「普通ブラとセットだろ」

そんな自分を隠すように片眉を引き上げると、強気で笑い飛ばしてやった。
おっさんの手の上に自らの手を重ねる。
女性のショーツ特有のサラサラした触り心地を楽しむように尻へと誘導した。
後ろは紐のように細いティーバックとなっている。
それに気付いたおっさんは目を見開くと興奮に鼻の穴を大きくさせた。

「ついでにもうハメる準備はしてきちゃった」
「え…っ…?」
「今日の客は超エロいの。部屋に入った途端ズブッとね…されちゃうから……」

本当はおれが過剰に触られたくないから用意していくのだ。
そうすればセックスの時間は短くなる。
サクッとハメてあとはバイバイ。
人を買う男なんざ、己の欲望に忠実で自分さえ気持ちよければそれでいいんだ。
むしろそれが良いんだ。
たまに責めるの大好きなエロオヤジにあたった時の面倒くささは地獄のようだ。
おれのことを気持ちよくする気もない客にも腹立つが、愛撫が鬱陶しい客よりはまだましである。
さっさと出すもん出して満足してもらう客が一番楽なお客さんだった。

「いやだ……」
「はぁ、だからなに?」

子どもでもあるまいしおっさんは駄々をこね始めた。

「お客さんのところなんか、行かないで」
「アンタに関係ない」
「お願いだから俺だけの一平君でいて」
「はぁ?なにおれに指図っ………」

文句を言おうとした瞬間、尻の穴に熱いモノがあてがわれた。
あまりの質量に声が途切れる。

「え…っ…うそ…だろっ」

おっさんは切なげに顔を歪ませていた。
そしてぐっと腰に力をいれる。

「さ、先っぽだけでいいから、挿入れさせて…」
「あっ…ぐっ…」
「お願い。おじさんを受け入れて……」

耳元で聞こえる懇願する声は切羽詰まっていて、おれの胸まで痛くなるくらい必死だった。
(どっからこんな声だしてんだよ)
腰どころか胸の奥まで響いてきゅんとする。
こんなところじゃ絶対にダメなのに。
ましてこれからおれはウリをしに行くわけで、金のない男になんか触らせたくないのに。

「ぐ…っ……」

身動きのとれない電車の中で勝手に性器が入ってきた。
カリ高でえぐるように尻の穴に押し入る。
十分に準備をし、慣らしたはずなのに、受け入れたことのないレベルの大きさに尻のシワは伸びきった。
(入り口でこの圧迫感かよ)
先っぽだけで腰が抜けそうだ。

「ふぁ…一平君のナカ…キツキツでアツくて…」
「はぁ……はぁ……ここまでだぞ」

先っぽのみの挿入で牽制するが、額に汗が滲む。
やばい。
本当はおれのほうがやばい。
こんな苦しいの知らない。
先っぽだけで尻の違和感か止まらなかった。
ここまでだと言っておきながら体は辛くて、思わず腰を引こうとする。
その時だ。
ギギギ――という機械音と共にカーブに差し掛かった電車が揺れた。
特急のスピードが遠心力を強め、おれはなすがまま前のめりに倒れるとドアにへばりついた。
同時に後ろの乗客たちもバランスを崩し、前のめりになる。

「ぐぅっ――!」

おれは咄嗟に手で口を塞いだ。
口許にすべての力を込めると悲鳴を噛み殺す。
それでも声がもれたが、周囲の人は押し潰された苦しさから呻き声が出たのかと不審がらなかった。

「あ…あ……」

だが下半身は大惨事だ。
おれは少しだけおしっこを漏らしていた。
一瞬頭が真っ白になるくらいの衝撃があって、全身に力が入らなくなってしまったのだ。
だって乗客の圧がおっさんに加わり、その彼もおれへ倒れ込むと、先っぽしか入れてなかったちんこが根元まで挿入ってしまった。
(こ…な……奥っ………)
絶対に挿入らない奥の奥まで犯されてしまった。
内蔵まで持ち上げられたみたいだった。
長いカーブのまま互いの体がぴったりとくっつく。
逃れようにもドアとおっさんの体に挟まれて身動きとれない。
ピストンもされず奥まで挿入されたまま耐えなければならない。
(…ふゃ…あ)
またちょっとおしっこが出ちゃった。
それを堪えようとすると、お腹に力が入ってちんこを締め付けてしまう。
すると背後のおっさんは気持ち良さそうに掠れた声を出した。
彼も耐えているようだ。
いや、この状況に乗じて耳にキスをしてくる。
少しでもおれが横を向けば唇を奪われてしまうかもしれない。
(今チュウしたら絶対に気持ちイイ)
おれは心の奥底でそう思いながら流されてたまるかと小指を噛んだ。
カーブが終わり背中にかかる重みがなくなる。

「ん、ほら…もう抜けよ…」

おれは気力を振り絞るように後ろのおっさんに声をかけたが返事はなかった。
代わりにゆっくりと彼のちんこが抜かれていく。
(抜く時もやばい……)
空洞を埋めるかのように直腸は締まった。
その感触に身震いする
だが竿の半分が抜けたところでまたズンっと突き上げられた。

「…っぅ……!」

今度はカーブによる不可抗力じゃない。
意図的におっさんがやったことだった。

「――ふざけっ…」

すると後ろから抱く手が強くなる。

「う、嬉しいよ。おじさんの性器を奥まで受け入れてくれたんだね」
「だって電車がっ、カーブで…!」
「今だって抜こうとすると行かないでって言うみたいに締め付けてくれるじゃないか」
「…ぁっ……ふぐっ!」

また奥を突かれた。
今まで誰にも触られなかったS字の奥を亀頭で擦られると反論出来なくなる。
だってこんな感覚知らない。
ここまで届くちんこを相手にしたことがない。
未知なる感覚に思考が削られていくようだ。

「ふ…ぅ…っ…ぅっ…」

突かれるたびに脳を揺さぶるような刺激に襲われる。
快感?
快楽?
いいや、そんな生易しいものじゃない。
普通のセックスの気持ち良さとは別のーー肌がぞわぞわする感じ。
……なんて、明確に言語化できず頭の悪そうな表現しか出来ない。
だがこんな感覚は本当に初めてだ。
ゆえに慣れてない体はその感覚が気持ちいいとは理解してきれていないが、もし執拗にソコを擦られて快楽を叩き込まれたらもう元に戻れないんじゃないか。
そこまで思い至って急に不安になる。
やばい。
まずい。
それくらいの衝撃が体を貫くのだ。
おれは狂うくらいの気持ち良さを味わうためにたくさんのセックスをしているわけではない。
それじゃただのセックス依存症だ。
おれの目的は金なんだ。
だから理性の範囲で楽しむだけでいいんだ。
それを越えてぐちゃぐちゃのドロドロになる快感なんて覚える必要はない。
そうすればおれが男どもに振り回されることはない。

「そこ…やぁ…っ…」

なのになんでコイツはさっきから弱いところばかり擦ってくるんだ。
次の駅に停まって人が乗り降りしてる時も、変な臭いがするって女子高生が呟いてる時もずっと電車の揺れに合わせて抽送している。
故に速度は遅く、まるでおれにちんこの形を覚えさせるみたいにねっとりとした腰つきだった。

「可愛い一平君。そんなにこの奥好き?」
「ちが…ぁ…やだ…っ……!」
「やだって言うのは良いってことだって本で読んだよ」
「んぅっ…どんな知識だっ…ばかぁ…」

電車の中で身体中まさぐられて犯されてる。
誰も止めてくれない。
でもきっと誰かに止められたら死にたくなる。
だって窓ガラスに映るおれの顔は完全に恍惚としてだらしなく口許から涎を垂らしているんだ。
こんなの自分で終わらせなきゃ。
デカイちんこなんて探せば他にもいるだろうし玩具だってある。
だからこの男に溺れてはならない、必要ない。

「一平君すき…すき。…お願い…客のところへなんか行かないで」

遊びだったんだ。
恥ずかしそうにモジモジする様子が面白かったから憂さ晴らしにからかってやっただけなんだ。
第一おかしいだろ。
子どものくせに散々ケツの穴でセックスして金もらって、客のリクエストでエロい下着なんか着ちゃってるやつのどこがいいんだよ。
顔だって普通だし、体も一般的な好みからはかけ離れている。
(そんなにこの体型がいいのか)
そう思ってから無意味に胸が痛くなってざわざわした。
そういうマニアックなヤツらのためにわざわざ太めにしてきたんだ。
なのに今さら体目的なことにショックを受けるなんてアホらしくて笑いたくなった。
いや、彼は違う。
外見だけじゃなく、その奥にあるものを見ようとしてくれた。
おれ自身を知りたいと思ってくれていた。
(なんて愚かな)
その時、電車のアナウンスが次に停まる駅の名を呼んだ。
おれの降りる駅だ。
頭上の駅案内を見る。
液晶画面に映し出されたのはやはり目的の駅だった。
咄嗟に躊躇う。
さっさと体を引き離して降りる準備をしなくちゃいけないのに、なぜ躊躇う。
なぜ、拒めない

「……次の駅でお客さんと待ち合わせしてるの?」

するとめざとくおれの反応を見ていたおっさんが呟いた。
冷ややかな声だった。
ぐっと突き上げてきたおっさんのちんこが奥で止まる。
彼が動かずとも揺れでS字にカリが擦れる。
(だか…らっ…ソコ……)
電車の動きは予測できないから、ふとした時に弱いところを刺激されて、悲鳴をあげそうになる。
(早く離れなきゃ…早くっ…はや…く…)
頭ではそう理解しているのに、体は言うことをきかない。
むしろさっさとイカせてくれたら良かった。
出すもん出して冷静になればこんな茶番は終わらせられるのだ。

「…ふぐ…っ…」

おれは躊躇いながら自らのペニスを扱き始めた。
電車の中で自慰をするなんて屈辱で頭がどうかなりそうだったが、早く射精をさせるにはこれしかなった。
おしっことカウパーでどろどろになったちんこは触れるだけでヤバい。
するとおれの尻に入っていたおっさんのちんこがピクピクと脈打った。

「エロすぎるよ一平君……」
「だ…まれっ……」
「おじさんにケツマン犯されて自分でちんこしごいてるなんてたまらないね」

無駄におっさんを喜ばせてしまったのか、うなじから首筋までキスをされてしまう。

「はぁっ…うるさ、いっ…これはお客さんのためっ…」
「うん。お客さんのために一平君は頑張っちゃえるんだね」
「あ…はぁ…っキスすんなぁ…」
「そういう真面目なところも大好きだよ」
「…くぅ、んっ…」

囁かれるだけで感じる体が憎らしい。

「でもやだよ。一平君はもう他の人に抱かれちゃだめなんだよ。女の子を抱くのもだめだよ。一平君のおちんちんもおっぱいもお尻も俺の物になっちゃったんだからね。俺しか挿入れちゃいけないんだよ」

ぎゅっと抱き締められると動けない。
これが大人の力なんだ。
今まで散々馬鹿にしてきた男の力なんだ。

「勝手に…ほざいてんじゃ…ねぇしっ……」

口を尖らせて不満をアピールしてみるものの全く説得力がなかった
所有物扱いは今までもされたことがあったが、不快にしかならず、ぶっとばしてやってた。
だが、今は口をモゴモゴさせるのが精一杯だった。
(なに、照れてんだよ)
自らツッコミをいれるが、戸惑いは消えない。
おれにからかわれ、好き勝手され、焦れるくらいなにもしてこなかった男が必死になって引き留めようとしている。
こんな状況を周りに知られたらすべてを失うことも判っているのに求めてくれている。

「一平く………!」

窓ガラスに映るおっさんは瞳を輝かせておれの反応を見ていた。
先程より濃紺に染まる景色がくっきりとおれの姿を象る。
馬鹿みたいに真っ直ぐな眼差しが鋭い棘のように突き刺さる。
(見るな、ばか!)
どんな痴態を見せても平気なくせに、照れている表情だけはどうしても見られたくなくて逃げるように手で隠した。
そばでおっさんの唾を飲み込む音が聞こえる。
興奮している。
欲情している。
おれの一挙一動をその目に焼き付けんばかりに見つめている。
(やばい……なんだこれ)
視線から逃れるために己の手で顔を隠したのに視線に追い詰められている。
誤魔化したいのに体は正直で、尻の穴を締め付けてしまう。
そろそろ降りる駅に着きそうなのに、頭のすみに追いやられてしまう。

「や………」

重なった体の熱さに目眩がした。
羞恥心と快楽ほど相性の良い感覚はないだろう。
互いに高め合い簡単に理性を砕いていく。

「一緒に…イこ…」

その時、吐息混じりにおっさんが囁いた。
同時に自らのペニスを握っていたおれの手の上におっさんは掌を重ね、力強く上下にしごく。
強烈な快感におれはなす術なく身悶えた。
一瞬でも力を抜けば出てしまう喘ぎ声を奥歯を噛み締めてやりすごす。
この日ばかりは大勢いる高校生たちに感謝した。
普段はぺちゃくちゃとうるさく気に障る存在でしかない彼らのお陰で多少の声は掻き消される。
それでも息の合間に漏れる声はいやらしくて自分でも信じられなかった。
(…ってか……一緒にって…)
おっさんもイクのだろうか。
それはどこに?
……いや、どこで?
短い疑問のあとに駆け巡る問いにおれは絶句した。
おっさんはおれに中出ししようとしている。
あれだけ嫌悪し、周囲に禁じていた腸内で精液を受け入れる行為をこんなに簡単に許してしまうというのか。
(いやだいやだいやだいやだ!)
おれは逃れようと身を捩るが、ドアとおっさんの体に挟まれて上手く身動きが取れない。
腰を引くと追いかけるようにおっさんも一歩前へ歩み寄った。

「くひ…っ……」

そのせいでちんこがドアに潰された。
もはや手でしごく隙間すらなくサンドイッチのように挟まれる。
未経験の壁オナニーをこんな形で経験するのかと泣きたくなったが、それ以上に冷たい扉の感触が気持ちいい。
人は快楽に弱い生き物だ。
中出しされたくないのに、ペニスに響く直接的な刺激に抵抗が弱くなる。
それどころか手持ちぶさたになった手はおっさんと指を絡め合い、恋人同士のような繋ぎ方になっている。

「くっ…」
「ひぁ……」

すると腸内にねじ込まれていたおじさんのちんこがビクビクと脈打った。
中出しする合図のようにも思えた。
今までだったら噛みついてまで拒絶するのに、今はなすがままいいように種付けされようとしている。
そのままおっさんは腰にグッと力をいれると、勢いよく射精した。

「うぅ…っく…」
「くぅ…んっ…」

口許から漏れるのは抑えきれなかった快楽の声で、喉の奥から絞り出す吐息と相まってめちゃくちゃエロい。
そして二度三度腰を揺すり少しでも奥へ植え付けるのが本能のように精子を流れ込ませる。

「…は…ひっ………」

おれはくらくらした。
指一本動かせられないほど強く抱き締められ、体を征服されてしまった。
さらに人の指が届かない排泄器官の奥深いところで他人の体液を受け入れている。
(これが…中出し………?)
お腹の中でドクドクと無遠慮に注がれている。
まるでオナホのように、トイレのように。
脳裏には先日口に出された大量の精液が甦る。
ネバネバどろどろの白濁汁は、喉に貼り付くような濃さで、女ならきっと簡単に孕ませられている。

「んぅ……!」

隙を見て身を捩るが、やはりびくともしない。
そうこうしている間に電車は駅のホームへ入った。
幸いこちら側のドアは開かないが、おれは中出しされている最中の顔を向かいのホームにいる見知らぬ人々に晒している。
おっさんのちんこで犯された上、中出しされたくせに緩んだ口許を見せてしまう。
(ああ良かった。ガラス部分が下にはなくて)
もしもっと下までガラスがあればトロトロに溶かされたちんこも丸見えだった。
もうイってるのかも分からない。
でも全身性感帯みたいになっていて肌が触れるだけで、ビリビリと鋭い刺激が脳を犯した。
お腹に溜まる精液の感覚に身震いする。
とうとう汚されてしまった。
とうとう堕ちるところまで落とされてしまった。
興奮と嫌悪は紙一重だ。
唾液を飲ませ合う行為は汚いと思う一方、酷く淫らな気分にさせてくれる。
それは相手次第。
嫌悪が強いものほど興奮具合も大きくなる。
おれはおっさんに中出しをされて悦んでしまった。
これ以上の答えはあるまい。
(……はぁ、そういえば今日まだチュウしてない…)
口が寂しくてたまらなくなる。
おれがキスしようと振り返ると、すべて出し終えたおっさんが熱っぽくおれを見ていた。
たっぷり中出しを味わった性器がずるんと抜ける。

「お客さんとこ……行かないよね?」

おっさんの心細い呟きが耳にはいる。
彼は悲しそうな表情で引き留めようとしている。
その後ろで電車のドアが開くと、また多くの人が出入りをする。
(この男はとことんおれを落としたいんだな)
どこまでも人のツボを熟知したやつだ。
先程までいいように弄んだとは思えないくらい気の弱い態度である。
いつだってそうだった。
ようやく強気になったかと思えばこれだ。
おれは電車のドアが閉じるのを横目で見ながらもう一度尻を突き出した。
(もう、戻れない)
そんな覚悟を噛み締めるように、指で自らの尻の穴を開かせる。
するとしばらくして逆流した精液が溢れた。
おっさんは血走らせるような瞳でそれを見つめると、おもむろに鞄からディルドを取り出す。

「用意良すぎだろ…」

思わず笑いながらもヒリヒリした興奮が甦る。
ディルドを挿しやすいよう足の幅を広げて腰を落とす。
くちゅり…。
微かな粘着音と共に少しずつおれの尻にディルドを挿入していく。
腸内の精液が漏れないように蓋をする。
空洞化していた腸内に再びモノが入ったが、おっさんのサイズより小さなディルドでは物足りなさが半端なかった。
これも彼の計算なのかと焦れったくなるくらいにもどかしくなる。
だがしかし、そんな計算が出来る男だったらこんなにハマらないだろう。

「……ね、早くめちゃくちゃにセックス出来るとこへ連れてって……?」

いつだって罠を張るのはおれの役目だ。
密やかでありながら挑戦的に囁くと、おっさんの性器はビクンビクンと返事をした。

 

 

次のページ