった。
幸せになろうと描いた家族の形が歪に変化を始めている。
始まりは年明けの寒さの中に居たのに気付けば春過ぎてもう初夏になっていた。
次第に大胆になっていく弟はまだ子供のクセに妙な色気を放っていた。
それは兄を見つめる眼差しが普通と違うからそう見えただけなのかもしれない。
しかし章介はそれに気付かず直樹の心配ばかりしていた。
あんな愛らしい子なら他の男に奪われてもおかしくない。
頑なにそう信じていた章介は異常なほど弟に入れ込んでいた。
今まではしなかった塾のお迎えや二人での買い物を積極的にやり始めたのだ。
そんな兄の変化に余計想いを募らせた弟は尚の事愛しそうに彼を見つめる。
つまりはそういった悪循環の元おかしな関係が築かれていたに過ぎない。
端か見ればきっと弟を可愛がる兄と兄思いの弟でしかなかったであろう。
だから二人の両親もその異変に気付く事はなかったのだ。
巧妙な兄弟という契りが隠れ蓑のように二人を俗社会から遠ざける。
その感情がどういうものなのかは定かではない。
だがもういつ二人がまぐわうようになってもおかしくはなかった。

――それはある金曜日の朝食での事だ。
父親は朝が早いためとっくに家を出ていた。
章介はそろそろ大学も夏休みということもありあくびをしながらご飯を食べている。
その隣には直樹が、そして向かいには母親がご飯を食べていた。
いつの間にか当たり前になっていた食卓は不思議と居心地良く、皆がもうずっと長い事そうしてきたような気さえしていた。
母親は母子家庭の頃に働いていた土日のパートを辞めたが平日の仕事は昔と変わりなく続けていた。
どうやら仕事が軌道に乗り重要な案件を任せられるようになったらしく生き生きと働いている。
その割に家事を疎かにする事もないのだから母親は凄いと思う。
否、きっとその強さは彼女が直樹を一人で育てると決めた時からあったものであろう。
二人で生活していた時は更に休みの土日もスーパーでレジのパートをしていたのだから尊敬する。
また彼女は上手く親父を立ててくれる為夫婦仲も良かった。
良妻賢母とはこの事で連れ子の章介にも直樹と同じような愛情を注いでくれる。
彼はもう大学生でもあったし男だった為母親に甘えたいとは思わなかったが親父から紹介された時好感を持ったのも事実であった。
何より不精な男二人でこのまま人生を送らなくて済むという安堵感を抱いたのを忘れない。
親父は根っからの仕事人間でそれ以外は何も出来ない男であった。
そのせいで前の母親(生みの親)は愛想を尽かせて出て行ったわけであるが、そんな男の老後を思うと心配であった。
しかしいつまでも章介が側に居るわけにはいかない。
そんな時知り合いを通じて出会った二人が結ばれたのだから嬉しいというよりホッとした方が大きかった。
何より今の母親は親父の仕事にも理解を示しているので助かる。
――無論、人の気持ちなど揺たい続けるのだからこれから先も二人が寄り添っていてくれるのかは定かではない。

「それでね、今日はちょっと遅くなりそうなのよ――って、章介君ちゃんと聞いている?」
「え?」

すると唐突に我に返った章介は何を言われたのか聞いていなかった為、素っ頓狂な声を上げた。
彼女の方に目線を向けると苦笑している。
そして何も言わずにちょんちょんと自分の方に指を差してきた。

「あ――」

どうやら箸を持ったまま考え事をしていたせいかウインナーが皿から落ちている。
母親は自分の話を聞いてなかった章介を怒る事無く今までの会話の流れを説明した。
どうやら金曜日という事もありプロジェクトの成功祝いを兼ねて飲みに行くというのだ。
いつもなら子供達のことを考え早々に引き上げて帰ってくるのだが、今回は主要ポストにいた為それも無理そうだという話であった。
だから夕飯は冷蔵庫に入っていると教えてくれた。
(つまり今夜は二人っきり)
親父も毎週金曜日は飲み会で帰りは午前様であった。
となると今日は夜遅くまで二人っきりで過ごす事になる。
チラッと直樹を見れば彼はずっと章介を見ていた。
その瞳は母親の前であるにも関わらず熱っぽく物欲しげに見つめている。
二人は目が合った瞬間に顔を赤く染めた。
どうやら二人っきりだという事を意識しているのは同じであった。

「どうしたの?」

これにはさすがに不審に思ったのか向かいに座る母親が怪訝そうに二人を見ている。
だから章介は慌てた様に彼女の方に向き直した。

「あっ――きょ、今日俺も夜に用事があるからっ」

まさかこの雰囲気を知られるわけにはいかない。
だからせめて彼女の気を紛らわせなくてはならなかった。
というより彼女の目を欺かせる必要があった。

「俺もデートだから遅くなる」
「あら、まぁ」

本当はそんな予定など入ってなかったが口から出任せの嘘を吐いてしまった。
すると目の前の母親は嬉しそうに笑って喜んでいる。
しきりにどんな子?とか今度家に連れてきたら?と言ってきた。
その顔はさながらワイドショーに釘付けな主婦のようで苦笑いを隠せない。
さすがにデートというのはまずかったかと思いつつ彼女を宥めるように会話を流していた。

「……ごちそうさま」

すると隣でひと際落ち込んだような低い声が発せられる。
弟の方を見ると彼はもう席を立っていた。
振り返るとこちらに背を向けてランドセルを背負っている姿が見える。

「もういいの?」
「うん」

テーブルには直樹の食べ残したご飯やおかずがあった。
心配そうに立ち上がった彼女は直樹の元に向かう。
だが彼はそそくさとリビングから立ち去ってしまった。
ひとり残された章介は目の前の味噌汁を啜りながらプッと吹き出してしまう。
(まさかヤキモチとか?)
まだ幼い彼が嫉妬して不貞腐れていると思うとなぜかおかしかった。
きっと章介がデートをする事に反応したに違いない。
しかも二人っきりで過ごせると喜んでいた所にそんな情報が送り込まれたのだからショックも大きいであろう。
だが好意を持つ人に焼きもちを妬かれるのは悪い気分じゃない。
何より最近は直樹からのおねだりが多くどちらかといえば押されていた。
本当は彼を懐柔したかったのだが振り回されているのは面白くない。
むしろ自分の“体”だけが目当てなのかと思い耽る事も多かった為、直樹に与えたダメージが尚の事嬉しかった。
そうして自分への愛情を計るのは幼稚だがたまには許されたっていいだろう。
何せこちらはもう何ヶ月も彼の虜にされていながら手出しもせずお預け状態のまま耐えていたのだから。

――その日大学が終わると今朝のお詫びに直樹の好きなケーキを買って帰る事にした。
だいぶ日が伸びたせいか家に帰る頃になっても未だに明るい。
章介達は駅から歩いて少しの比較的交通の便が良い所に住んでいた。
そこは彼が物心付く前から住んでいた家である。
母親と直樹はアパート住まいだった為、再婚と同時にこの家に引っ越してきた。
幸い母親の勤め先から通えない距離ではなかった。
ただ直樹はどうしても学校を転校しなければならないのが可哀想であった。
ただでさえ人見知りが激しいのに転入せざるを得ないのは辛い。
しかし最近の様子を見る限りとりあえず学校の友達は出来たみたいだし上手くやっているようだ。
また前の母親が生活していた場所で気まずくはないのだろうかと思ったりもしたが両親二人ともそういった所はあっけらかんとしているのか全く気にした様子がなかった。
むしろ彼女は広い家に住める事をしきりに感謝していた。

ガチャ――。

章介はなるべく音を立てないようにゆっくりと玄関のドアを開けた。
そこにはいつも通り直樹の靴だけが置いてある。
もう夕方という事もあり例え放課後に友達と遊んだとしても帰っている時間だと思った。
章介はドアを閉める時も気を遣いゆっくりと手を引く。
この時間に帰ってこないことを想定している直樹はどうしているのか気になった。
もしかしたら今朝の話を気にして落ち込んでいるのかもしれない。
またはいつもの様に兄を想いひとり寂しく自分を慰めているのかもしれない。
これから何時間もの間、誰にも邪魔をされないこの家はひとつの密室と化していた。
つまりこの家でこれから先何が起こっても周囲に気付かれる事はない。
その興奮に息を呑みながら静かに靴を脱いでリビングに向かった。
だがそこは電気も付いておらず寒々としている。
お風呂やトイレも同じように人気を感じなかった。
だから章介は僅かに歪んだ口元を隠しもせず階段を上る。

「……っ…ぅ…」

すると早速階段の途中で直樹の声が聞こえてきた。
どうやら章介の予感が的中したようでくぐもった声が廊下まで漏れている。
場所はやはり兄の部屋からであった。
ここまでくると章介にとっても覗きはお手の物で千鳥足のまま部屋の前までくると僅かにドアを開けて隙間を作った。

「ふぅ、ふぅ…っ、にいさ……」

部屋の中は異様な匂いが充満していた。
真ん中のベッドでは直樹がいつもの様にアナルを弄り指を突っ込んでいる。
よくよく覗き込んでみると彼は章介のスウェットを抱き締めていた。
兄の匂いを確かめるように嗅いでは指を激しく動かせている。
そうして兄の残像を追いかけていたのだ。
側には押入れから取り出した漫画とティッシュが散乱している。
こんなに部屋が精液臭くなるほど長い間自慰に耽っていたのだ。
ティッシュの山がそれを物語るように積まれている。
涎を垂らし恍惚としながら章介のスウェットに顔を埋めていた。
どうりでくぐもった声が聞こえたわけだ。

「くぅっ…ん、にいさっ…ど…してっ、どうしてっぼくには…おしりしてくれないのっ…」
「………」
「ひぁあ、からだ…あついのにっ…ず、っと待ってる…のにっ」

直樹は泣きながらそのスウェットにペニスを押し付けていた。
そうして擦りながら自らアナルを犯している。
下半身丸出しな彼の姿が章介の場所からは一望出来た。
むしろ離れた場所にいたからこそ、一部始終を見ていられた。
指の激しさや快楽に痙攣する足、腰の捻り具合まで全てが見える。
まるで違う生き物のように蠢く姿は妖しくも神聖な舞のようだった。

「にいさ…あぁっ――…」

するとひと際ベッドの軋みが激しくなった。
と、思えば直樹の体が引きつけを起こし小刻みに震えている。
章介のスウェットにしがみ付くような格好で抱きついたまま彼の体は固まってしまった。
それまでの激しさが嘘のように静寂が室内を包み込む。
突然やってた無音の世界にはか細い泣き声が聞こえた気がした。
それを見て瞬時に射精した事を悟る。
また章介は同時に脳内の糸が切れる音を聞いた。
それが理性の崩壊だったのか悪魔の囁きであったのかは判らない。
ただもうこのまま弟を犯すことしか考えていなかった。

ガチャ―

「!!」

章介は躊躇いも無くドアを開けていた。
持っていたケーキの箱が斜めになっていた事にも気付かなかった。
すると突然の訪問者にイってぐったりしていた直樹は目を見開いた。
その格好からはどんな言い逃れも出来ない。
彼の目は絶望でいっぱいになった。
何せ先ほどまでおかずにしていた男が仁王立ちでそこにいたのだから驚かない筈がない。

「そんなに犯されたかったのか」

章介の顔は無表情で感情を読み取る事が出来なかった。
おかげで直樹の心に恐怖が芽生え始める。
その顔を兄の失望だと受け取ってしまった彼は涙が溢れて止まらなくなった。
必死にふしだらな体を隠そうとするがそれ自体が章介の服だと気付いて困惑する。
ここまで追い詰められた直樹にはどんな言葉も残っていなかった。
恋焦がれた兄に侮蔑的な目で見られている。
体の熱が冷め切らない間にそんな視線を感じて死にそうになる。

「れっきとした兄弟なのに」
「……っぅ……」
「ずいぶん、変態なんだな」

変態という部分を強調すると直樹は小さく丸まるように身を縮めた。
章介は手前に置かれた机の上に買って来たケーキの箱を置くとベッドの前までいく。
そして少し乱暴ながら直樹の持っていたスウェットを取り上げた。
目が合った彼の瞳に溢れる涙は章介の被虐心を益々煽る。
まるでもっと苛めてと言っているような悲壮感漂う瞳にはどこか色気が含まれていた。
だから彼はそこで初めて直樹に笑いかけてやる。
だが直樹はその笑みを失笑と受け取ったのか更に顔を歪めて許しを乞うように兄を見上げた。
それに気を良くした章介はスウェットの染みになっている部分を顔に近づけると匂いを嗅ぐような仕草を見せる。

「や、や…だめっです…兄さん」
「どうして?」
「だって…そっそれはっ…っぅ…」

服に出したばかりの粘っこい白濁液は青臭い匂いでいっぱいだった。
その行為を見せ付ければ直樹は顔を真っ赤にしながらペニスを勃起させている。
止めるように言っておきながら彼は真剣に嫌がってはいなかった。
むしろ自分の放った精液の匂いを嗅ぐ兄に性的な興奮を覚えていたのだ。
だから直樹はさりげなく自分の下半身を手で隠し目を泳がせながらも章介を見上げている。
その姿はあまりに初々しく先ほどのような淫猥さは感じなかった。
服に付着した精液を舐めても彼は言葉だけの拒否を続ける。
どうせ心の底から拒絶できないくせに表面だけを取り繕うような弟の台詞がおかしかった。
その度にねっとりと舐め上げるさまを見せ付ける章介もいい性格をしてたがこれじゃ直樹も同類である。

「こんなに出してどうするつもりだ?俺にまたこのスウェットを穿けと言うのか?」
「や、言わないでっ…下さい」
「いやらしい匂いを兄に嗅がせて喜んでるなんて最低な弟だ」
「ちがっ…ふぇっ…」

つたない涙が零れ落ちる。
だが章介は彼の涙に心を痛ませながらも態度を変える事はなかった。
むしろ何も見なかった振りをしながら持っていたスウェットを投げ捨てる。

「違う?本当はもっと色々な事をして欲しかったんじゃないのか?」
「ひっぅ、ちが…っ…うぅ」
「じゃあ何で俺の部屋でこんな事しているんだよ」
「それはっ…ぅっぅ、ひっく…ふぇっ」

だがそれでも直樹は口を割らなかった。
ただ部屋に木霊するのは小さな泣き声だけである。
そのか弱い存在に居た堪れなくなった章介は思わず背を向けた。

「なら、もういい」
「あ――……」

彼は後ろで泣いている弟にそれだけ言って部屋から出て行こうとした。
まさかそれすら計算の内に入っているとは思わず後ろで震える直樹は章介の姿を見つめ続けている。
(兄さん――兄さんっ……)
その間に章介はドアを開けて出て行った。
直樹の耳には階段を降りる兄の足音だけが耳に響いている。
がらんとした室内にひとり取り残された彼は寂しさに身を捩られそうになっていた。
蔑まれる事は辛い。
そんな目で見られたら消えてしまいたい。
なのに体は熱く火照ったままどうしようもなく震わせている。
(もっと強引に犯されても…僕っ)
それでも構わないと思っていた。
しかし口先だけの否定はせざるを得なかった。
「違う」と言っても無理やりに襲われて――、等と漫画のストーリーの様な話が出来上がっていた。
だが実際にはその否定そのものを受け入れられてしまい兄は出て行った。
その虚しさに余計涙が溢れて止まらなくなる。

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