5

「……はぁっ、こんなっ……こんな……っぅ」

キツク締めたふんどしに勃起したちんちんが苦しかった。
お尻の穴を指で擦るたび身体は引き付けを起こす。
そこは信じられないほど敏感になっていた。

「……はぁっ……もう、たまんねぇ……」

おじさんの荒い息遣いが耳に響く。
僕の口元を汁が滴れていくが気にも止めずおじさんの味を堪能していた。
この雄らしい匂いが喉に絡みつく。

「おいし……っおじさんっ、もっと……ふぅ……」

自ら貪欲に求めて欲しがった。
吸い付いてもっともっと、とせがむ。

「ばっ! ……そんな吸ったらっ……っう――!』

するとおじさんの動きが一瞬止まった。

「んぐうっ!?」

その代わり性器の先端から大量の液体が流れ出る。
ぴゅっぴゅっと飛び出した汁は喉ちんこを掠め口の中に独特の苦みを残していく。

「げほっ、げほっ……」

飲みきれない程に出されて僕は咳き込んだ。
その間に彼の精液は僕の胸や顔を汚していく。

「…ふはぁあ…」

僕はペタンとお尻を付いた。
大量の精液を浴びせられ恍惚とする。
指で胸元の精液を掬えばネバネバした感触が胸をくすぐった。

「……これがおじさんの……」

もったいなくて体中に付いた精液をすくい取って舐めた。
苦くて粘っこいが関係ない。
うっとりしながらその行為を続けているとおじさんの喉がゴクリと鳴った。

「お前、それは反則だろ」
「わわっ!?」

ぎゅっと抱き締められて、そのまま押し倒される。
見上げたおじさんの顔はさっきより切なそうだった。

「はぁっ……おじさ……」

こんなにも密着してるなんて信じられない。
彼は力任せに着物を崩していく。
帯が解ける頃にはほぼ全裸に近い状態だった。

「っ……ん、はぁ、あぁ……っ」

おじさんは僕の身体を舐め回す。
器用に動く舌先はじっくりと僕の身体を味わうようだ。
まるで“愛してる”って囁かれているような愛撫にときめく心は止められない。
恥ずかしくて消えちゃいたいのに感情は餓え乾ききっていた。

「んっ、これが真白の……」

「……ひゃぁ、うっ!!」

するとおじさんはねらいをお尻の穴に定めた。
緩くなったふんどしを解いて禁断の穴に触れる。

「嫌ですっ……っこんな羞恥っ……僕には耐えられ、な……!!」

先程とは違う。
おじさんの目の前に僕の穴をさらけ出していた。
指で弄ばれたそこは抵抗なくおじさんの舌を受け入れる。

「……っう……こんなっ、恥ずかしい!!」

いまさら恥ずかしがっていたって可笑しな話だ。
先ほどまで人の性器をしゃぶり尽くした己が何を言う。
だが想像よりずっと恥ずかしい格好だった。
僕自身は自分の穴がどうなっているか分からない
だから余計に不安は積もる。
そうして敏感になった体は甘い吐息を残した。

「もっとよがれよ。……真白の声が聞きたい」

だけどおじさんは変わらなかった。
行為の激しさとは比べものにならない位優しいままである。
乱れていく僕をしっかりと受け止めてくれた。
だから安心して堕ちていくことが出来たのかもしれない。
僕の精神はもう限界まできていた。
耐えきれなくておじさんの手を掴む。
おじさんは首を傾げると胸元まで這い上がってきた。
だから彼の首に手を回す。

「……はぁっん……もう、欲しいです……」

それがパンドラの箱を開くスイッチだったということに、この時の僕は気付くことが出来なかった……。

「……真白、いくぞ……」
「はい……」

部屋の片隅で重なり合った僕達は今、その禁忌を犯そうとしていた。

「……くぅ、ぅっ……」

おじさんの性器は僕の中へと侵入を開始する。
その圧倒的な存在感に腰が抜けそうになった。
僕は歯を噛み締め耐えていく。
冷たい身体に熱が挿入された
その熱さに内壁が溶けてしまいそう。
むしろ焼け爛れた腸内とおじさんの熱が交ざり合えばいいのに。

「……はぁ、はぁ……おじさ……っ……」

僕は朦朧とする意識の中でずっと一つに溶け合える方法を探し続けた。

「はぁ、真白の身体も熱いな」
「そんな! ……おじさんは嘘吐きです……」

僕は口を膨らませる。
そして初めての夜を思い出した。
あの時、僕を抱っこして寝たおじさんは「暑がりだから」と言った。
僕の冷たい身体を気遣ってそう言った。
それから毎日僕と一緒に寝てくれたのだ。
だから僕は自分の身体の冷たさを忘れた。
それがそもそもの間違いだったと思う気持ちは拭えない。
今尚ズルズルと引きずり自身の神経をすり減らしている。

「ばかやろう。オレは嘘なんて付いたことない!」

だけどおじさんはこうやって僕の腕を引っ張り上げてくれた。
肥え溜めの中で蹲る僕を上へ上へとあげてくれる。

「………真……白……?」
「――……ぁ……」

気が付いたら僕は泣いていた。
ポロポロと涙が流れ落ちる。
それは僕自身の意志なんて関係なかった。

「どうした?」
「ひっぅ……っ……ごめんなさ……っ……ふ……」
「なんでお前が謝る?」

どうしても涙は止まらない。
今泣きたいワケじゃない。
おじさんを困らせたくない!

「おじさ……ヒック、おじさんっ……ふぇぇ……」
「よしよし。もう泣くな」

おじさんはお尻から性器を抜くと僕を抱き上げた。
膝の上に抱かれて泣き続ける。
自分がなぜ泣いてるのかわからなかった。
おじさんとひとつに繋がって夢みたいに幸せなのに目の前の色彩は色褪せていく……。
言うなれば夢の終わりとはこんな感じなのだろうか。

「……っふ……く、ひっぅ……く……」

おじさんのワイシャツしがみつく自分が滑稽に見えた。
もうだめなんだ……。
僕は自分で限界を悟る。
開いた扉を閉じるのは不可能。
だけど僕は勘違いしていた。
これはあくまで僕側のお話。
おじさんがこの時何を考えていたのか想像もつかない。
だって僕は出来損ないの座敷わらし。
彼を不幸にすることしか出来ない妖怪。

「オレ、馬鹿でごめんな……」

おじさんは小さく僕に呟いた。
今も鮮明に覚えている。
彼の身体が僕以上に震えていて……。
この日を境におじさんは僕の作ったご飯を食べなくなってしまった。

***

「……はぁ……」

僕がおじさんと蜜の行為をしてから三週間経った。
そして彼が僕の料理を食べなくなってからも三週間経つ。
おじさんは自分の分のご飯は作らなくていいと言った。
僕は何度も問い掛ける。
「なぜ?」って。
だけど曖昧な答えを繰り返されて僕は悟ったんだ。
……嫌われてしまったんだって。
その割に僕には腹一杯食べろと言ってくれるし、優しく接してくれる。
もうあんな行為をしてくることはないが拒絶することもなった。
だからこそわかってしまったんだけどね。
おじさんは美しい魂の持ち主でありとても優しい人。
だからきっと他に恋人が出来たんだと思う。
あんな素敵な人をほっとくとは思えないし。
そうすれば辻褄が全て合った。
……唯一、あの行為以外は。

「もー、僕のバカ!!」

今だに忘れられず身体は疼きを残したままだった。
おじさんに触れられた場所は熱を帯びている。
あの性器の味も、貫かれた圧迫感も忘れる事無く留まり続けた。
僕が泣いたせいで途中で終わってしまったのに……。
思い出すたび後悔は膨れ上がって自己嫌悪した
もしあの時おじさんと結ばれていたなら違う未来になっていたかもしれない。
浅はかだと笑われてもそう思ってしまうのだ。
こればかりは止められない。

「あーあ」

僕はどうすればいいのだろうか。
このままここに居続ける苦痛に耐えられない。
でもこれが僕の罪と罰なのだろう。
僕は神様に背を向けてしまった。
地獄に落ちるより辛い仕打ちである。
これなら地獄の業火に身を焼かれたほうがマシだった。
今は身体が引き裂かれそうなほど心が痛むのだから……。

「……仕方がない……か」

僕は立ち上がるとお尻を叩いた。
砂汚れを弾き飛ばす。
こうなればヤケクソだった。
さっさとおじさんを幸せにして立ち去ろう。
それが僕に出来るたったひとつの恩返しだった。
(こんな大切な気持ちをありがとう)
きっと後にも先にも僕を人間扱いしたのは彼しか居ないと思う。
十分人間としての生活を楽しませて頂いた。
その恩だけは忘れたくない。

僕は遥か遠くの夕日を目に焼き付けるように見つめた。
そろそろ一番星が輝きだす時間帯だ。
一日の中でほんのわずかな時。
淡いオレンジが群青に溶けていく。
僕はその様子を瞬きもせずに見続けると空へと飛び上がった。
僕は静かにおじさんの会社に降り立った。
もしかしたらおじさんの恋人も見れるかもしれない。
そう思った僕は慎重におじさんを探した。

「……あれ……?」

だけどおじさんのデスクは空席のままだった。
カバンがあることから外回りに行ってないことは伺える。
じゃあお手洗いにでも行ったのだろうか。
そう思ってトボトボ社内を歩き回ってると第三会議室というプレートの部屋から聞き慣れた声が聞こえた。

「オレはいいんだよっ!!」

何やら声を荒げている。
僕は天井から顔を出すと会議室の様子を覗き見た。

「何がいいんだよ。お前、もっと俺たちを頼れって」
「だからいらねぇってば」

会議室にはやっぱりおじさんがいた。
声を荒げるなんて珍しい。
一緒にいるのは同僚の男性か。
たしかおじさんとよく飲みに行ったりしてるらしく母校も一緒だと言っていた。
僕はちゃっかり聞き耳をたてる。

「あのなー。ほっとけるわけないだろ! 一体いくらだと思ってるんだ」
「うるせえ。オレが勝手にやったことだ」
「だからさー。そうじゃなくて……」

男はそういって頭を掻き毟る。
どうやらさっきから会話は平行線のまま続いてるらしい。

「だってこのままじゃ彼女だって」
「だからオレのことはほっといてくれっ!」

急にまたおじさんは声を荒げた。
まるで“彼女”という単語に反応するようだ。
やっぱり彼女がいるんだ。と思いながら僕は痛む胸を押さえ付ける。
おじさんの怒号に静まり返る室内。
だがそれは一瞬。

「だからほっとけないって言ってるんだろ!」

男まで声を荒げた。

「お前は昔っから人が良すぎるんだよっ! だから騙されて乗せられて1000万なんていう借金作ってんだろ!」
「――えっ!?」

つい驚いて声を上げてしまった。
僕の声は会議室に響き渡る。

「真、白!?」

見上げたおじさんは僕を見つけて目を見開いた。
その様子に尋常じゃないことを知る。

「ん、どうした? 薫」

男にはもちろん僕の姿は見えていない。
だから急に態度が変わったおじさんを怪訝な目で見つめた。

「……いや、なんでもない」

おじさんは慌てて男の方を向き直す。

「悪い。ちょっと一人で考えさせてくれ」

彼はそういうと同僚の男を会議室から追い出した。
僕は申し訳なくて俯く。
だが、おじさんに1000万なんていう借金があることを知らなかった。
……一体いつから?
僕はおじさんの後ろ姿を見ながら頭を抱える。
するとおじさんは僕に声をかけてきた。

「おい……もう降りてきていいぞ」

そう言って手招きをしている。
僕は思わぬ事実に動揺を隠せないまま会議室に降り立った。

「あの、借金って……」

恐る恐る声をかける。

「んー。別にちょっと知り合いが困ってて、株を買ってやったら見事に暴落したってだけで――……」

おじさんはわざとおどけたように言った。
それが妙に痛々しい。

「……いつから……ですか?」
「暴落は三週間位……前かな」

おじさんは言いづらそうに目を逸らす。
僕は彼の言葉にフラッシュバックした。
三週間前といえばあの行為の頃だろう。
たしかにあの日のおじさんはどこか違って見えた。
でも……。

「……なんで僕に教えてくれなかったんですか……?」

思い知らされたのは疎外感と無力感だけである。
僕はこの三週間何も知らず生活してきた。
彼が一人悩み苦しんでいたのに。

「これじゃ、僕は完全な……道化じゃないですか……」
「真白……」
「僕は貴方を幸せにするために現れたのに……なのに……」

まるで僕の存在を全否定されたようなものだ。
彼は僕を必要としなかった。
祭り上げられた道化そのものだったのだ。

「ひっぅ……そんなに僕が邪魔ですか……?」
「違っ!」
「……もう……十分です」

頬をたくさんの涙が伝う。
決別の涙だったのだろうか?
溢れる涙を拭うこともせず虚ろに視界の先を見る。

「待てよっ!!」

するとおじさんは宙に舞う僕の着物の端を掴んだ。

「待っ――……!」

だが掴んだのはほんの一瞬だけである。
まるで糸が切れた人形のようにおじさんの身体は崩れ落ちた。

「おじ……さん……?」

目に映るのは力無く倒れた彼の姿。

「おじさ、おじさんっ!?」

僕はおじさんに駆け寄るとその身体を激しく揺さ振る。

「ねぇっおじさんってば!」

だが一向に彼の意識は戻らなかった。
僕は白い病室の隅で一人立ち尽くしていた。
静かな病室は物音一つしない。
あるのは小さな点滴と未だ眠り続ける男の姿だけである。
――あのあと会議室で倒れたおじさんに僕は周囲の人間に対して虫の知らせを飛ばした。
それに気付いたのかさっきの同僚が戻ってきた。
そこで倒れた彼に気付く。
同僚の男性は急いで救急車を呼んでくれた。
運ばれた先は近くの総合病院だった。
……そして彼は今も眠り続けている。

ガラガラ――。
不意に扉が開いて白衣を着た人間が入ってきた。
同僚の男性も一緒に。

「……ん?」

よく見れば白衣を着た医師も見たことがある顔だった。
そこで僕はようやく気付いた。
初めて見に行った飲み会にいた友人の一人だったことに。

「薫はただの過労と栄養失調だ。目を覚まして栄養のつくもんでも食わせれば元気になるよ」
「そっか、良かった~」

男は安心しきったように座り込む。
だがそれを見て医師は顔を曇らせた。

「でも薫のヤツここ何週間もろくなもんを食ってないみたいだ。……やっぱり借金のせいか?」
「はぁ。絶対そう。今日もその話をしてたんだけどアイツってば頑固だからさ」

そう言うと病室内に二人分のため息が漏れる。
男は頭を掻くと寝ているおじさんを覗き見た。

「昔っからコイツは人が良すぎるんだよな。お人好しで人を疑うことを知らないっつうか……」
「まったくだよ」

そういって今度はお互い苦笑いを浮かべる。
僕は二人のやりとりを見ながらキツク手を握り締めた。
おじさんは僕にはしっかり食べろと言ったんだ。
自分は忙しいから買って食べる。
だからお前はしっかり食べろって……。

「……ひ……く……」

きっと自分の分の食費を僕に使ってくれていたんだ。
何も知らず甘えていた自分が情けない。

「ばかだよ、おじさ……。僕は食べなくても平気だって……言ったのに……」

思い出せば最初からそうだった。
僕にお茶を出してくれて……。
それで僕がご飯を食べたことないと言えば、自分のお茶も飲まずにおかず類を買ってきてくれた。
「好きなだけ食べろ」って笑いかけてくれた。

「ひっぅ……っく……おじさ……」

僕は泣きながらおじさんの前に立つ。
ポロポロと流れた涙は白い着物を濡らしていった。

「あっ、やべ! 俺会社に一旦戻らなきゃ」

すると僕の向かいに座っていた男が腕時計を見て立ち上がる。

「そうか。まぁ、薫のことは心配するな。何かあったら連絡する」

医師はコートを羽織る男を見ながら微笑んだ。
すると男は何か思い出したのか動きを止める。

「そういえばお前、薫の彼女の連絡先知らない?」
「……は? 薫に彼女なんか……」

そういって医師は首を傾げる。

「いや~。それがいるみたいなんだよ」
「ホントか?」
「だって薫ってばここ何ヶ月か特別な接待以外は真っすぐに家に帰っちゃうんだぜー! あの付き合いの良い薫がさっ」

そういってクスクス笑う。
医師はあからさまに驚くとおじさんとその男を交互に見た。

「イメチェンもしたし、もしかしたらって社内中噂になったんだけどさ」
「……けど?」
「肝心の薫は答えてくれないし。……それに一緒に暮らしてるとしたら今頃、彼女が心配してるだろー?」

男はマフラーを巻くと医師と一緒に出ていく。
僕は茫然としながらその話を聞いていた。

「なんなんだよ……」

これじゃ、彼らの言う“彼女”は僕になってしまう。
たしかにおじさんはすぐ帰ってきてくれた。

「……もう、ばか……」

食事のことといい、彼女のことといい肝心のおじさんが目を覚まさなければ意味がない。

「……おじさん……」

僕はおじさんの手を両手で握り締めた。
これは神に願うときのポーズ。
ねぇ神様。
どうか彼に有り余る財産をお与え下さい。
どうか彼に美しく優しい女性をお与え下さい。
――そしてどうか僕の代わりに彼を幸せに導いてあげて下さい。

「……ひっ……く……っぅ……」

それでも願いは神に届かなかった。
それはおじさん自身がそれを望んでいないから。

「っ……これ以上、僕はどうすれば!」

願いさえ拒否されてしまえばどうしたらいいのだろう。

「……えっ……?」

すると握り締めた手が微かに握り返された。
僕は目を見開く。

「……だから……傍に居て……くれよ」

ふとおじさんを見れば、彼の瞳は開かれている。
おじさんは切なげに僕を見つめていた。

「……あっ……!?」

ぐいっと引き上げられ、僕の身体はベットに上がっていた。
おじさんはしっかり僕の腰を掴んでる。

「あっ、お医者さんを!」
「……そんなの……いいから……」

点滴をしている方の手まで僕に触れた。
そして静かに抱き寄せる。

「……いい加減気付けよ」
「えっ……?」
「オレの幸せには……金も名誉も、女もいらないんだってば……」

おじさんはそういって腰に回した手に力をこめた。
僕は前のめりになっておじさんに近づく。
鼻先が触れるくらい近づいて僕は顔を赤らめた。

「真白が居ればいい……」
「お、じさ」
「頼むからずっと傍に居てくれよ」

おじさんの声が切なさを増す。
擦れた声が胸を締め付けて身体の動きを止めた。
するとおじさんは首だけ伸ばす。

「んっ――……!?」

一瞬触れたのは互いの唇だった。
あまりに柔らかくて僕は目を見開く。

「力なんか使わなくていいから……だから、真白を愛してもいいか?」
「……っ……!」

突然の愛の告白に僕は驚いて身体を離した。
おじさんは少し悲しそうに微笑む。

「無理を言ってるのは十分承知の上なんだ」
「……」
『それにオレってば馬鹿でアホで甲斐性がないし、本当にどうしようもなくて……」
「おじさんのばかっ!!」

僕はおじさんが言いおわる前にかき消すように叫んだ。
そして今度は僕から抱きつく。

「僕は疫病神みたいな妖怪です」
「……うん……」
「本当は嫉妬深くて我儘ではしたなくて――……」
「うん……」

おじさんは今にも泣きそうな僕をなだめながら頷いてくれた。
その表情は慈愛に満ちていて仏のように映る。

「お、おじさんが大好き過ぎて一生離れられないかもしれない……それでもいいんですか?」

今度は僕が恐る恐る問い掛けた。
チラッと見れば彼の微笑みに息を呑む。

「真白と居られるだけで幸せなんだよ……」
「おじさ……」
「だからさ、ずっと一緒に居よう?」

少し痩せたおじさんは信じられないぐらい優しく微笑んだ。
そして僕の指先にキスをする。
本当はもっと沢山言いたいことがあって、もっと沢山考えなきゃいけないことがあった。
それでも何も考えられないほど目の前にいる愛しい人に夢中だった。

「……愛してる……」

神様。
どうか罪作りな僕を許して?
必ず償うとお約束いたします。
だからどうかこの儚い時間だけ禁忌を犯すことをお許しください。
僕はどうやらこの人を好いてしまったようです。
ああ、母なる神。
僕らの幸せをお許しください……。
裁きなら僕がいくらでも受けますから。
(……だからどうか、神よ)

***

――それからおじさんが退院したあと不思議なことが起こった。
なんとおじさんに借金を作らせた株が一気に急上昇したのだ。
それは明らかに人知を越えた力である。
おじさんは僕がやったのかと問い詰めてきたが僕じゃない。
むしろ僕のほうが不思議に思っていた。
これはきっと神様からのご褒美なのだろうか?
おかげで借金はおろか十分有り余るほどの富を得たのだ。
……だけどおじさんは変わらない。
今もあの古びたアパートの一室で生活している。
食事はもちろん僕の作る質素な日本料理だ。
それでも僕らは幸せだった。

「…あっ……んん、おじさっ……!」
「はぁっ、はぁっ……真白!」

僕らは小さな布団の上で交わりあう。
彼の大きな身体に抱かれて僕は喘ぎ声を漏らした。

「やぁっ、んん……ふ……っおじさ、激しす……ぎぃっ」
「そんなことっ、言われたって! ……くぅっ」

まるで床が抜けそうな程強く突き上げられて身体は快楽に震えた。
おじさんは飽きる事無く僕の冷たい身体を愛し抱いてくれる。
僕は受けとめきれないほどに愛されて窒息しそうなほど幸せに浸っていた。

「はぁっ、ソコっ……ゴシゴシ、擦っちゃ……だめ、んく!」

おじさんの性器は僕の中で暴れ回る。
滴り落ちる汗にお互い息を弾ませ手を重ね合わせた。
僕のお尻はおじさんに愛されるためだけに存在している。
それがたまらなく興奮を煽った。

「おじさ、おっきぃのっ!! ……お股っ熱くて……ぐちゅぐちゅなのっ!」

グリグリと突き上げられてしっかりとおじさんのペニスをお尻の奥に咥え込んだ。
おじさんは容赦なく奥の奥を突き上げる。

「もっ……そんな奥、突かれちゃったら……あぁっ……!」
「なんだ? ……イクのか?」
「あぁっ! ……だってっ、やだっ……いぢわるしないでっ……お願っ、ねぇ? お願い!!」

いよいよラストスパートに差し掛かって周囲を構わず貪欲に貪り合った。
布団は濡れてネチョネチョと水音が鼓膜を犯す。
そして見つめ合っては濃厚なキスを交わして愛を確かめ合った。

「あっ、もう無理なのっ……くぅ、出ちゃっ……一緒にっ一緒に……あっ、ひゃぁぁ――……!」
「……くっ……真白っ」

目の前が真っ白く染まってお腹の中が熱くなる。
この瞬間は何度迎えても鳥肌が立つぐらい感動した。
大好きな人に名前を呼ばれて、その腕の中で意識を失う。
いつも泣きそうになった。
今までこんな幸せを味わったことがないから……。

「大好きです……薫さん……」

彼に出会って初めて知ったんだ
――こんなにも人間は素晴らしい生物なんだって。
儚く尊い命。
神様は間違っていなかった。
彼ら、人間達を作ったことを……。

どんな人間も折り重なり合い支え合っている。
こんな優しい感情知らなかった。
なんて愛するべき生き物なんだろう。
なんて愛するべき人格なんだろう。
彼は讃えるに値する生命体だ。
僕はおじさんが死んだあとも変わらず生き続ける。
でもきっと忘れない……。
それは僕の長い人生の中でほんの束の間の休息なのかもしれないね。
でも僕は決して忘れないでしょう。
貴方が僕に与えてくれたのは返せないほどの揺るぎない愛。
生きている者達しか芽生えない感情。
それを貴方は十分に注いでくれた。
人間達は誰かに必要とされ誰かを必要としている。
それがこんな居心地良い関係なんて知らなかった。

……必要としてくれてありがとう。

僕は小さな座敷わらしだけど貴方に捧げます。
この、敬愛と誇りと愛しき生命達への讃歌を――……。

END