3

「へへ、暖かい」
「うん」
「でもちょっとお酒くさい」
「うん」

俺は目尻に残った富雪の涙を拭いとる。
それに対して彼はくすぐったそうに身を捩った。
腕の中でケラケラと笑う少年はこうしてみるとただの子供で無性に愛しくなる。

「指先が冷たくなってる。寒い?暖房つけようか?」

彼の指は氷のように冷たくなっており、霜焼けが出来てしまいそうであった。
俺はその手を両手で包むとハァっと息を掛ける。

「あ、それともまだサンタの仕事が残っているのか?」

チラッと腕時計を見るともう午前四時を回っていた。
この時期は日の出も遅くまだ辺りは暗い。
しかし時間的に見れば明け方といってもいいだろう。
そろそろこの辺にも新聞配達がやってくる。

「うんと、このそりは一般人には見えないから大丈夫」
「え?」
「それに今年のお仕事は全部終わったから平気だよ」

まるで俺の聞きたかったことを汲む様に富雪は笑った。
そして一旦俺の元を離れるとベランダにいるラッキーに何か話していた。
しばらくすると富雪が戻ってくる。
それと同時にベランダにいたトナカイ達はラッキーを連れて空中を滑るように走り去っていった。
まだ暗い夜空にベルの音を響かせてそれは遠くへ消えていく。

「いいのか?」
「うん。先に家に帰ってもらった」
「え…?」

それって――、と思わず淡い期待を抱いてドキッとした。
だが目の前の少年はもっとドキドキしているのか顔を赤らめていた。

「あ、あの…」
「うん?」
「おお、オレ…サンタだから、その」
「だから?」

富雪はもじもじしながら自分の服を掴んでいた。
先ほどから「あの、その」を繰り返している。
俺は寒いだろうと思ってとりあえず側にあるエアコンのリモコンでスイッチを入れた。

「プレゼントをあげようと思ってっ!」
「は?何を唐突に」
「だ、だっだからプレゼントなんだってばっ」
「意味が良くわから…」

「おお、おっオレをプレゼント――……なんちゃって」

どうやら本人も物凄く恥ずかしかったらしく最後の方はヤケクソな口調であった。
“なんちゃって”に茶を濁すような苦しさを感じる。
だが言われた方といえば口をポカンと開けるだけだった。
(ちゃんと意味が判って言っているのだろうか)
邪な気持ちが芽生えてしまうのは俺が健康男児である証拠だ。
しかし普段から誘うような素振りを一切しない彼がそんな大胆な誘い文句を言うのだろうか。
俺は意思確認をするように再度富雪を見つめる。
相変わらず富雪は顔を真っ赤にしてもじもじしていた。
服の端を掴む手に力が入っている。
泳がせた目には彼の並々ならぬ覚悟と羞恥が感じられた。

「ぷっ」

だから悪いと思いつつ吹き出してしまった。
つい思い浮かんだのはリボンぐるぐる状態で「私がプレゼントよ」と言われる男にありがちな妄想であった。
いざ、実際に言われて見ると中々面白いものである。
もちろん相手が富雪であるから尚の事面白さに拍車を掛けていた。

「な、なんだよっ。人が恥ずかしいのを堪えて言ったのに!」
「いや、だって…あははっ、悪い。でもお前そんなキャラじゃないだろ」
「むー」

可愛らしいミニマムサンタにプレゼントなんて言われた日には笑わずにはいられなかった。
だから富雪が頬を膨らませているのに笑ってしまう。

「っていうか俺、今年で29歳なんですけど」
「あ、そ、それは」
「子供じゃなくてもサンタからプレゼント貰えるの?」
「あーーうぅっ」

どうやらそこまで考えていなかったのか富雪は言葉に詰まってしまった。
むしろ富雪はあの台詞をどうやって言おうかとそればかり考えていたに違いない。
それを判っていて俺も子供相手に意地悪な質問をぶつけたもんだ。

「なんだよっ。いらないのかよっ」

結局富雪は逆切れのような形でしか言い返せなかった。
それが余計に可愛いと思ってしまったのはそろそろ危ないのかもしれない。
というより、もうすでに戻れないと思う。

「…ううん、欲しいよ」
「あっ」
「欲しい」

俺はそっと彼の頬を手で包んだ。
むくれて膨らんだ頬は柔らかくて暖かい。

「全部欲しい」
「!!」

そういって顔を近づけると富雪の顔はさっき以上に赤く染まった。
だが口元の緩みが抑えられないみたいで顔を背けようとする。
俺はそれをいいことに彼の頬にキスをした。
無防備だった首筋までをなぞるように唇を這わす。

「ん、ふっ…」

すると富雪は鼻に抜けるような甘ったるい声を放った。
僅かな力で俺の体を押し返そうとする。
だからその手を逆に引き込むと腰を抱いた。

「えっ…!んんっ、はぁ…っ、ちゅ…」

その強引さに富雪は驚きを露にする。
だが開いた口に躊躇う事無く口付けると後はくぐもった声しか出てこなくなった。
初めは肉感的な唇の感触を楽しみながら角度を変えて押し付ける。
そのうちそれだけじゃ満足できなくて唇を甘噛みした。
すると富雪は少しだけ口を開ける。
俺はそれを狙っていたように彼の咥内に舌を滑り込ませた。

「んぐっ…ふぁ、ん、んんっ…んぅっ」

ねっとりと舌を絡ませて富雪の反応を見る。
だが彼は体を硬直させていいように蹂躙されていた。
まつ毛が緊張と羞恥に震えている。
押し返そうとしていた手も飾りでしかなく力を失っていた。
くちゅっと卑猥な水音が静かな部屋に木霊する。
こんな時間だからか、外からは何も聞こえてこない。
唯一の音といえば先ほどつけたエアコンの送風音だろうか。
富雪は一生懸命俺のキスに合わそうと舌を動かした。
それはぎこちなく戸惑っている様子が手に取るようにわかる。
だが俺は手を緩める事もなく彼の咥内を犯した。
何度も噛み付くようなキスを繰り返す。
滴り落ちる涎にお互いの口元が汚れた。

「ちゅ…っ…はぁ、はぁ…」

最後に軽く唇を重ねるとようやく拘束を解いた。
若干酸欠気味だった富雪は目を潤ませて熱っぽい眼差しで俺を見る。
唇は唾液で濡れ妖しい光沢を放っていた。
だから飽きずに顔を近づけると再度口付ける。
富雪は促されるがまま静かに目を閉じると俺のキスを受け入れた。
それがたまらなく可愛く見えてまた深く交わろうとする。
腰に回した手を彼の後頭部に回すと押し付けるように引き合わせた。
そしてもう片方の手を太ももからお尻までのラインを辿らせる。

「んんっぅ…くちゅ、はぁっ…」

背伸びをしていた富雪はその刺激に体をぐらつかせた。
だから俺は側にあったテーブルに彼を押し倒す。
もちろん唇を重ねたまま。
富雪の体は軽く人形のように操ることが可能であった。
今の彼はキスだけで手一杯のようで他の事に気が回らない。
だからいいように体を許してしまう。

「ん、ひどいっ…」
「なんで?」
「だって…んぅ、ちゅ…やっとキス出来たのにっ…んん、ひさしっ…ぶり、だった…のにっ」
「なに?富雪はこういうキス嫌いなのか?」
「はぁっ、そうじゃないけど…」

否定する割に顔では不満ですといった表情をしていた。
だから俺は苦笑しながら額に口付ける。

「むぅ。そんなキスで許してもらおうなんて。オレはだまされないぞー」
「なんだそれ」

そういっているクセに嬉しそうに見えるのは俺の勘違いなのだろうか。

「だってクリスマスだよ?雪一さんは冷めてるから分からないんだろうケド、ロマンチックな夜なの!」
「はぁ」
「がっつくようなキスじゃなくて。もっとこう、あまぁいキスとか気の利いた言葉とか雰囲気とかなくちゃ駄目なの。まったくもう」
「そんな恋する乙女でもあるまいし。っつーかどこでそういうの覚えてくるんだ?ませ過ぎだぞ」
「もーばかばか」
「いてっ」

すると脇腹を蹴られた。
押し倒している分俺の方が有利だと思っていたが意外な弱点を突かれて顔を歪ませる。

「やれやれ。足癖悪い子はお仕置きするしかないな」
「なっ…ちょっ、ひゃぁ…ドコ舐めてっ…んぅ」

俺は富雪の足首を掴むと赤い半パンから覗いた足を舐めた。
膝下から太ももまでを見せ付けるようにねっとりと舌を這わす。
もちろん富雪は暴れたが所詮子供の力である。
俺に敵うはずもなくもう片方の足首も掴まれて強引に股を開かせた。

「やぁっ…も、へんたいっ」

テーブルの上でM字に足を開かれた富雪は恥ずかしそうに首を振った。
そして顔を見られない様に手で隠してしまう。
だが見えた耳は虫に刺されたみたいに真っ赤になっていて彼が今どんな顔をしているのかすぐに判った。

「俺は回りくどいのが嫌いだ」
「ひっぅ、はぁ…く…」
「何を言ってほしいのかちゃんと言えよ」
「うぅ…」

すると手の間から泣きそうな瞳が見えた。

「やっぱりいじわるだ」

まるで恨み言のようにぼそりと呟かれる。
本当は知っているのだ。
彼が何を望み、何を言って欲しいのか。
だって俺も同じようにそれを求めている。

「すいませんね。昔から俺って好きな子を苛めるタイプだったもんで」
「うぅ、って…えぇっ…!?」
「何か文句でも?」
「なっ…はっ!…っぅ…」

思わずニヤッと笑うと富雪は少し悔しそうな顔をしていた。
さすがに彼の年齢では俺のしたたかな責めには敵うわけがない。
室内はそろそろエアコンが効いてきたのか暖かくなってきた。
だから俺は緩んだネクタイを強引に取ってワイシャツのボタンを外す。
富雪から目を放さずに一つずつボタンを外していくと彼は照れているのか目を泳がせた。
何度かセックスをしていようとも、こういった部分は慣れず初々しいままである。
だから余計に苛めたくなるのだが、それを言うと今度こそ完全にヘソを曲げられそうでやめた。

「好きなんだ」
「…っぅ…」
「お前がサンタだろうが男だろうが関係ないんだよ」
「ゆ、雪一さ…」
「好きになっちゃったんだから仕方がないだろう。違うか?」
「ううん、違わない」
「ならちゃんと顔を見せて。ちゃんと好きって言わせて」
「ん」

そう言うと富雪は大人しく手で隠していた顔を見せてくれた。
恐る恐る見上げた瞳には未だに不信感が垣間見える。

「――んで、これで満足?」

俺は体を倒すと耳元でぼそっと呟いた。
今度は手で顔を隠されないように先手をとったままで。

「なっ、騙されたっ!」
「おいおい。それはさすがに人聞き悪くないか?」
「だって…っんぅ、またっ…キス、ちゅ…っぅ…んんぅっ…」
「シッ。ちょっとは黙ってろって。ん、ふ…たっぷりあまぁいキス…してやるから」
「くぅっ…ふっ…はぁ、ん…」

彼の抗議も虚しく闇へと消えていく。
続きのキスはご要望通りシロップよりもずっと甘くしてやろう。
なんて余裕を見せたかったが俺だって普通の人間である。
好きな人を前にして落ち着いては居られなかった。
最初は啄ばむような優しいキスを繰り返していただけなのに止められなくなる。
結局俺達は唇が腫れあがるほど執拗な口付けを交わすはめになった。
甘んじて受け入れる富雪は俺から与えられる唾液をコクリと飲み干す。
キスをしているだけなのにテーブルは軋んで揺れていた。
俺は固くなった性器を彼に押し付ける。
富雪のそれも同じように固くなっていた。
その感触に唇を重ねながら笑ってしまう。

「ん、ぷはぁ…」

ようやく唇を放した時には涎が糸を引いて行為の激しさを見せ付けた。
富雪は呼吸をする事でいっぱいいっぱいだったせいか文句を言ってこない。
だから俺は彼の口元に手を添えると指先で優しく涎を拭ってあげた。

「な、甘かっただろ?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「富雪?」
「はぁ、はぁ…いっつも雪一さんは…余裕があるんだ」
「は?」

すると富雪は突拍子もないことを言い出した。
そしておもむろに起き上がると俺の胸元にもたれる。

「おればっかりドキドキしたり悲しくなったりして…なんか不公平だ」
「不公平って言われてもなあ」

さすがに年の功としか言いようがない。
むしろ二人でわたわたしていたらそれこそ恋愛は成り立たないと思う。
だが富雪の言いたい事も十分判っているつもりだ。

「富雪はさ、自分ばっかりって言っているけどそれは違うんだよ」
「なんで?だってさ」
「いいからちょっと話を聞いて」
「む」
「富雪からサンタの話を聞かされて、24日一緒に過ごせないって聞いてどれだけ俺が悩んだかお前、知らないだろ」
「それは…」

プライベートから仕事に逃げたのも、自宅で一人寂しくヤケ酒をしたのも初めてだ。
いや、それをいうなら彼と付き合い始めた時も非常に悩んだ。
そういった意味では幼い富雪より抱えているものも大きくて厄介だったから苦しかったのだ。
何も知らずに愛だ恋だといえる年齢でもなければ環境でもない。
世間から見れば立派なショタコンであり犯罪者であることからは逃れられないのだ。
それでもこの少年を選んだのは俺自身であり、それが責任というものだと思っている。

「それに今日だって会社帰りに富雪の家に行ったんだ」
「えっ!?」
「居ないって判っていても会いたかったから」
「雪一さんそれ本当?」
「バーカ。こんな格好悪い嘘つけるかっ」

本当は情けない男なんだ。
こんな子供に骨抜きにされている自分が許せなかった。

「もうね、本当…嫌になるぐらい富雪さんにはめろめろ状態なんですわ」
「!!」
「好きすぎて頭がおかしくなりそう」
「…っ…」

すると富雪は俺の首に手を回して抱きついてきた。
だから俺は受け止めるように背中に手を回す。
肩口に顔を埋める富雪は強く俺にしがみ付いてきたんだ。

「おれも好きっ」
「富雪」
「すっごい好き!雪一さん大好きっ。世界で一番好きっ」
「だぁ、もう。余計に煽るようなこと言うな。ばかたれ」

だけどお互い離れる気にはならなかった。
二人で交互に「好きだ」と呟きあう。
それがくすぐったくて幸せな気持ちになるから安いカップルだと思う。
むしろ中学生レベルって感じだろうか。
だが体はとっくに密の味を知っている。
だから俺はテーブルの上に座ったままの富雪を抱っこした。
丁度俺の首に手を回していたお蔭で楽に持ち上がる。

「…ベッドに行こうか」
「っ…、ん」

それがどういう事なのか知っている富雪は肩口に顔を埋めたまま小さく頷いた。
心持ちか部屋が暑くなった気がする。
それは俺自身が緊張と興奮で体温が上がっているせいなのかもしれない。
俺は抱っこしたままゆっくりとリビングを後にした。
富雪も緊張しているのか体が強張っている。
お互いに無言なせいか余計にドキドキして心臓が爆発してしまいそうだ。
一ヶ月ぶりのセックス。
特にここ二、三週間は会うことすら許されていなかったのだから尚の事自分を止められそうになかった。

――ギシッ。

寝室に着くと富雪をベッドの上におろした。
その反動にスプリングが軋むと静かに彼の体を離す。
そしてベッドサイドの明かりをつけるとおぼろげな彼の姿が視界に入った。
思わず唾を飲み込む。
このまま一気に襲ってしまいたい衝動に駆られるがギリギリの理性によってそれは繋ぎとめられる。
ホント、余裕がなくて馬鹿みたいだ。

「その服は協会からの支給品?」
「うん」
「じゃあ汚しちゃまずいか」

俺は優しく丁寧に富雪の服を脱がしていった。
真っ赤な上下は所々に白いボンボンが付いていて、手触りが気持ちいい。

「ん…」

捲れた服の隙間から少年の白い肌が露出していく。
ベッドサイドの白熱灯は彼の影を妖しく映し出した。
恥ずかしそうに顔を背ける姿は愛くるしくて顔が緩む。

「あ…んぅ…」

俺が触れる度に彼は甘い声を漏らした。
口を手で押さえながらも隙間から零れた声に誘われて体が熱くなる。
上着とズボンを脱がすと富雪の白いブリーフが目に入って来た。
その中はもう熱く主張を始め、布に少しばかりの染みを残していた。

「んっ…」
「雪い…ちさ…っ」

俺は富雪の両手を頭の上で纏めると脇腹から脇の下までを沿うように舌で舐める。
すると富雪は体を震わせて悶えた。
ひと際強くなった嬌声だが手を休めず舌で愛撫を繰り返す。
唇と舌を使って器用に彼の体を味わった。
下半身をもじもじさせる富雪は涙目になりながら俺を見つめていた。
だから俺は乳首を強めに噛む。

「ひゃぅ!!」

それに驚いたのか富雪の腰が淫らに浮いた。
ベッドが大きく上下すると軋んで彼の体が深く沈む。

「おいおい。どっからそんな声出しているんだよ」
「んっ、知らな…っ」
「お前ホントに男か?」
「う~」

富雪の喘ぎ声はどんどん艶を増した。
正直、声だけで抜いてしまえるほどの色気が加わった。
なんて事はもちろん情けないから本人には言わない。
それにここまで育てたのが俺である事実が単純に嬉しかった。
基本的に男はかの源氏物語でいう光源氏を夢見るのである。
紫ノ上の様に一から全てを教えたい、俺色に染めたいなどと馬鹿げた事を思うのである。
それが男のロマンと一括りにするのは問題だが憧れる男は少なくないだろう。

次のページ