14

「……っぅ……」

何度見ても見映えする体だ。
さすが軍人なだけあって鍛えられている。
天窓から降り注ぐ陽光が彼の体を賞賛しているように照っていた。
厚い胸板、引き締まった腹筋、太い二の腕は僕の倍ありそうだ。
でも、それくらい鍛えていないと、あの剣を振り回すことは出来ない。
(きっと大佐は嬉しかったんだ)
家にお金がないことは十分知っている。
なのに父親がお金をかき集めて買ってくれた剣なのだ。
刃なんて手入れをしなければすぐに刃先がボロボロになる。
それは大佐があの剣を大事に使っている証なのだ。
彼の優しさはこの家族だからこそ作られたものなのだろう。

「凄い体ですね。格好良いです。大佐の新しい一面を見るたびに尊敬する気持ちが強くなるんです!」

僕は本人を前に熱弁を振るってしまった。
だって本当のことなんだ。
もう恥じない。
本人を前にして言うことに照れていたが、本当の想いはちゃんと伝えたい。
大好きな人だから。
すると大佐は頬を赤らめ、バツの悪そうな顔をした。

「だから…君は……」
「事実ですよ、事実!大佐が否定したって僕の気持ちは変わりませんからね」

僕は誇らしげに胸を張った。
大佐は困ったように笑うと、

「よく分からない」
「もったいないです」
「傷だらけで格好なんて良くないだろ」
「傷も勲章です」
「ああ言えばこう言うやつだな。傷がつくということは弱い証なのだぞ」
「末っ子は口が達者じゃないと兄たちには勝てないんです。…っていうか、弱い証じゃないです。強い証ですよ」

僕の隣に寝そべった大佐は、理解出来ないといった表情で僕を見ていた。
僕は胸元にある傷に触れる。
それから割れた腹筋の横にある切り傷。

「こんな痛そうな傷をつけて生きている大佐の心は強いです」
「ミシェル……?」
「こうしてアルドメリアが栄えているのは――そこで暮らす人たちが幸せに笑っていられるのは、きっと影で大佐のような人たちが守っているからなんです」
「………………」
「でも少し怖いです。大佐は心が強いから、誰よりも厳しい任務についてしまう。僕は大佐なら必ず遂行すると信じています。だ、だけど……」

僕はそれ以上の言葉を呑み込むと起き上がって背を向けた。
顎が震えている。
唇を噛み締めないと涙が出てしまう。
ドリスさんの不安が手に取るように分かった。
彼女は大切な息子を送り出す時、どんな気持ちなのだろうか。
心のどこかでもしかしたらこれが最後になるかもと覚悟しているのではなかろうか。
僕が考えているほど彼の生きている場所は甘くない。
想像を絶するほど過酷な世界で生きているのだ。

「ご、ごめんなさい。今の話は忘れて下さい。僕は大佐のお荷物になりたいわけじゃないんです」

大佐が選んだ道を引き留めるようなことはしたくない。
僕も己の道を歩み始めたからだ。
演奏家となって世界中の劇場を回る。
何のコネも持たず、無名なヴァイオリニストが世界で勝負するのは無謀としか言いようがない。
それでも大佐のように這い上がりたかった。
僕もヴァイオリンひとつで道を極めたい。
どこまでいけるか、何が出来るのか試したい。
だから僕と大佐はどんなに想い合っても一緒にはいられないのだ。

「ミシェル」

すると背後で大佐も起き上がった気配がした。
それにビクリとさせると、大佐は僕の背中に優しく口付ける。

「た、大佐……っ」
「君はいつ見ても美しい」
「……んっ……」

そういって背中にもキスの雨を降らせる。
僕はくすぐったさに身じろいだ。
それでも漏れる嬌声に恥じらいを秘める。

「その色素の薄い髪も、透き通るような肌も、全部、俺にはないものだ」

後ろからがばっと抱きしめられた。
背中に伝わる大佐の鼓動に胸が痺れる。
愛しさがこみあげて溢れそうだ。
この想いをそのまま伝えたいのに、いくら言葉を重ねても伝えきれそうにない。
すると、大佐は僕の肩を掴んで己のほうへ向かせた。
向かい合った僕らは互いに見つめ合う。
その中で胸元のペンダントだけが光に反射してキラキラしていた。
大佐はそれに口付けると、

「このペンダントに誓う」

引き締まった表情で僕を見つめる。

「俺はミシェルを守る。俺のすべてを賭けて、君を傷付ける者、その顔を曇らせる者から守ってみせる」
「大佐……」
「今までずっと国のために戦ってきた。一日も休むことなく鍛錬を重ねて、国に貢献出来る男になりたかった」
「……………」
「だけど心はどこか空しかった。殺戮を繰り返すことに無常を感じていた。君に出会わなければ、きっと、いつまでもそんな気持ちを抱えながら英雄のフリをしていた」
「…………」
「だからミシェルに出会えて良かった。今ここで約束する。カメリアでの戦いを終えたあと、君のもとへ帰ってくる。必ず」

そういう大佐の真剣な眼差しが僕を射止めていた。
大佐は嘘を言わない。
どんな難しい任務も必ず遂行する伝説を持っている男だ。
彼はきっと死にものぐるいでその約束を守るだろう。

「……だから、待っていてくれないか?」

大佐は表情を僅かに崩すと、甘えるような仕草で僕の肩口に顎を置いた。
そっと抱き寄せる手は大きくて温かい。
僕は何度も頷いた。

「待ってます。僕はずっとクラリオン大佐の帰りを待ち続けます」

大佐の背中に手を回す。
同じ気持ちであると分かって欲しかった。
体温を共有する。
鼓動がシンクロする。
あとは言葉になんかならなかった。
押し倒されて淫行に耽る。
僕は大佐の手で乱れていく。

「ひぁ……あっ、……はぁ……!」

ベッドだと軋む音がうるさすぎて下に聞こえてしまうと、壁に立たされた。
僕は手をつき、大佐へ向かってお尻を突き出す。
娼婦が男を誘うような仕草に顔から火が出そうだ。
こんな恥ずかしい格好したことがない。
それをよりによってこの世で一番尊敬している人に見せるなんて、勇気のいることだった。

「はっ、く…いい子だ、ミシェル」

だけど大人しく従うと大佐が褒めてくれるんだ。
お尻いっぱいに彼の性器を受け入れると、色々なところにキスをしてくれて、何度も「好きだよ」と囁かれる。
大佐に褒められると嬉しい。
少しでも彼を気持ち良くさせてあげられたらと思うとどんなことでも出来る。

「ふぁ、ぼく……ひぅ、僕をもっと可愛がってくださいっ…」
「あ、あぁっ、ミシェ……」
「大佐が気持ち良くなれるように…頑張りますっ、だから…あぁ、んっ」

僕は大佐の性器で貫かれて悲鳴にも似た声をあげた。
押し広げられていく感触に身悶える。
熱い棒がお腹の中をぐちゃぐちゃにしているみたいだ。
大佐は後ろから僕を抱きしめた。
荒い吐息が耳たぶにあたる。

「君はいつだって健気だ。…純粋で、愛らしくて…いつまでも傍に置いておきたくなる」

その耳を甘噛みされた。
同時に下っ腹をいやらしく撫でられて射精してしまう。
僕はもう何度もイかされていた。
大佐を気持ち良くさせるために頑張ろうとするのに、結局気持ち良くされてしまう。

「くぅ、ん、また…僕だけ…っ、きもちよくなっちゃぁ…あっ」

足腰に力が入らなかった。
壁にしがみついていないと立っていられそうにない。
僕の精液が足元を汚した。
鈴口から垂れる白濁液が糸を引いてひどくいやらしい気分になる。

「君だけじゃない」

大佐はいまだに下っ腹を撫でていた。
分厚い手でゆるゆると撫でてくれる。
ちょうど彼の逞しい性器が挿入されているところで、触られるたびに中がじんじん痺れた。

「ミシェルがイクたびにナカが熱く搾り取られそうになる」
「ひ…あ……」
「こんな柔らかくほぐれてトロトロなのに、吸い付いて離れないのだ」

大佐が僕のお尻の穴を指で広げた。
ただでさえ彼の性器を受け入れてぎゅうぎゅうなのに、結合部分を見られているかと思うと益々興奮する。
背筋がぞくぞくした。
見下ろせば節操のない僕の陰茎が元気を取り戻している。
アバンタイに来てからめまぐるしい毎日で抜くことも忘れていた。
射精する悦びを思い出すと、ハマってしまいそうで怖い。

「気持ち良くていつまでもミシェルと繋がっていたい」
「僕だって、んぅ、大佐のおちんちん忘れられません……っ」

一度知った快楽の味を忘れるなんて不可能だ。
僕の体に刻み込んでしまった大佐の体は一生忘れないだろう。
(…これじゃ、もうひとりでなんて寝れないよ)
別れは間近に迫っているのに、体は欲して止まらなかった。
大佐の声、吐息、熱、感触。
五感を使って何もかも覚えようとする。
刹那のように愛し合う。

「んっ――!」
「ふぅぅぅ――!」

腸内にも大佐の精が注がれた。
脈打つ性器に恋しさを募らせながら、ずるずるともたれるようにその場に座り込む。
だけど大佐はまだ僕の体を離さなかった。
今度は四つん這いにさせられて、勢いよく突き上げられる。
背中に感じる彼の重みと、迸るような快感に気が狂ってしまいそうだった。
僕は床に落ちていた服を必死な思いでたぐり寄せると、口に咥えて声を我慢する。

「ん、っ、んんぅ、ふ……!」

くぐもった声が狭い室内に木霊した。

「その声が余計にそそるのが分からないのか?」
「んんっ、んっ、ぅう」
「まったく。ミシェルには驚かされてばかりだ。君のような可憐な人が今までひとりだったなんて信じられない」
「ん、んくっ…ぷはっ…ほ、本当です…っ……僕……!」
「分かっている。冗談だ。それにミシェルはもう俺のものだ。誰にも渡さない」

すると大佐は僕の足首を掴んでそのまま体を反転させるた。
散々いやらしいことをしたのに、改めて向き合うと照れくさくて直視出来ない。
だけど大佐が覆い被さってきた。
息の触れる距離で見つめられる。
その深い瞳に吸い込まれる。

「なぜこちらを見ない?」

大佐は僕に問いかけながら最奥を突いた。
出した精液で蕩けきった腸壁から卑猥な水音が漏れる。
後ろからとは場所が違って僕の体は仰け反った。
晒された細い首に大佐が吸い付いて痕を残そうとする。

「答えなければ君の首筋はキスマークだらけになるぞ」
「ひぅ、たいさ…っ」
「俺に抱かれたと触れ回りたいなら構わないが」

首が焼けそうなくらい熱かった。
唇の感触に恍惚となる。

「だ…って…」

僕は愛撫されまくった喉を震わせながら声を絞り出した。
蚊の鳴くような声だが、大佐は上から覗き込むように見つめている。
その溶けてしまいそうな視線に体が火照った。
彼の鋭い眼差しはいつまで経っても慣れない。
胸の奥がどきどきして止まらなくなる。

「すき…だから」
「…………」
「はぁ、ん…大佐が大好きだから……ぼく……」

そっと指先で大佐の唇に触れる。
それから頬も、耳も、前髪にも触れる。

「気持ちがあふれちゃ…大佐のかおを見ると…すき、…すき…っ、て…………」

声に出すともっと情意が込みあげてきた。
もうだめ。

「全部…だいすき…」

目を見てしまった。
その瞳に捕われてしまった。
お腹の奥が熟れたようにぐじゅぐじゅだ。
人を好きになるって凄いことなんだ。
枯渇することなく気持ちが溢れて塞き止められない。
僕はほとんど力の入らない足を大佐の腰に回した。
そのままぎゅっとしがみつく。
離したくない。
この体全部僕のものにしたい。
一分一秒離れるだけで息さえ出来ない。

「んぅ、ぼく、末っ子だから…わがままなんですっ…大佐の、全部…ほし……たいさ…くださ…っ!」

僕は喘ぎながら大佐を求めた。
すると大佐は、僕の頬にキスをしてくれた。

「ああ…いいよ。俺は長男だ。わがままを訊くのは慣れている」

そう言って僕の手の甲から指先まで何度も口付けてくれた。
間近でそれを見つめ胸の高鳴りを抑えられずに恍惚とする。
どの角度からでも大佐の男らしい美しさは引けを取らなかった。
見惚れてしまう。
普段から格好良い大佐だけど、肌を重ねている時の大佐は格別に素敵だった。
匂い立つような色気はどこから来るのだろうか。
そんな人が今、僕の手に愛情いっぱい唇を這わしてくれている。
僕はうっとりと大佐を見つめて息を呑んだ。
その表情に大佐は柔らかく微笑む。
彼は、指先から手を離すと、

「むしろ君の我が侭なら何でも訊いてあげたい」
「ひぁ、あぁっ……!」
「俺を丸ごとくれてやる」

今度は唇にとびっきり甘いキスをしてくれた。
大佐の睦言が僕を酔わせて腰砕けにする。
あとはもうお互い言葉にならなかった。
欲望のままに荒淫した。
濃密な匂いが屋根裏に漂う。
二人とも体液まみれでべとべとだったけど、余計に興奮して飽きることなく貪った。
肉欲に耽る。
二人とも恋愛らしい恋愛をしてこなかったせいか、一度理性が切れてしまうと止められないみたいだ。
本能に振り回されて体力の限界までまぐわった。
僕は体の奥の奥まで大佐に犯されてしまった。
男なのに女の子みたいに気持ちよくさせられてしまった。
痺れるような快感の中、無我夢中で互いの体を掻き抱く。
すぐそばにある温もりに浸りながら、急かされるような焦燥の中で存在を確かめ合った。
満たしたい、満たされない。
あられもない格好で快楽を享受した。
僕は初めての経験だったのに、大佐に言われるがままその体に跨がって腰を振った。
どこをどう動いても気持ちよくて、大佐の鍛え抜かれた腹筋の上でへたばる。
そうすると彼は僕を起こすように下から突き上げた。
内蔵まで押し上げられたような刺激に身悶え、弛緩しきった表情を晒す。
こんな間抜けな顔見せたくないのに、大佐に命令されると訊いちゃうんだ。

「そんないやらしい顔をしてどうした?」
「らっ…て、たいさが…僕のお尻にっ…いっぱいだすから…ぁ…」

結合部分は粘液が泡立って淫らな音がしていた。
恥ずかしくて隠そうとすればその手を掴まれる。
ぐいっと引っ張られて前のめりに倒れると、いっぱいキスしてくれる。
僕が甘えるように寄り添うと、大佐の手が背中に回って、つつーっと掠めるように指先で撫で上げられた。
その刺激に僕は益々えっちな顔で喘いでしまう。
普段なら店を切り盛りしているような午前中に僕と大佐は内緒で卑猥なことをしているんだ。
そう思ったらたまらなくて、腸管を締め付けてしまう。
余裕なんかなかった。
大佐のやることなすことなんでも気持ちいい。
触られた部分も全部、全部、蕩けてしまう。

「…っひぅ、大佐だから……すきな人に触られるのっ…きもちい…!」

ずっと大佐に触れたかった、触れられたかった。
密かにそんなことを思って想像していたけど、実際にこんな気持ちいいなんて知らなかった。
このままばかになっちゃうかと思った。
そう言うと大佐は頬を赤くしてもっと激しく突いてくれる。
こんなんじゃベッドでやっているのと変わらないんじゃないかと思っちゃうけど、二人とものめり込んでいて気付かなかった。
溺れている。
浅ましいくらい互いの体に溺れている。

「ん、ふぅぅ……!」

ああ、またクラリオン大佐が僕の腸内で射精してくれた。
熱いのが内壁にかけられてしまった。
僕も気持ち良くて絶頂に達する。
今日だけで何度イったのか分からない。
僕のお腹の中を精液まみれにされてしまった。
手で腹を擦りいやらしい気持ちになる。
(ふぁ、気持ち良さそうな大佐の顔も可愛い)
大佐も達した余韻で呻くように顔を歪ませていた。
いつも厳しい表情ばかりの彼が堪えるように唇を噛み締めている。
(そんなに僕のお尻きもちい……?)
だったらいつまででも使っていて欲しい。
望んでくれるのなら、いつだって差し出せる。
こんな大佐の顔を見られるのなら壊されても構わない。
必死な腰使いとか、熱を帯びた眼差しとか、普段では決して見られない大佐の顔に萌えていた。
僕だけがこんな顔を見られるのかと思うと、無性に愛しくてついまじまじと見てしまうのだ。
すると大佐は僕の視線に気付いて照れたように抱きしめてくれる。
顔を隠すためだと思うと益々愛しくて勝手に口が緩んだ。
すると今度は仕返しにがんがん突かれてしまった。
僕が足腰立てなくなっていても構わなかった。
激しいくらいの愛情に包まれる。
二人はそうして眠りにつくまでの間、乱れに乱れた。
痴乱の限りを尽くした。
始めあれだけ硬く閉じられていた僕のお尻は、何度も大佐の大きな男根を咥え込んで緩くなっていた。
中出しされた精液を垂らし、いつまでもひくひくと男を誘い続けた。

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